KADOKAWA Technology Review
×
【春割】実施中!年間購読料20%オフ!
CRISPR Opens Up New Possibilities for Transplants Using Pig Organs

人間への臓器移植に向けて遺伝子操作した安全な子ブタが誕生

ハーバード大学の研究室から派生した企業が、クリスパーによる遺伝子操作で、人に感染する恐れのあるウイルスを保有しない子ブタを誕生させた。人間への臓器移植に、ブタの臓器をより安全に使えるようになる可能性がある。 by Emily Mullin2017.08.14

These baby pigs were the first to be born without innate viruses in their DNA.
これらの赤ちゃんブタは、DNAに先天性ウイルスを持たずに生まれた初めてのブタだ。

ブタから人間への臓器提供を実現するための一歩として、 イー・ジェネシス(eGenesis)というスタートアップ企業の研究者が、遺伝子編集の手法を使ってブタからウイルスを除去することに初めて成功した。ブタの臓器を人間に対してより安全に使えるようになる可能性がある。

米国保健福祉省によると、救命のための臓器移植を受けるのを待っている人は米国内だけで11万6000人以上いる。しかし、2017年に入ってまだ1万7157件の移植が実施されたにすぎない。

何十年もの間、動物の臓器を人に移植する「異種移植」が、人間の臓器不足を緩和できる方法のひとつとして考えられてきた。しかし、動物の臓器を人に移植しようとする試みはほとんどすべて失敗している。 1984年、カリフォルニア州で生まれた赤ちゃん「ベイビー・フェイ」は、ヒヒからの心臓移植を受けたことで有名になったが、20日後に死亡した。

科学者はそこで、ブタに関心を向けた。ブタは臓器の大きさが人間と似ているうえ、繁殖が容易だ。ただし、人間とブタでは生物学的に、人間とヒヒ以上に異なるという問題点がある。ブタの臓器は人間の体内ですぐに拒絶され、重度の免疫反応を引き起こす。科学者が挙げるもうひとつの懸念として、「ブタ内在性レトロウイルス(PERV)」として知られるウイルスがある。ブタのDNAにはブタ内在性レトロウイルスが存在し、移植中に通過して人間の細胞に感染する恐れがあるのだ。

ハーバード大学の遺伝学者ジョージ・チャーチ教授の研究室から派生した会社であるイー・ジェネシスは、種の壁を飛び越えるウイルスを除去する方法を考え出したのかもしれない。 イー・ジェネシスの共同創業者であるルハン・ヤンCSO(最高科学責任者)は、ウイルスグループを非活性化して、ブタが正常に発育するかどうかを確認したかったという。

ヤンCSOたちのチームは、遺伝子編集技術「クリスパー(CRISPR)」を使って、ブタの胚におけるウイルス25個のコピーをすべて無効にした。その後、胚をメスブタに移植し、ウイルスを保有していない赤ちゃんブタを誕生させた。イー・ジェネシスは37匹のブタを誕生させ、4か月間にわたって観察している。サイエンス誌に2017年8月10日に掲載されたレポートによると、これまでのところ子ブタたちは健康で、ウイルスを保有していない。

メリーランド大学医学部で異種移植プログラムの責任者を務めるムハマッド・モヒウディン教授(外科)は、ヤンCSOたちの研究には関与していないが、クリスパーを用いて複数の遺伝子を一度に切断することは、従来の遺伝子工学の手法よりも時間を節約できるという。 しかし一方で、ブタ内在性レトロウイルスは人間の組織に感染する可能性があるが、健康問題を実際に引き起こす証拠はまだないと語る。

モヒウディン教授は「ブタ内在性レトロウイルス以外にも、異種移植の臨床応用を制限する他の問題があります」と述べ、移植された動物臓器に対して体が起こす免疫反応を挙げる。

ヤンCSOによると、イー・ジェネシスはクリスパーを使用して、免疫系に関与する遺伝子の改変もしているという。 しかし、遺伝子を編集したブタの臓器を人間に試すのはまだずっと先のことだとしている。

人気の記事ランキング
  1. Will fusion power get cheap? Don’t count on it. 核融合は本当に安くなるのか? 楽観論に「待った」をかける新研究
  2. Digging for clues about the North Pole’s past 12万年前は無氷だった?海底22メートルの泥で掘り起こす北極点の謎
  3. Is carbon removal in trouble? 炭素除去業界に激震、最大顧客のマイクロソフトが購入を一時停止
エミリー マリン [Emily Mullin]米国版
ピッツバーグを拠点にバイオテクノロジー関連を取材するフリーランス・ジャーナリスト。2018年までMITテクノロジーレビューの医学生物学担当編集者を務めた。
MITテクノロジーレビューが選んだ、 世界を変える10大技術

MITテクノロジーレビューの記者と編集者は、未来を形作るエマージング・テクノロジーについて常に議論している。年に一度、私たちは現状を確認し、その見通しを読者に共有する。以下に挙げるのは、良くも悪くも今後数年間で進歩を促し、あるいは大きな変化を引き起こすと本誌が考えるテクノロジーである。

特集ページへ
AI革命の真実 誇大宣伝の先にあるもの

AIは人間の知能を再現する。AIは病気を根絶する。AIは人類史上、最大にして最も重要な発明だ——。こうした言葉を、あなたも何度となく耳にしてきたはずだ。しかし、その多くは、おそらく真実ではない。現在地を見極め、AIが本当に可能にするものは何かを問い、次に進むべき道を探る。

特集ページへ
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る