KADOKAWA Technology Review
×
Scientists Used CRISPR to Put a GIF Inside Living DNA

「生きた細胞」ストレージに、ハーバードがGIFアニメの保存に成功

ハーバード大学の研究者が、CRISPR技術を使って生きたバクテリアのDNAにGIF動画を挿入し、90%の精度で再現することに成功した。従来の合成DNAではなく「生きた細胞」への記録は格段に困難とされてきたが、今回の成功で新たな可能性が開けた。 by Emily Mullin2017.07.13

Harvard researchers used the CRISPR gene-editing system to insert this GIF of a galloping horse and rider into the DNA of living bacteria.
ハーバード大学の研究者が、ゲノム編集システム「クリスパー(CRISPR)」を使用して、乗馬の様子を描いたこのGIF画像を生きたバクテリアのDNAに挿入した。

DNAをストレージとして使えば、裸眼では見えないほど微細な分子の中に、これまでに撮影したすべての写真、iTunesライブラリー全体、さらにテレビ番組『ドクター・フー』の全839話を保存できる可能性がある。それでもなお、十分な空き容量が残るかもしれない。

こうしたデジタル情報すべてを皮膚の中に埋め込み、常に身につけておく――そんな未来が訪れるかもしれないと、ハーバード大学の遺伝学者ジョージ・チャーチ教授とその研究チームは考えている。

チャーチ教授の研究チームは、ゲノム編集技術であるクリスパー(CRISPR)を用いて、短いアニメーション画像(GIF)を生きた大腸菌のゲノムに挿入することに成功した。彼らは各画像のピクセルを、DNAの構成単位であるヌクレオチドに変換した。

研究チームは、このGIF画像を5つのフレームに分け、生きたバクテリアに導入した。使用された画像は、1870年代に世界初の連続写真を撮影した英国の写真家エドワード・マイブリッジによる、疾走する馬と騎手の写真である。研究者たちはその後、バクテリアのDNA配列を解析してデータを抽出し、ピクセル情報を表すヌクレオチドの暗号を読み解くことで、動画を90%の精度で再構成した。

2017年7月12日付のネイチャー誌で詳細が報告されたこの手法は、バクテリアに特化したものである。しかし、この研究に関与していないコロンビア大学のコンピューター科学者であるヤニヴ・アーリッヒ准教授は、この研究は生きた細胞内に情報を保存するための拡張可能な手法であり、将来的には人間の細胞にも応用可能になるだろうと述べている。

現代社会では膨大なデジタルデータが次々と生成されており、科学者たちはその保存手段として、コンパクトで耐久性に優れたDNAに注目している。何しろ、数万年前のDNAでさえ、研究室で抽出し解析することができるのだ。

CRISPR was also used to encode this image of a hand into a bacterial genome.
CRISPR は、この手のひらの画像をバクテリアのゲノムに暗号化して埋め込むのにも使われた。

これまでのところ、DNAをストレージとして利用する研究の多くは、科学者が作製した合成DNAを用いている。また、今回のGIF画像は36×26ピクセルと小さく、合成DNAにコード化できる情報量と比べれば少量である。それでも、生きた細胞に情報を組み込むことはより困難である。なぜなら、生きた細胞は常に活動し、変化し、分裂し、そして死んでいくからだ。

アーリッヒ准教授によれば、生きた細胞にデータを保存する利点の1つは、その保護性能の高さにある。たとえば、核爆発や放射線、高温にさらされても生存できるバクテリアも存在する。

ハーバード大学のチャーチ教授の研究室でこの研究を主導したセス・シップマン研究員は、単なるデータ保存にとどまらず、この手法を応用して、細胞内部やその周囲の環境で起きていることを記録する「生きたセンサー」を作りたいと考えている。

「私たちが本当に作りたいと思っているのは、細胞内やその周囲で起きている出来事についての生物学的情報や環境情報を暗号化して記録できる細胞です」とシップマン研究員は語る。

この技術が近い将来、あなたの体内に大容量データを保存する目的で使われることはないだろうが、研究用途としては大きな可能性がある。たとえば、脳の発達過程における神経細胞の形成のように、細胞型の進化を促進する分子事象を記録する用途が考えられる。

シップマン研究員は、こうした「バクテリア製ハードドライブ」を体内や世界の任意の場所に配置して、関心のあるデータを記録させ、後でバクテリアを回収してDNAを解析することで、どのような情報が記録されたのかを確認できると述べている。

人気の記事ランキング
  1. The balcony solar boom is coming to the US 安全性は大丈夫? 米国で「バルコニー発電」がブーム
  2. Three things in AI to watch, according to a Nobel-winning economist AIによる雇用破壊、ノーベル賞経済学者の答えはまだ「ノー」
  3. The era of AI malaise AI閉塞感の時代、私たちはまだ何も分かっていない
  4. Here’s what you need to know about the cruise ship hantavirus outbreak クルーズ船のハンタウイルス感染、パンデミックを心配すべきか?
タグ
クレジット Images courtesy of Seth Shipman | Harvard University
エミリー マリン [Emily Mullin]米国版
ピッツバーグを拠点にバイオテクノロジー関連を取材するフリーランス・ジャーナリスト。2018年までMITテクノロジーレビューの医学生物学担当編集者を務めた。
MITテクノロジーレビューが選んだ、AIの10大潮流 [2026年版]

AIをめぐる喧騒の中で、本当に目を向けるべきものは何か。この問いに対する答えとして、MITテクノロジーレビューはAIの重要なアイデア、潮流、新たな進展を整理したリストを発表する。

特集ページへ
MITテクノロジーレビューが選んだ、 世界を変える10大技術

MITテクノロジーレビューの記者と編集者は、未来を形作るエマージング・テクノロジーについて常に議論している。年に一度、私たちは現状を確認し、その見通しを読者に共有する。以下に挙げるのは、良くも悪くも今後数年間で進歩を促し、あるいは大きな変化を引き起こすと本誌が考えるテクノロジーである。

特集ページへ
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る