畳んで打ち上げ、軌道上で自動組み立て 新発想の「宇宙の家」
宇宙に滞在できる人数は現在のところごく限られている。磁力を利用したタイルが、宇宙居住空間を増やすのに立つかもしれない。 by Sarah Ward2024.08.15
- この記事の3つのポイント
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- 宇宙空間で自動的に組み立てられる居住空間をオーレリア研究所が開発
- タイルを重ねてロケットで打ち上げ、軌道上で磁石の力で組み立てられる
- 大規模な居住空間の建設にはまだ課題があるが、将来の実現を目指している
宇宙旅行に行く人は増えているが、国際宇宙ステーション(ISS)が同時に収容できる人数は11人までだ。そこで、マサチューセッツ州ケンブリッジに拠点を置く非営利の宇宙建築研究所であるオーレリア研究所(Aurelia Institute)の手法が役立つかもしれない。同研究所が開発した居住空間は、平らなタイルをコンパクトに重ねた状態で宇宙に打ち上げる。その後、軌道上で自動的に組み立てが済むというものだ。
大規模な宇宙居住空間の建設は難しい。まず、壁などの構造部品をロケットに載せなければならない。往々にして、一度の打ち上げではすべての部品を送ることはできない。ロケット内の空間にそれだけの余裕がないのだ。ISSのような大規模な建造物を建設するには複数回の打ち上げが必要で、費用がかさむ。すべての部品を宇宙に送り届けた後は、人間が建築作業をしなければならないが、これは危険な作業だ。
「何かを組み立てるときに人間に頼るとなると、船外活動用宇宙服を着てもらうことになります」。オーレリア研究所の最高経営責任者(CEO)であるアリエル・アクブローはそう話す。「彼らの命を危険にさらすことになります。私たちは将来、宇宙空間での組み立て作業をもっと安全に済ませるようにしたいのです」。
8月初め、マサチューセッツ州ロクスベリーにあるコワーキングスペースで、オーレリア研究所は宇宙居住空間「テサリー(TESSERAE)」の模型を披露した。この建造物の見た目は未来的で、1階建てほどの高さのサッカーボールのようだ。建造物を構成するタイルの寸法は1.8メートル四方ほどで、研究チームは、このタイルが組み上がる仕組みを解説した。
これは、打ち上げ時に建造物の容積をできる限り縮小することを狙ったアイデアだ。「現在、宇宙に運ばれるものではすべて、ロケットの先端に搭載されるペイロードの非常に堅牢な構造体の中に入っています」。オーレリア研究所で戦略・事業開発担当副社長を務めるステファニー・ハーブルムはそう話す。「このテクノロジーなら、イケアの組み立て家具のように、重ねて運べるタイルを作れます」。
打ち上げに成功したら、このタイルは宇宙空間を漂流してしまわないように、風船のような構造物や網に入った状態で宇宙へと放り出される。この網がタイルを保持する。個々のタイルの端には強力な磁石が付いており、磁力によって1つ1つのタイルが引きつけ合う。タイルが自律的に組み合わさり、正しい配置で一度に組み上がると見込まれているのだ。上手くいかなかったときは、磁石に電流を流して、誤った組み合わせのタイル群を分解し、もう一度やり直す。組み立てが済んだら、電気系統と配管システムを手作業で取り付けることになる。
モジュール型と空気注入型
オーレリア研究所はすでに、宇宙空間で手のひらサイズの小型タイルの組み立てに何度か成功しており、2022年にアクシオム・スペース(Axiom Space)がISSに向かった「Ax-1」ミッションの最中にも成功させている。しかし彼らはまだ、宇宙空間でテサリーの原寸大モデルを組み立てたことがない。これにはパートナーが必要になる可能性が高いという。
「テサリーで有人空間を組み立てるまでにどれくらいの時間が必要なのか、正確なところは私たちにも分かりません」。アクブローCEOは言う。「おそらく、私たちが米国航空宇宙局(NASA)あるいはアクシオム・スペース(Axiom)と提携できるかという点にかかっているのでしょう。しかし2030年代までには確実にできるでしょう」。オーレリア研究所は調達した資金の総額やこの取り組みにかかった総額を公表していないが、NASAからの助成金を受け取ったことや、スポンサー企業から資金を調達したことは明らかにしている。
宇宙ステーションには多くのグループが取り組んでいる。アクシオム・スペースは独自の軌道ステーションに取り組んでおり、最初のモジュールを2026年に打ち上げ、一時的にISSに接続することを目標としている。ブルーオリジン(Blue Origin)とシエラ・スペース(Sierra Space)は最大10人を同時に収容できる「多目的ビジネス・パーク」プロジェクト、「オービタル・リーフ(Orbital Reef)」に取り組んでいる。これらのステーションは人手で建設しており、部品は複数回に分けて打ち上げられる。
打ち上げに備えて部材をコンパクトにする方法は他にもある。軌道上で空気を注入して膨らませるのだ。NASAは実験用の「BEAM居住区」ですでにこの手法を使っている。これは2016年に打ち上げたもので、ISSに接続され、積み荷が保存されている。シエラ・スペースは空気注入型の居住空間を3階建てくらいの大きさにしようと狙っているが、現時点ではこの設計を宇宙空間でテストしたことはない。
アクブローCEOは、テサリーと空気注入型の居住空間は、相互に補完しあうテクノロジーだと考えている。テサリーの硬い外殻は、マイクロメテオロイド(微小隕石)などのスペース・デブリから宇宙飛行士を守るという点で優れているはずだ。また、テサリーの居住空間はタイルを簡単に交換でき、空気注入型よりも修理しやすいとアクブローCEOは話す。空気注入型ではそうはいかず、破れたときには複雑な継ぎ当て作業や、空間全体の交換といったことが必要になるかもしれない。「私は空気注入型を強く支持しています。答えはどちらかではなく、両方であるはずだと思っています」。
設計上の課題
オーレリア研究所は、テサリーで建設された居住空間は、私たちが一般的にISSで目にするものとは大きく異なり、機能的で、楽しく、使いやすく、快適なものになると思い描いている。
この設計には、宇宙飛行士を対象とした数百本のインタビューから得た情報を基に、風変わりな要素を盛り込んでいる。そのひとつに、壁から突き出た巨大な空気注入型のイソギンチャクのようなものがある。だがこれはソファなのだ。宇宙で寝そべるのは容易ではないため、宇宙飛行士たちは空気注入型の枝に挟まれることで快適に過ごすことが理論上は可能だ。
ただ、このテクノロジーをスケールアップするのは困難だろう。ミシガン大学の航空宇宙工学者であるオリバー・ジア=リチャーズ助教授は、オーレリア研究所が開発した磁石とセンサーを組み合わせるテクノロジーで、大規模なタイルの自律的な組み立てが可能かどうか、確信が持てないと話す。宇宙で正確な位置に物を動かすには、推進システムが必要になることが普通だ。「彼らがもしこの方法で正確な位置に動かすことに成功すれば、ブレークスルーになるでしょう」。ジア=リチャーズ助教授は話す。アクブローCEOは、推進システムの必要性についても排除するつもりはないという。
タイルで作り出される建造物は現在のところ気密性に欠けるため、人間の居住空間には向いていないという点にアクブローCEOは言及した。タイルの端にラッチを取り付け、このラッチによってタイル同士をより緊密に接合させる可能性があるという。その空間の中心で気密性のある風船を膨らませ、その中に人が住めるようにするというアイデアもある。この場合、内部は加圧された空気袋となり、タイルは単なる外骨格となる。
同チームは、来年さらに多くの小型タイルをISSに送るために承認をNASAから受けたばかりだ。今度はたった7枚ではなく32枚のタイルを送る予定となっており、小規模で完全な球形構造を建設できるか確かめるという。
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