KADOKAWA Technology Review
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Scientific Panel Concludes ARPA-E Is Working. Will It Matter?

クリーンエネ研究は順調、全米アカデミーズがトランプ政権に反旗

全米アカデミーズは、米国エネルギー省による大型クリーンエネルギー研究プログラムについて2年に渡る分析の結果を発表した。このプログラムは、共和党が長年にわたって批判し続け、最近ではトランプ政権が打ち切りを勧告している。 by James Temple2017.06.26

全米アカデミーズ(National Academies、米国の学術機関)は、米国エネルギー省による大型クリーンエネルギー研究プログラムについて2年に渡る分析の結果を発表した。同プログラムは目標達成に向かって順調に進んでおり、ブレークスルーをもたらす可能性があるテクノロジーの開発支援に引き続き集中するべきだと結論付けた。

権威ある全米アカデミーズが2017年6月13日に発表したARPA-E(Advanced Research Projects Agency-Energy、米国エネルギー省の大型研究投資部門)に対する評価レポートは238ページに及ぶ。ARPA-Eは共和党による長年の批判にさらされており、最近ではトランプ政権によりプロジェクト打ち切りの勧告を受けている(参照「トランプ政権で消滅危機のエネルギー研究が最後の?イベント開催」)。

2016年10月時点でARPA-Eは、二酸化炭素貯留、バイオ燃料、送電網ストレージ、電気自動車用電池などの分野で、500件を超えるさまざまなプロジェクトに対し、10億ドル以上の資金を投資していた。米国議会が作成を委任したレポートには、成功の兆しとして次のようなことが挙げられている。全プロジェクトのうち、25%のチームが追加資金の調達に成功したこと、約50%が審査のある専門誌に論文を発表したこと、約13%のプロジェクトで特許を取得したことなどだ。

ARPA-Eはジョージ・W・ブッシュ元大統領の時代に設立されたが、実際に助成金を受けたのは2009年にバラク・オバマ元大統領に実施した景気刺激対策が最初である。同対策のミッションは多方面に渡り、米国の経済とエネルギーセキュリティの強化、宇宙分野での技術的優位性の確保といった民間企業が単独では手がけられないような「目覚ましい技術的進歩の助成」などが挙げられていた。

「法が定めるミッションや目標の達成に向かって、ARPA-Eが順調に進展しているのは明白である」。レポートを作成したマサチューセッツ工科大学(MIT)やカリフォルニア大学バークレー校、ダウ・ケミカル、ハネウェルなどの学識経験者や研究者は締めくくる。「現在のような初期段階で特に重要なのは、失敗や、その兆しがARPA-Eには一切見られないことだ」。

そしてARPA-Eに対して、今後も、安易に短期間で結果が出せるようなプロジェクトを押し付けないようにと忠告している。全米アカデミーズのメンバーであり、未公開株式投資会社ニュー・ワールド・キャピタル(New World Capital)の共同創業者であるルイス・シック(Louis Schick)氏は、6月13日の記者会見で、ARPA-Eの大きな強みは多くの民間企業が追い求めている既存の商品開発計画には見られない「高リスク、高リターン」型テクノロジーを支援していることだと語った。

レポートは厳格な公平性に基づいている。しかし、迫り来る予算調整でクリーンエネルギー研究の資金を確保したいと考えている政策決定者にとっては格好の材料になることは確かだ。ホワイトハウスが、2016年に約2億6200万ドルの予算をあてたARPA-Eの廃止を求める提案をしているからである(参照「パリ協定離脱でもカリフォルニア州が目指すクリーンエネ推進策の中身」)。

ARPA-Eに対しては、商業的に大きなサクセス・ストーリーや、クリーンエネルギーを取り巻く環境を劇的に変えるようなテクノロジーを出していないとする評価がある。こうした評価は確かに正しい。しかし、現在のような初期段階で、ARPA-Eが掲げるミッションをすべて達成することを期待するのは時期尚早であるとレポートは強調している。

全米アカデミーズのメンバーでカーネギーメロン大学工学・公共政策学部のエリカ・フックス(Erica Fuchs)教授は、「数億ドル程度の資金と6年の歳月で、米国全体の経済とエネルギーセキュリティを変えられるというのは過度な期待です」という。「短期間で大きな変化を期待するのは合理的ではありません」。

レポートには、ARPA-Eが資金を提供して成功を収めたとされるいくつかのプロジェクトのケーススタディが記載されている。たとえ、1366テクノロジー(1366 Technologies)は、太陽光発電のコストを劇的に削減できるような新たな半導体ウエハーの開発に取り組んでいる。24エム(24M)は送電網アプリケーションに使うリチウムイオン電池の開発に取り組んでいるし、スマートワイヤーズ(Smart Wires)は再生可能資源をより多く使って電力供給網に流れる電流を管理するテクノロジーを開発している。

これらのケーススタディが「成功を収めた」とするのは、適切な表現だとしている。しかし、投資を受けているすべての企業に見込みがある一方で、エネルギーの世界を一新するほどの成果は現時点では出ておらず、「目覚ましいテクノロジーが市場に登場するには、もっと時間が必要だろう」と指摘する。

その一方で、ARPA-Eに対するいくつかの要請を挙げる。ひとつは、投資効果を評価するシステムを構築して、投資する価値を示すことだ。さらに、投資するプロジェクトを選定するにあたってリスクを負うことをためらわない雰囲気を維持すること、プロジェクトを市場に移行するための戦略を再評価することである。最後の点に関して言えば、ARPA-Eが現在ほとんどのプロジェクトに適用している3年間という枠組みは、「構想が市場に移行する」ためには短すぎるとしている。

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ジェームス・テンプル [James Temple]米国版 エネルギー担当上級編集者
MITテクノロジーレビュー[米国版]のエネルギー担当上級編集者です。特に再生可能エネルギーと気候変動に対処するテクノロジーの取材に取り組んでいます。前職ではバージ(The Verge)の上級ディレクターを務めており、それ以前はリコード(Recode)の編集長代理、サンフランシスコ・クロニクル紙のコラムニストでした。エネルギーや気候変動の記事を書いていないときは、よく犬の散歩かカリフォルニアの景色をビデオ撮影しています。
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