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氷の下の警告サイン
科学者がシエラネバダ山脈で
雪の温度を測る理由
Getty Images
気候変動/エネルギー Insider Online限定
Why climate researchers are taking the temperature of mountain snow

氷の下の警告サイン
科学者がシエラネバダ山脈で
雪の温度を測る理由

気候変動により気象がますます不規則になるにつれ、科学者たちは貯水池に水がいつ到達するか、そしていつ洪水の危険にさらされるかを把握するために、積雪温度をより正確に読み取る必要がある。 by James Temple2025.05.16

この記事の3つのポイント
  1. 気候変動により雪解けが加速し水量予測が困難になっている
  2. 新たな積雪温度測定法の開発により予測精度の向上が期待される
  3. 連邦政府の予算削減により積雪データの収集が脅かされている
summarized by Claude 3

4月初旬のあるさわやかな朝、ダン・マクエボイとビョルン・ビンガムは、米国西部カリフォルニア州とネバダ州の州境に位置するリゾート地、サウスレイクタホにあるヘブンリー・スキーリゾートの広々としたゲレンデをきれいなラインで滑り降り、手つかずの雪面を囲うロープの下をくぐった。

2人は小さな傾斜を横歩きで登り、ジェフリーマツの並木をポールで進んで通り過ぎ、そして荷物を下ろした。

ネバダ州リノにある砂漠研究所(DRI)の気候研究者である2人は、シエラネバダ山脈の積雪の温度を測定する新たな方法を試すため、リゾートの中央にあるこの調査区画までスキーで滑り降りてきた。彼らは、雪に掘った穴を通じて地面まで下ろしながら温度を測定できる実験的な赤外線装置を装備していた。

シエラネバダの凍った貯水池は、カリフォルニア州の水の約3分の1、さらにはネバダ州北西部の町や都市の蛇口、シャワーヘッド、スプリンクラーから出る水の大部分を供給している。春から夏にかけて雪解けが進むにつれ、ダム管理者、水道局、地域社会は、、大量の流出水の流れを管理し、貯水池や運河の氾濫を防ぎつつ、避けられない乾燥した夏を乗り切るために十分な水を貯えなければならない。

気候変動が高温を助長し、雪解けを加速させ、極端に雨の多い時期と非常に乾燥した時期が急激に入れ替わる中で、山から水が流れ出す時期を予測するためには、より正確な積雪温度データの重要性がますます高まっている。

これまで、このような積雪観測データの収集は非常に骨の折れる作業であった。現在では、新世代のツール、手法、モデルにより、このプロセスはより容易になり、水に関する予測の精度も向上している。これにより、カリフォルニア州をはじめとする各州が、深刻化する干ばつや洪水に直面しながらも、最大の水源の1つを安全に管理することが可能になると期待されている。

一方で観測筋は、トランプ政権による連邦政府機関全体にわたる予算削減、特に連邦の積雪監視・調査業務を監督する機関への削減により、こうした進展が損なわれるのではないかと懸念している。このような施策によって、米国西部の地域社会が依存している水関連のデータや予測を生み出す継続的な取り組みが脅かされる可能性がある。

「これらの測定値がないというのは、燃料計なしで車を運転するようなものです」。オレゴン州の気候学者ラリー・オニールは語る。「山にどれだけの水があるのか、夏を乗り切るのに十分な量があるのかどうか、私たちには分からなくなってしまうのです」。

積雪調査の誕生

米国の積雪調査プログラムは20世紀初頭、北米最大の高山湖であるタホ湖の近くで始まった。

毎年春に山からどれだけの水が流れてくるかを正確に知る術がなかったため、洪水を恐れた湖畔の住宅所有者や事業者は、春の早い時期からダム管理者に放水を求めていた。一方、下流の地域社会や農家はこれに反対し、後半の季節に水不足を避けるため、できる限り多くの水をダムに貯めておくよう求めた。

1908年、ネバダ大学リノ校の古典学教授ジェームズ・チャーチは、山岳ハイキングへの情熱から雪の科学に関心を抱き、いわゆる「タホ湖水戦争」の解決に貢献する器具を発明した。それが、シエラ支脈の山頂にちなんで名付けられた「マウント・ローズ・スノー・サンプラー」である。

それは、チューブをネジでつなぎ、先端を鋭くし、側面に目盛りを刻んだだけの、きわめてシンプルな器具だった。積雪調査員はこれを地面まで突き刺して積雪の深さを測り、その後、満たされたチューブを専用の秤にかけて、雪に含まれる水分量を算出する。

チャーチ教授はこの器具を使って山中のさまざまな地点で積雪量を測定し、その結果をタホ湖の水位変動と照らし合わせて、水量予測の精度を高めていった。

この器具は非常に有効だったため、米国は1930年代半ばに連邦積雪調査プログラムを開始し、これは現在、農務省自然資源保全局(NRCS)が運営するプログラムへと発展している。冬の間、米国西部では何百人もの積雪調査員がスノーシューやバックカントリースキー、スノーモービルを使って決められた地点に向かい、1世紀以上ほとんど変わっていないマウント・ローズ・サンプラーで観測を実施している。

1960年代に入ると、米国政府は山岳地帯に恒久的な観測拠点のネットワーク構築を始めた。現在「SNOTELネットワーク」として知られるものである。観測所は900カ所以上におよび、西部諸州およびアラスカ州の各地から継続的に測定データを送信している。これらの観測所には、気温や積雪深、土壌水分を測定するセンサーに加え、積もった雪の重さから水分含有量を測る圧力感知式の「スノーピロー」が設置されている。

積雪調査やSNOTEL観測所から得られたデータはすべて、自然資源保全局が発表する積雪深および積雪中の水分量の報告書に反映され、春から夏にかけて河川や貯水池に流入する水量の …

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