KADOKAWA Technology Review
×
10/9「生成AIと法規制のこの1年」開催!申込み受付中
中国テック事情:低予算で世界を狙う、中国発短編ドラマ
MITTR | FlexTV, Envato
Why Chinese apps chose to film super-short soap operas in Southeast Asia

中国テック事情:低予算で世界を狙う、中国発短編ドラマ

中国では1話2分の短編ドラマが人気だ。フレックスTV(FlexTV)は制作予算を低く抑えるため、タイやフィリピンといった国々の活気ある英語圏のクリエイティブ・コミュニティを活用している。 by Zeyi Yang2024.03.12

この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。

ティックトック(TikTok)は今やデジタルを語る上で欠かせない存在となっている。最終的に米国で禁止されるかどうかは別として(おそらく禁止されないだろう)、ティックトック のような短編動画は、音楽の消費方法から政治的メッセージの伝達方法まで、私たちの生活の大部分を変えてきた。

一部の中国企業は、短編動画が映画やテレビ業界をも再構築できると考えている。最近、私は中国の動画アプリについての記事を執筆した。中国では、1話あたり2分の短編で構成されたスマホ向けのドラマ・シリーズが人気を博しており、一部は米国進出を進めているという記事だ。

私が取材した人の表現を借りると、「ティックトック時代の昼ドラ(soap opera)」ということになる。1話あたり2分・1シリーズ90本ほどで構成されるのが一般的で、内容はしばしば単純なものである。愛、富、セックス、ミステリーをテーマにしたドラマチックな物語が低予算の作品を通して語られるのだ。驚いたのは、これらの短編ドラマは中国で多くの視聴者を獲得し、最大50億ドルもの市場を形成していることだ。

フレックスTV(FlexTV)はそうした中国企業の1つ。同社はこれらの番組は米国の視聴者にもアピールできると考えている。フレックスTVは、中国で成功した短編ドラマシリーズの翻訳や吹き替えをしているだけでなく、現地市場に適応するため、新しい作品を英語で撮影している。同社はロサンゼルスの一流映画産業を利用して、同地で撮影も始めている。

しかし、フレックスTVを取材して驚いたのは、この業界が中国と米国だけを相手にしているのではないという現実だった。具体的には、同社はターゲット市場および制作拠点として東南アジアを選んでいる。

中国のテクノロジー企業にとって、東南アジアはしばしば国内市場以外への進出の最初のフロンティアとなってきた。スマホ、電子商取引、ゲーム、そして電気自動車(EV)さえも、世界進出の足がかりとしてまず東南アジアへ輸出することが多い。

東南アジアも中国の文化輸出に強く反応する。テンセントやバイドゥ(Baidu:百度)といったハイテク大手が自社のストリーミング・プラットフォームを国際化しようとしたとき、唯一、一定の成功を収めることができたのがこの地域だった。そのため、フレックスTVがアプリをリリースする最初の国の1つにタイを選んだのは驚くことではなく、これまでにもタイ語でかなり多くの番組を制作している。

同社はまた、世界的な英語圏市場向けのコンテンツも現地で撮影している。

エレン・ケレチはフィリピン在住の30歳のトルコ人俳優だ。2022年末、彼はマニラの南、タガイタイで『The Bride of the Wolf King(狼王の花嫁)』という短編ドラマの制作に参加した。彼は当時、この番組が最終的にフレックスTVでリリースされることは知らなかったが、自分が縦画面用に撮影されたドラマに出演していることは知っていた。

「まるで、小さな枠に収まろうとしながら劇場で演技をしているようでした。縦位置撮影のため身体の動きが制限されるので、もっと顔の表情を作るようにとアドバイスされました」(ケレチ)。

また、脚本がもともと中国語であったため(多くの短編ドラマは中国のWeb小説を原作としている)、一部の翻訳がうまくないことがあった。「翻訳のせいで意味が通じない脚本もあったので、俳優として現場で少しずつ調整しました」(ケレチ)。

ケレチは撮影中、中国側の誰とも交流がなかった。制作はフィリピン人チームによって実施された。主要な文化の交差点に位置する東南アジアには英語を話すクリエーターが多く、世界中の視聴者に向けて短編ドラマを制作することが可能だ。

また、このロケーションは生産コストの大幅な節約にもつながる。フレックスTVのジャウジョウ・ガオ最高執行責任者(COO)によると、タイでの番組撮影には4〜8万ドルの費用がかかるという。米国で同じようなものを作れば、その倍はかかるだろう。ビジネスモデル全体が、大金をかけて制作する価値のないクイック・コンテンツを中心に回っている場合、これは大きな利点になる。今後、フレックスTVは米国とタイの両方で撮影を続ける予定だと同COOは話す。

海外で短編ドラマを制作するために、フレックスTVや類似のアプリに進出する中国企業が増える可能性がある。中国政府は映画やテレビに対するのと同様に、このメディアもより厳しく規制しようとしている。それに呼応して、海外に事業を移す短編動画企業もあるだろう。

長い目で見て、これらの作品が世界中の視聴者にどのように受け入れられるのか興味がある。中国の経済規模にもかかわらず、その文化産業は、少なくとも日本のアニメや韓国のドラマ、音楽グループと比較すると、それほど大きな影響力を持っていない。短編ドラマはここでゲームチェンジャーになるだろうか。多分、そうはならないだろう。しかし、これが中国のエンターテインメント業界が世界市場について学び、世界中の視聴者が中国についてより深く理解するための重要な一歩となる可能性はある。最終的には、それは悪い結果にはならないだろう。

中国関連の最新ニュース

1.亡命中の2人の影響力のある中国人ブロガーが、海外のソーシャルメディア上で中国に関するニュースを検閲なしで発信している。現在、警察は中国にいる彼らのフォロワーを1人ずつ追跡している。(AP通信

  • ブロガーの1人である 「李先生」は、2022年後半、中国での白紙抗議活動に関する情報を精力的に収集し、共有したことで一躍脚光を浴びた。私は当時この仕事が彼に与えた重荷について取材している。(MITテクノロジーレビュー

2.中国のあるサイバーセキュリティ企業から流出した内部文書によると、同社は中国政府に代わって中国や近隣諸国の少数民族を監視していたという。(ウォール・ストリート・ジャーナル

3.バイラル・ファストファッション・ブランドのシーイン(Shein)が株式公開を目論んでいると聞いてから、もう何年も経つ。しかし、もう少し待つ必要がありそうだ。同社は現在、米国証券取引委員会(SEC)がIPO(新規上場株式)を承認しないことを懸念し、ロンドンでの上場を検討している。(ブルームバーグ

4.サプライチェーンを多様化するため、グーグルは「ピクセル(Pixel)」スマートフォンのインド生産を開始する。(日経アジア

5. ティックトックは米国でまた小さな問題を抱えている。同社のニューヨークのオフィスにはトコジラミが出没している。(ジ・インフォメーション

6.エヌビディア(Nvidia)はファーウェイ(Huawei)を人工知能(AI)用チップの製造におけるトップ・ライバルの1つと認定した。(ロイター通信

7.中国のいくつかの政策は、米中関係における争点となってきた。そうした政策は軍事・民生テクノロジーの双方向の移転を促進しながら、クラウド・インフラにおける外国からの勢力を排除しようとするものだ。現在、マッキンゼーが率いるシンクタンクが、中国政府の政策立案に助言を与えたと報じられている。(フィナンシャル・タイムズ

中国のバイオ産業で資金難

中国の医薬品メーカーは今、国際市場で熱い視線を浴びているが、国内のバイオ産業にとっては必ずしも良いことではない。中国メディアの財新によると、中国の製薬会社は2023年、革新的な治療法を外国企業にライセンスすることに関して新記録を樹立した。そして、2024年の最初の1カ月だけで、さらに15件のライセンス契約を販売し、合計で100億ドル以上の収入が見込まれている。

中国製薬会社の研究能力の高さを証明することは確かだが、会社幹部は財新に対して、これはまた業界が緊急に資金を必要としている結果でもあると語った。2019年以降、中国のバイオテクノロジー企業は資金調達がますます難しくなっており、バイオテクノロジーへのベンチャー投資は減少の一途をたどっている。資金不足を乗り切るため、バイオテクノロジー企業の中には、研究成果を大手の多国籍企業に安く売らざるを得ないところもある。こうした取引は一時的な財政的救済にはなるが、業界は引き続きマクロ的なトレンドが再び好転するのを待っている。

人気の記事ランキング
  1. Promotion MITTR Emerging Technology Nite #30 MITTR主催「生成AIと法規制のこの1年」開催のご案内
  2. A brief guide to the greenhouse gases driving climate change CO2だけじゃない、いま知っておくべき温室効果ガス
  3. Why OpenAI’s new model is such a big deal GPT-4oを圧倒、オープンAI新モデル「o1」に注目すべき理由
  4. Sorry, AI won’t “fix” climate change サム・アルトマンさん、AIで気候問題は「解決」できません
ヤン・ズェイ [Zeyi Yang]米国版 中国担当記者
MITテクノロジーレビューで中国と東アジアのテクノロジーを担当する記者。MITテクノロジーレビュー入社以前は、プロトコル(Protocol)、レスト・オブ・ワールド(Rest of World)、コロンビア・ジャーナリズム・レビュー誌、サウスチャイナ・モーニング・ポスト紙、日経アジア(NIKKEI Asia)などで執筆していた。
日本発「世界を変える」U35イノベーター

MITテクノロジーレビューが20年以上にわたって開催しているグローバル・アワード「Innovators Under 35 」。2024年も候補者の募集を開始しました。 世界的な課題解決に取り組み、向こう数十年間の未来を形作る若きイノベーターの発掘を目的とするアワードの日本版の最新情報を随時発信中。

特集ページへ
MITTRが選んだ 世界を変える10大技術 2024年版

「ブレークスルー・テクノロジー10」は、人工知能、生物工学、気候変動、コンピューティングなどの分野における重要な技術的進歩を評価するMITテクノロジーレビューの年次企画だ。2024年に注目すべき10のテクノロジーを紹介しよう。

特集ページへ
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る