本物そっくりに鼓動するシリコン製人工心臓、ただし45分で劣化
スイスのチューリッヒ工科大学が3Dプリントで開発したシリコン製人工心臓が、本物そっくりに鼓動することに成功した。45分で劣化するため実用化は遠いが、従来の機械的手法とは異なる生理的アプローチで将来への道筋を示した。 by Jamie Condliffe2017.07.16
この人工心臓は本物そっくりだ。本物のように鼓動する。まだ、すぐに本物の心臓に取って替われるわけではないが、より小さくもっと本物に近い将来の人工臓器の実現可能性を示している。
この新しいシリコン製の心臓は、スイスのチューリッヒ工科大学(ETH Zurich)にある機能材料研究所(Functional Materials Laboratory)の研究者によって開発された。人工臓器の製作で注目が高まっている3Dプリント技術を用いて、右心室と左心室を備えた実際の人間の心臓の内部構造を模して作られている。
実際の心臓とは異なり、この人工心臓には中央室があり、外部のポンプによって膨張・収縮し、基本的な筋肉の役割を果たす。しかし、外部ポンプが必要であるという点以上に大きな制約がある。研究チームが『人工臓器』誌(Journal of Artificial Organs)で報告しているように、このシリコン製心臓は約3000回、すなわち約45分間鼓動すると劣化が始まるため、実用化には程遠い。
それでも、この人工心臓は、今後数年でより優れた人工心臓が開発される可能性を示している。現在の人工心臓の多くは機械的手法で血液を送り出しており、故障のリスクがあるうえ、血液自体を損傷させる可能性もある。人間の生理により忠実に基づいた人工心臓は、こうした問題を克服できるかもしれない。
とはいえ、最良の代替手段は、研究室で最初から完全に新しい生物学的臓器を作り出すことかもしれない。ただし、それが実現するには、もう少し時間がかかるだろう。
(関連記事:“Artificial Organs”、“3Dプリントで移植可能な皮膚の生成に成功で人工器官の実現迫る”、“Could We Make New Organs?”)
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クレジット | Images courtesy of ETH |

- ジェイミー コンドリフ [Jamie Condliffe]米国版 ニュース・解説担当副編集長
- MIT Technology Reviewのニュース・解説担当副編集長。ロンドンを拠点に、日刊ニュースレター「ザ・ダウンロード」を米国版編集部がある米国ボストンが朝を迎える前に用意するのが仕事です。前職はニューサイエンティスト誌とGizmodoでした。オックスフォード大学で学んだ工学博士です。