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AIの急速な進歩は
量子コンピューターを
不要にするか
Stephanie Arnett/MIT Technology Review | Getty
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Why AI could eat quantum computing’s lunch

AIの急速な進歩は
量子コンピューターを
不要にするか

産業界において量子コンピューターの実現が嘱望される一方で、物理学や化学のシミュレーションにAIを適用するアプローチが急速に進歩することで、将来的な量子コンピューターの必要性を疑問視する声も上がっている。量子コンピューターが不要になる可能性はあるか。 by Edd Gent2024.11.14

この記事の3つのポイント
  1. 量子コンピューターの活躍が期待されてきた化学や材料科学分野でAIが急速に進歩
  2. AIは弱い相関を持つ量子系のシミュレーションで特に成果をあげている
  3. 量子コンピューターと古典AIは競合するのではなく、互いに補完し合う可能性が高い
summarized by Claude 3

テック企業は長年、量子コンピューターに何十億ドルもの資金をつぎ込んできた。金融、創薬、物流など、さまざまな分野で量子コンピューターがゲームチェンジャーになるのを期待してのことだ。

こうした期待は特に、量子力学で説明が可能な奇妙な効果が発揮される物理学と化学の分野で高まっている。これらの分野では理論上、量子コンピューターが従来のコンピューター(古典コンピューター)に対して大きな優位性を持つ可能性があるからだ。

しかし、この分野が扱いにくい量子ハードウェアに苦戦する一方で、量子コンピューターが最も有望視されている活用事例の一部では別の挑戦者が躍進している。人工知能(AI)は現在、基礎物理学、化学、材料科学で活用されつつあり、量子コンピューティングのホームグラウンドとされている場が、実はそれほど安泰の場ではないかもしれない可能性を示している。

スイス連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)の計算物理学教授、ジュゼッペ・カルレオによると、AIを使用してシミュレーションできる量子系の規模と複雑さの度合いは急速に拡大しているという。カルレオ教授は先月、ニューラル・ネットワークに基づいたアプローチが、顕著な量子的性質を持つ材料をモデリングする主要な手法として急速に普及しつつあることを示す共同執筆論文をサイエンス誌に発表した。メタも最近、材料科学向けの新しい膨大なデータセットを使って訓練したAIモデルを発表し、そのAIモデルは材料発見のための機械学習モデルのランク付けでトップに躍り出た。

最近の進歩のペースを考えると、大規模な量子コンピューターが現実になる前に、化学や材料科学の分野における最も興味深い問題のかなりの部分を、AIが解決できるのではないかと問う研究者が増えている。

「機械学習におけるこのような新しい競争相手の存在は、量子コンピューターの潜在的な用途に深刻な打撃を与えています」とカルレオ教授は述べる。「私の考えでは、これらの企業は遅かれ早かれ、自分たちの投資を正当化できないことに気づくでしょう」。

指数関数的な問題

量子コンピューターには、特定の計算を古典コンピューターよりはるかに高速に実行できる可能性があるとして期待が寄せられている。だが、この期待を現実のものとするには、現在よりもはるかに大きな量子プロセッサーが必要になる。現在最先端の量子プロセッサーの量子ビット数は1000量子ビット(キュービット)の大台を超えたところだが、古典コンピューターに対して否定できないほどの優位性を達成するには、数百万とは言わないまでも、数万量子ビットが必要になるだろう。そして、そのようなハードウェアが利用できるようになれば、暗号を解読するショアのアルゴリズムのような一握りの量子アルゴリズムは、古典アルゴリズムよりも指数関数的に高速に問題を解決できる可能性がある。

しかし、データベースの検索、最適化問題の解決、AIの強化など、商業用途が思いつきやすいその他多くの量子アルゴリズムの場合、そこまで大きなスピードの差はない。昨年、マイクロソフトの量子コンピューティング責任者であるマティアス・トロイヤー博士が発表した共同執筆論文によると、量子ハードウェアの動作速度が現代のコンピューター・チップよりも桁違いに遅いという事実を考慮すると、そのような理論上の利点は消えてしまうとのことだ。また、量子コンピューターに大量の古典データを入出力することの難しさも、大きな障壁となっている。

そこでトロイヤー博士の研究チームは、量子コンピューターは量子効果が支配的な系のシミュレーションを必要とする化学や材料科学の問題に焦点を絞るべきだと結論付けた。このような系と同じ量子原理に沿って動作するコンピューターであれば、理論上、当然有利なはずである。実際、著名な物理学者であるリチャード・ファインマンが初めて量子コンピューティングを提唱して以来、この考え方が量子コンピューティングの原動力となってきた。

量子力学のルールは、タンパク質、医薬品、材料など、実用的・商業的に大きな価値を持つ多くのものに適用される。それらの特性は、構成粒子、特に電子の相互作用によって決まり、この相互作用をコンピューターでシミュレーションすれば、分子がどのような特性を示すかを予測できるようになる。これはたとえば、新薬やより効率の良いバッテリーを発見する上で、非常に役立つ可能性がある。

しかし、量子力学の直感に反するルール、特に遠く離れた粒子の量子状態が本質的にリンクすることを可能にする「量子もつれ(エンタングルメント)」という現象により、この相互作用はとてつもなく複雑になる可能性がある。この相互作用を正確に追跡するには、複雑な計算が必要であり、その計算は粒子の数が増えるほど指数関数的に難しくなる。そのことが、古典コンピューターで大規模な量子系をシミュレーションするのを困難にしている。

そこで量子コンピューターが威力を発揮する。量子コンピューターも量子原理に基づいて動作するため、古典コンピューターよりもはるかに効率的に量子状態を表せる。量子効果を利用して計算を高速化することもできるだろう。

しかし、すべての量子系が同じというわけではない。量子系の複雑さは、粒子同士の相互作用または相関の度合いによって決まる。粒子同士の相互作用が高い系では、すべての粒子の関係を追跡すると、その系をモデリングするのに必要な計算の数が爆発的に増えてしまうことがある。しかしカルレオ教授によると、化学者や材料科学者が実用的な関心を持つような対象は、相関の度合いが低いことが多いという。つまり、粒子が互いの挙動に大きな影響を与えないため、系のモデリングがはるかに簡単になるということだ。

量子コンピューターは結局のところ、化学と材料科学のほとんどの問題に何の利点ももたらさない可能性が高いとカルレオ教授は言う。弱い相関を持った系を正確にモデリングできる古典ツールはすでに存在する。その代表が密度汎関数理論(DFT)だ。DFTの基本は、系の主要特性を理解するために必要なのは電子密度、つまり電子が空間にどのように分布しているかを示す尺度だけでよいという考え方である。これによって計算が大幅に単純になるが、それでも、弱い相関を持った系では正確な結果を得ることができる。

このようなアプローチで大規模な系をシミュ …

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