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オスのマウスからメス作製、日本チームが遺伝子編集で性逆転に成功
Stephanie Arnett/MIT Technology Review | Adobe Stock
Scientists just created female clones of male mice

オスのマウスからメス作製、日本チームが遺伝子編集で性逆転に成功

日本の研究チームが、オスのマウスからメスを作り出すことに成功した。CRISPRを応用した「Y-CUT」という遺伝子編集技術で、オスを決定づけるY染色体を除去した。論文はまだ査読前だが、研究者らは、残存個体がわずかな絶滅危惧種の保全に役立つと期待する。 by Jessica Hamzelou2026.08.13

この記事の3つのポイント
  1. CRISPRを応用したY-CUT技術により、オスのマウス胚を意図的にメスへ性逆転させることに初めて成功した
  2. 凍結保存細胞からもメスのクローン作製が可能であり、絶滅危惧種の保全や遺伝子改変動物研究への応用が期待される
  3. 現状はXO型不妊問題や除核卵細胞の確保など限界があるが、卵細胞作製技術や染色体移入技術との組み合わせで克服が見込まれる
summarized by Claude 3

科学者たちが初めて、オスのマウス胚を意図的にメスへと性逆転させることに成功した。日本を拠点とする研究チームが、CRISPR(クリスパー)を応用した手法を用いてオス由来の細胞からY染色体を除去し、オスのマウスからメスのクローンを作製した。

「これまで誰もやったことがありません」。この研究には関与していないハワイ大学の生殖生物学者、モニカ・ワード教授は話す。

この成果は、科学者たちの生殖に対する考え方を変える可能性があると、研究を共同で主導した山梨大学の石内崇士准教授は話す。研究成果は今月初め、bioRxiv(バイオアーカイブ)にプレプリント(査読前論文)として公開された。「私たちの研究分野には、生殖にはメスとオスの両方が必要だという固定観念があります」と石内准教授は言う。「この考え方を変えられると思います」。

石内准教授と、共同研究者である理化学研究所バイオリソース研究センターの的場章悟・専任研究員は、この技術が絶滅危惧種の保全、特に残存個体がごくわずかな場合にも役立つことを期待している。

「目にするだけでも胸が躍ります」。この研究には関与していない野生生物保全団体「リバイブ&リストア(Revive & Restore)」の主任科学者、ベン・ノバクは話す。「特に保全を目的として、多くの用途が生まれると確信しています」。

性転換

石内准教授によると、研究チームは、特定の状況で性を変えることができる魚、オキナワベニハゼから着想を得たという。オスがいない場合、メスの1匹がオスへ性転換し、ほかのメスと繁殖することができる。逆に、オスがメスへ性転換することもある。

この性転換能力は、哺乳類を含む絶滅危惧種の保全に役立つ可能性がある。実験室では、意図的ではなかったものの前例がある。2009年に別の研究グループは、オスのマウスの細胞から作製した27匹のクローンの中から、偶然1匹のメスが生まれたと報告した。

ある種の生存個体数が極端に減少した場合、科学者たちはその動物のクローン作製を試みることがある。クローン技術は万能ではなく、技術的に難しく効率も低い場合があるうえ、遺伝的に同一の個体を生み出すため、その子孫が疾病に対してより脆弱になる可能性もある。それでも、クロアシイタチモウコノウマなど、一部の種を絶滅寸前の状態から救う取り組みに貢献してきた。

個体のクローン作製では、その個体の遺伝情報を複製することしかできない。例えばオスの動物をクローン化すれば、得られるクローン個体もすべてオスになる。その種でオスしか残っていないという仮定の状況では、これだけでは大きな助けにはならない。

石内准教授は、細胞内の染色体を改変することで、この問題を克服する方法に取り組んできた。哺乳類のDNAは染色体としてまとめられ、通常は相同染色体の対をなしている。そのうち1対が性染色体で、メスでは通常XX、オスではXYである。

哺乳類でオスとしての性を決める上で重要なのが、Y染色体である。石内と同僚たちは、このY染色体を失わせるCRISPR応用ツールを開発した。この手法では、細胞分裂のたびにY染色体が「娘」細胞へ正しく受け継がれる上で重要な役割を果たす、Y染色体上の特定領域を標的とする。

Y染色体を切断する

研究者たちが、この技術(「Y-CUT」と名付けた)を発生初期のマウス胚で試したところ、Y染色体を除去できることが分かった。処理したXY胚を代理母マウスへ移植すると、代理母はメスの仔を出産した。研究者たちは、この現象を「性逆転(sex reversal)」と表現している。

生まれたメスの仔はXO型の核型を持っていた。つまり、通常は2本あるX染色体が1本しかなかった。しかし石内准教授と的場研究員によると、これによる明らかな悪影響は見られず、個体は健康に成長し、生殖能力も備えていたという。

第2の実験では、研究者たちはY-CUTを利用して、オスのマウスからメスのクローンを作製できることも確認した。

標準的なクローン作製法は、成体動物の細胞からDNAを含む核を取り出し、自身の核をあらかじめ除去した卵細胞、すなわち除核卵細胞に移植する。適切な条件下では、こうしてできた細胞が発生し、核を提供した元の個体と遺伝的に同一の動物になる。

的場研究員らは同様の方法を用いた。多数のクローン細胞を作製した後、その一部にY-CUT処理を施し、代理母マウスへ移植して妊娠させた。

その結果、オスのマウスからメスのクローンを作製できた。的場研究員によると、このメスはY染色体が失われている点を除けば、元のオスと遺伝的に同一だという。「まるでSFのようです」と石内准教授は話す。

Courtesy of Takashi Ishiuchi and Shogo Matoba, as published in their bioRxiv preprint.

別の実験では、科学者たちは凍結保存したオス由来の細胞からメスのクローンを作製することにも成功した。また、クローンのオスとメスを交配させると、健康な仔が生まれることも確認した。これはY-CUTを使えば、さまざまな動物種の凍結保存細胞や組織を収蔵する「フローズン・ズー(凍結動物園)」に保存されたオス由来の試料から、メスのクローンを作製できる可能性を示している。

保全以外への応用も考えられる。「遺伝子改変動物の作製にも利用できる可能性があります」とワード教授は話す。複数の遺伝子改変を施した動物を作製するには時間と費用がかかるが、その個体からオスとメスのクローンを作れれば、研究者の時間と費用を節約できる。ワード教授はまた、この技術が性染色体の生物学を研究するための有用なツールになることにも期待している。

相補的な技術

Y-CUTには限界もある。現時点では依然として除核卵細胞が必要で、それは同種、あるいは少なくとも近縁種のメスから得なければならない。また、メスしか生き残っていない絶滅危惧種には利用できない。

この技術がマウスでうまく機能する理由の一つは、XO型のメスのマウスにも繁殖能力があることだ。この方法は、絶滅危惧種または危急種に分類される355種のげっ歯類の一部には役立つ可能性があるが、ほかの哺乳類ではXO型のメスは不妊になる傾向がある。

しかし、ほかの新技術がY-CUTを補完できる可能性がある。2023年、大阪大学の林克彦教授らは、オスのマウス由来の細胞から卵細胞を作製できることを示した。これによって、父親が2匹いるマウスを作製できたが、同じ方法を応用すれば、Y-CUTに必要な除核卵細胞を用意することもできる可能性がある。「相補的な技術なのです」と的場研究員は話す。

石内准教授はさらに、細胞に2本目のX染色体を導入する技術にも取り組んでいる。これによって、得られるメス個体の繁殖能力を回復できる可能性がある。

さらに、メスは存在するもののオスが必要な場合にも、別の解決策があるかもしれない。数カ月前、山梨大学の若山清香准教授らは、ラットの染色体をマウスの卵細胞に移入できることを示した。ノバクによると、この技術はXY型のオス胚を作製するために応用できる可能性がある。

それはクロアシイタチのようなケースで役立つ可能性がある、とノバクは付け加える。保全チームは最近、1980年代に別の個体から採取された細胞を使ってメスのクロアシイタチをクローン化した。そのメスは非常に貴重な個体だとノバクは言う。しかしメスが生涯に産める仔の数には限りがある。生涯に数十回の繁殖に貢献できる可能性があるオスのクローンは、「望ましい」存在だという。

「より多様なツールが開発されているのを見るのは、本当に胸が躍ります」とノバクは話す。「希少種や絶滅危惧種に活用できる状況は、実にさまざまです」。

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ジェシカ・ヘンゼロー [Jessica Hamzelou]米国版 生物医学担当上級記者
生物医学と生物工学を担当する上級記者。MITテクノロジーレビュー入社以前は、ニューサイエンティスト(New Scientist)誌で健康・医療科学担当記者を務めた。
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