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Taking Genomic Data Global 狙いは適確医療の独占?
途上国のゲノム情報を収集

遺伝子配列の決定が遅れているアジアに注目し、適確医療を進めようとするスタートアップ企業がある。 by Elizabeth Woyke2016.07.25

インド人の結腸がんは米国ほど一般的ではないが、発症する患者には若者が多く、症状も重い傾向にある。また、盛んに研究されている欧米諸国で広く疾患原因として知られる遺伝子変異と、インドの結腸がん患者の遺伝子変異は異なるという。統計の説明要因にインド人の菜食主義があげられるが、それではなぜ若年層に重症患者が多いのだろうか。

医師の見解によると、ゲノムの差異がこの2つのグループの違いを説明できるかもしれないという。スタートアップ企業のグローバル・ジーン・コープ(本社シンガポール)は、インド人患者のゲノムを研究し、遺伝子変異とがんの関係や治療への手がかりを探ろうとしている。

グローバル・ジーンは、一般的な治療に加え個別の患者に対応した治療を決定するアルゴリズムを使って、患者のDNAだけでなく、がん細胞のゲノムも解析する予定だ。集められたデータは、新薬を開発する製薬会社や政府当局者にとっても有意義なものとなるだろう。

グローバル・ジーンは、遺伝子パターンを解析すれば、インド人を悩ます糖尿病やウィルソン病、多発がんなど多くの慢性疾患に関する重要な手がかりを得られると考えている。グローバル・ジーンの検査サービスを使えば、患者がキャリア(発病はしないが、異常な遺伝子をもつ保因者のこと)であるか、あるいは遺伝性の病気であるかなどの診断や、個別の患者向けに最良の薬や投与する薬の量を決められる。

 

数ある遺伝子の神秘の中でとりわけグローバル・ジーンが注目しているのは、なぜ西洋人に比べて肥満指数(BMI)が低いインド人が、糖尿病や他の肥満病にかかりやすいのか、だ。

グローバル・ジーンは、発展途上国の人々の健康改善のためにゲノミクスを活用しようと、ハーバード大学医学大学院の医師2名によって、2013年ボストンで設立された。2人はまず注目したのはインドだ。2003年に初めてヒトゲノムの全塩基配列が決定されてから、世界中でゲノム情報が爆発的に増加しているが、インドは莫大な人口を抱える多民族国家であるにも関わらず、すっかり取り残されている。グローバル・ジーンによると、世界の人口の2割を占めるインド人のゲノムデータはたったの0.2%だという。

世界中ほとんどの国が同じような状況にある。日本や米国、欧州を除いた人口は地球全体の60%を占めるのに、日米欧以外で塩基配列が決定されたゲノムデータは全体の1%に満たないとグローバル・ジーンはいう。

原因は、貧困国がこれまで医療予算を伝染病の管理と撲滅に費やしてきたこと、また米国のヒトゲノム計画や英国のゲノミクス・イングランドのようなプログラムを作らなかったからだ。

 

グローバル・ジーンはここにビジネスチャンスを見いだした。人口予測やがん統計、新薬研究費を考慮すれば、インドにおけるゲノム情報を活用した新薬開発やがん治療市場は19億ドルに届くと、グローバル・ジーンの経営陣は予測する。また、グローバル・ジーンが事業拡大をもくろむ中国や東南アジア、中東を加えると、対象となる市場は81億ドルとなり、年率14%で増加中だという。

グローバル・ジーンは非上場企業なので売上高を公表していないが、民間から資金を調達し、アジアや欧州の48の企業や政府、科学機関と提携関係にある。ヒトゲノムの最初の全塩基配列決定に重要な役割をはたしたウェルカム・トラスト・サンガー研究所はグローバル・ジーンのイギリス・ケンブリッジにある研究開発センターに場所を提供している。

また、グローバル・ジーンはすでに患者の承諾を得て1万以上のDNAサンプルを収集し、インド最大のゲノム学のためのバイオバンク(同社調べ)を構築、インド人の参照ゲノム(デジタルの「基準」ゲノム)配列の中核を確立したという。「参照ゲノム配列を確立すれば、インドに見られる多くの疾病を深く理解できるでしょう」とグローバル・ジーンはいう。

 

アジアに注目しているのはグローバル・ジーンだけではない。大学や企業が作る非営利コンソーシアム、ゲノムアジア100K(GenomeAsia 100K)は、南北および東アジアに住む10万人分の全塩基配列を決定し、そこから50から100の参照ゲノム配列を作り出そうとしているようだ。4年以内にはアジアの主要な民族グループすべてを説明できるだろう。南洋理工大学環境生物科学工学シンガポールセンターの研究部長であり、プロジェクトリーダーを務めるステファン・シュースター教授(生物学)は、「たとえば日本には遺伝子差異のある民族グループは主に3つあると考えられています」という。

以前、南アジアのヒトゲノム変異を記録しようとした試みは失敗した。2008~2015年にかけて実施された1000ゲノムプロジェクトは、民族の多様性をとらえるためにインドのグジャラート族やパキスタンのパンジャブ族などいくつかの南アジアの民族グループのゲノムの全塩基配列を決定した。それまでは国際HapMap計画 (International HapMap Project) と呼ばれるプロジェクトが、たった1人の南アジア人(インドのグジャラート族)のDNAを集め、一般的なヒトゲノムの変異体のデータベースとしていた。

政府が出資するゲノムプロジェクトからは、さらに多くの情報を得られるかもしれない。ゲノミクス・イングランドの10万ゲノムプロジェクトは、希少疾患患者やがん患者の全塩基配列を決定しており、患者の民族と症状の関連について研究している。米国では、オバマ大統領が主導し2016年後半に始まる適確医療イニシアティブでのコホート研究で、個人の健康状態やそれぞれの病気の違いの研究を補助することを目標に、特に患者の民族性に関して収集する予定だ。

 

こういった大規模な遺伝子マッピングプロジェクトでは、有意義な結論が得られるだけの十分なサンプルを得にくいことがある。グローバル・ジーンは、提携病院、研究プロジェクト、自費で検査した個人からの自発的な提供など、複数の情報源からサンプルを得ることで、この問題を回避しようとしている。

 

「支払い能力が問題になるかもしれません」というのは、中国とインドに関する本を執筆したペンシルベニア大学ウォートンスクールのロートン・R・バーンズ教授(医療経営学)だ。バーンズ教授によると、インドで医療保険に加入しているのは全体の25%で、加入していても遺伝子検査は保険の適用外である場合がほとんどだという。

「このプロジェクトを成功させるためには、自分の遺伝子構造に興味があるだけでなく、自身で健康を管理し、検査費を払うだけの経済力と支払い意欲のある人が必要なんです」

グローバル・ジーンの検査費用は75~538ドルかかる。ギャラップ調査によると、2013年のインドの平均収入は616ドルだった。

他にも大きな問題がある。「患者が検査費用を払ったとしても、その情報を元に何ができるでしょうか」とバーンズ教授はいう。

グローバル・ジーンは検査結果を有効活用しようと模索中だ。多くのスタートアップが遺伝子検査に独自の技術を使い、インド人によく見られる複数の遺伝子変異を確認している。こういった多重遺伝子分析によって、潜在的に病原となる遺伝子変異と臨床的に重要でない遺伝的変異を区別する基準をインド人についても得られるという。

この分析とグローバル・ジーンのソフトウェアを使えば、スタチン(コレステロール低下剤)の服用による重篤な副作用があらわれる可能性について判断できる。また、遺伝性の乳がんや卵巣がんの原因となるBRCA1やBRCA2遺伝子の変異なども検査できる。(インド人と欧米人では、BRCA変異パターンが異なる)

検査で集めたデータを使えば、製薬会社は臨床試験に必要な特殊な遺伝特性を持つ人物を特定でき、試験期間を短縮できる。

グローバル・ジーンの共同創業者でハーバード大学医学部のジョナサン・ピッカー講師(遺伝学)は、「世界中の人の遺伝子を代表できなければ、人々の健康は改善されません。部分的な集合だけを調べてすべての人を理解したと仮定しても意味がないのです」

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エリザベス ウォイキ [Elizabeth Woyke]米国版 ビジネス担当編集者
ナネット・バーンズと一緒にMIT Technology Reviewのビジネスレポートの管理、執筆、編集をしています。ビジネス分野ではさまざまな動きがありますが、特に関心があるのは無線通信とIoT、革新的なスタートアップとそのマネタイズ戦略、製造業の将来です。アジア版タイム誌からキャリアを重ねて、ビジネスウィーク誌とフォーブス誌にも在籍していました。最近では、共著でオライリーメディアから日雇い労働市場に関するeブックを出したり、単著でも『スマートフォン産業の解剖』を2014年に執筆しました。
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