KADOKAWA Technology Review
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Google’s AI Guru Says That Great Artificial Intelligence Must Build on Neuroscience

真のAI実現に神経科学から学べ、「アルファ碁」開発者が提唱

「アルファ碁」の開発者であるデミス・ハサビスは、AIの能力の限界を押し広げるには人間の知性をより理解することが必要だと主張し、AIと神経科学の間でのアイデアの交換を提唱している。 by Jamie Condliffe2017.07.21

ロンドンを拠点とするAIのスタートアップ企業、ディープマインド(DeepMind)の創業者であるデミス・ハサビスは、人工知能(AI)に精通した人物だ。ディープマインドは2014年に6億5千万ドルでグーグルに買収されて以降、複雑なゲームの囲碁で人間を打ち負かしより汎用的なAIの開発に取り組み始めた。

しかし現在、ハサビスはAIの真の可能性を実現する唯一の方法は、人間の知性に基づくインスピレーションを取り入れることだと考えている。

現時点の多くのAIシステムは、単に人間の脳の働きに基づいて大まかに考えられた多層的な計算に基づくものだ。しかし、音声認識や画像の中の物体の特定といった異なるタイプの機械学習には、それぞれ異なる数学的構造が必要であり、そこから導き出されるアルゴリズムは、極めて限られたタスクしか実行できない。

限られたタスクだけではなく、より幅広いタスクを実行できるAIの開発が、機械学習の世界で長い間待ち望まれている。しかし、用途の限られたアルゴリズムをより多目的なものへと拡大していくには、非常に困難な課題が残されているのが現実だ。その理由の一つに、好奇心や想像力、さらに記憶といった人間の持つ特性が、AIの世界には存在しないか、または開発のごく初期段階にすぎないことがある。

雑誌ニューロンに2017年7月19日に発表された論文で、ハサビスと3人の共同執筆者は、人間の知性をより理解することでのみ、AIの能力の限界を押し広げられると主張している。

ハザビスたちの言い分はこうだ。まず、脳がどのように機能しているかの理解を深めることで、電子的な知能の新しい構造とアルゴリズムを作ることが可能になる。次に、最先端のAIの開発から得られる知見が、知性とは実際どのようなものかを見極めることにつながる。

ハザビスたちは、神経科学とAIの歴史を振り返り、両者の関係性の理解を促す。そして、多層的な人工ニューロンによって入力情報を理解する深層学習や、試行錯誤によってシステムが学習する強化学習のいずれもが、多分に神経科学の成果によっていると主張する。

しかし、最近のAIの進歩は生物学から効果的に学習していないとハザビスたちは指摘する。汎用のAIには現実世界の直感的な理解より効率的な学習方法といったより人間的な特性が必要になると述べ、解決方法として、新たに生まれている「AIと神経科学の間でのアイデアの交換によって、お互いの分野の目標を高める好循環を作ること」をあげる。

こうした考えを持っているのはハサビスだけではない。元ウーバーのAI研究所の責任者で、ニューヨーク大学のゲイリー・マーカス教授(心理学)は、機械学習システムは、子どもの認知能力の発達の研究から得られる考え方を利用して改良できると述べている

それでも、こうした発見を現実のものとするのは簡単ではない。米国のWebメディア、ヴァージとのインタビューでハサビスはAIと神経科学は「それぞれが深い伝統を持つ2つの極めて大きな分野」であり、「どちらか一方だけでも専門家になることは大変難しい。そのため、専門家同士が互いに知識を伝え合ったり、つながったりできずにいる」と述べている。

(関連記事: Neuron、 The Verge、「Google’s Intelligence Designer」、「Can This Man Make AI More Human?」)

 

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MIT Technology Reviewのニュース・解説担当副編集長。ロンドンを拠点に、日刊ニュースレター「ザ・ダウンロード」を米国版編集部がある米国ボストンが朝を迎える前に用意するのが仕事です。前職はニューサイエンティスト誌とGizmodoでした。オックスフォード大学で学んだ工学博士です。
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