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勝山湧斗:「量産から逆算」、UCLAから産業界に転じた電池エンジニア
勝山湧斗(テラワットテクノロジー)/提供写真
Trajectory of U35 Innovators: Yuto Katsuyama

勝山湧斗:「量産から逆算」、UCLAから産業界に転じた電池エンジニア

UCLAで次世代電池を研究し、2022年には「35歳未満のイノベーター」に選ばれた勝山湧斗が選んだのは、アカデミアではなく産業界だった。世界最高性能と量産性を両立する次世代リチウムイオン電池の実現を目指している。 by Yasuhiro Hatabe2026.05.27

米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の博士課程を2024年6月に修了した勝山湧斗は、同年夏からテラワット・テクノロジー(TeraWatt Technology)の電池エンジニアとして働き始めた。研究者からエンジニアへ。アカデミアから電池産業の現場へ。その転身は、勝山が学生時代から抱えてきたある問題意識の延長線上にある。

2022年、UCLAの博士課程に在籍していた勝山は、「Innovators Under 35 Japan(35歳未満のイノベーター)」の1人に選ばれた。コバルトなどの希少材料を使わない次世代電池の研究者として評価され、世界最高容量のスーパーキャパシタとナトリウムイオン電池負極(アノード)の開発にも成功していた。

だが勝山自身は、研究室の中で違和感を募らせていた。自分の研究は本当に社会の役に立てるのか。アカデミアにとどまるかぎり、産業の現実は見えてこないのではないか。卒業後の進路として勝山が選んだのは、産業の側だった。

量産から逆算して、次世代電池をつくる

テラワット・テクノロジーは2020年、カリフォルニア州サンタクララで創業したリチウムイオン電池スタートアップだ。CEO(最高経営責任者)の緒方 健は英ケンブリッジ大学で博士号を取得後、サムスンやシリコンバレーで電池開発に携わってきた人物である。本社は米国だが、量産経験を持つ東アジアのエンジニアを集め、開発から量産までを自社で一貫して手がける体制を日本国内に築いてきた。電池技術とAI/ITを組み合わせ、大企業にはできない短いサイクルで次世代電池の開発を進める。勝山もUCLA卒業後に帰国し、同社の開発組織に加わった。

UCLA時代、卒業後は米国でそのまま就職するつもりでいた。それを覆したのが、創業者である緒方との出会いだ。話してみると自分の問題意識と重なるものがあり、勝山は直感的にテラワットへの入社を決めた。

UCLAで研究してきた有機電池は、量産で製品を届けるレベルにはまだ遠い。リチウムイオン電池が現実の電力貯蔵の主役であり続けており、業界ではすでにコバルトを減らしニッケルやマンガンへの移行も進んでいる。「劇的に大きく変わることは、現実的に考えるとハードルが高い」と勝山は言う。現行製品を地道に改良していく積み重ねこそが社会を動かすという確信が、量産を起点に電池開発を進めるテラワットへの共感と重なった。

加えて、テラワットは電池の「真髄」である生産技術にも強みを持つ。欧州のスタートアップにはない、東アジアの電池製造の技術を学べるという点も勝山を後押しした。

なお、2022年に勝山が共同創業した東北大学発スタートアップ、里山エンジニアリングのCSO(最高科学責任者)は、競合関係からテラワットへの入社時に退任している。

科学館の体験から、「思考道場」へ

勝山は茨城県の出身だ。父親は日本原子力研究開発機構の研究者で、幼いころから原子力科学館など県内にいくつかあるエネルギー関連の施設に、父親に連れられてよく足を運んだ。わずかな量の物質から膨大なエネルギーが取り出せるという原子力の解説や、放射性物質を扱うロボットアームの操作体験を通して、次第にエネルギーの世界に関心を抱くようになった。中学2年で東日本大震災を経験し、エネルギーを蓄える仕組みの重要性を肌で知った。電池を研究対象に選んだ背景には、その実感がある。

高校で学んだ有機化学では、分子レベルで材料を設計し、創り出す過程を知ることで「人間はこうしてナノレベルのことを制御しているんだ」と初めて実感し、化学の道を進むことに決めた。東北大学に進学後は、エネルギー技術を支える無機材料に関心を広げていった。

専門の輪郭が定まっていくのと並行して、勝山は自分自身の「考える力」と向き合うことになる。きっかけは、カルフォルニア大学バークレー校(UCバークレー)への交換留学だった。東北大学からその年に1人だけ選ばれた留学に、自負を持って渡米したものの、ディスカッションにまったくついていけず、「いかに自分が今まで何も考えずに生きてきたかを思い知らされた」。そして、同じ悩みを抱えていた友人と「思考道場」と名づけた取り組みを始める。毎日2時間、テーマを設定して賛成と反対の立場をそれぞれが取り、20〜30分でロジックを組み立てて互いの主張を崩し合う。それを1年間続けた。

そうして勝山は、思考の型を身につけた。「表面的な課題を深掘りし、その根本原因を突き止め、解決策を導き出していく」。それは今も研究や仕事で使い続けている武器だという。

「ワクワク」と社会の役に立つこと

進む道を選ぶときに勝山が重視するのは、「自分がワクワクするか、楽しいか」という感覚だ。だがそれだけでは選ばない。「それがどう社会の役に立つのか。その両方が揃うことが、自分の中で大事」だと話す。

UCLAでの研究そのものは楽しかった。だが同時に、「これは量産できない技術なのではないか」「社会の役に立ちえない研究なのではないか」という不安が常に付きまとった。これは多くの研究者が抱える不安なのではないか、と勝山は言う。アカデミアにとどまり続ければ、産業界の本当の課題を理解しないまま「独りよがりな研究」になりかねない。それが、勝山は怖かった。だからこそ、卒業後はまず産業の側に進むと決めた。

産業界で見えた、もう一つの景色

産業界の現場に身を置いてみると、アカデミアと産業界は交わることは少なく、それぞれの論理で動いていた。象徴的なのが評価指標の数だ。アカデミアでは電池のエネルギー密度や充電速度、寿命など、注目すべき指標は限られている。だが商用電池で満たすべき要件は桁違いに多く、それらすべてを同時にクリアしなければ製品にならない。産業界は膨大な資金と人員を投じて開発を進めるが、得られたノウハウは社外に出ない。うまくいかなかった結果について「なぜそうなったのか」を徹底的に掘り下げる動機も、ビジネスにはない。

「アカデミアは性能勝負ではなく、『なぜこの欠陥が起きるのか』という『なぜ』を突き詰める存在にもっと比重をおいても良いのではないか」と勝山は言う。「アカデミアも産業界を理解すべきだし、産業界もアカデミアを頼るべきだと思います」。両者がもっと協力すれば、業界全体の進歩は加速するはずだ。そう勝山は感じている。

提供写真

量産に耐える技術を選び抜く

勝山が現在取り組んでいるのは、さまざまな電池技術を評価し、量産まで耐えうるものを選び抜く仕事だ。魅力的に見える技術でも、満たせない要件があったり、致命的な弱点が潜んでいたりする。量産現場で起きる問題から、ユーザーの手に渡った後の課題まで視野に入れたうえで、各段階の専門家と議論しながら評価を下していく。

勝山自身の専門は、純粋な化学や材料の領域にある。そこを軸足にしつつ、自分の専門の外でどんな課題が起きうるかを把握しなければならない。良い材料に見えても、混ぜれば泡が大量に発生する。塗布すれば縞模様になる。乾燥させれば電極が丸まってしまう。アカデミアではほぼ意識されない領域に、量産化の成否を分ける細部が潜んでいる。だからこそ、自分の専門を軸にしながら各分野の専門家と力を合わせ、チームとして成果を出していくところに自分が貢献できると勝山は考えている。

将来の展望について尋ねたところ、「先のことはあまり考えていません」と答えた。「今は世界最高の電池を作るチームに貢献したい。技術選択を間違えずに、世界最高性能と量産性を両立する電池をつくることに注力していきたいです」。勝山が目を向けているのは、その一点だ。

この連載ではInnovators Under 35 Japan選出者の「その後」の活動を紹介します。バックナンバーはこちら

5月29日9時35分更新:本文の一部表現を修正しました。

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