KADOKAWA Technology Review
×
Silicon Valley’s Call to Secede Shows How Out of Touch It Is

Calexit:トランプ当選とシリコンバレーの動揺

カリフォルニア州を米国から独立させる主張は、メキシコとの国境に壁を作ると述べたドナルド・トランプの計画と同じくらい現実味がない。 by Jamie Condliffe2016.11.11

大統領選でドナルド・トランプが勝利したことにシリコンバレーが困惑するのは理解できる。しかし、シリコンバレーには、カリフォルニア州を米国から独立させたい人が現れた。そんな狭量で思慮にかける反応は、起業家やベンチャーキャピタリストのコミュニティが取るべき態度であるはずがない。

ブルームバーグニューヨーク・タイムズ紙は、ドナルド・トランプの大統領当選以降「シリコンバレーは揺れている」と伝えた。確かに、トランプを勝利に導いた世論と、国家の枠組みにとらわれないグローバルな知性、国外製造、オフショア金融を支持しがちなテック産業の見解は相容れない。どれもトランプの世界観の正反対だ。また、ポピュリスト候補への投票は、明らかに、海外に財産を蓄え、新しい仕事を作り出さない、西海岸(テック産業)や東海岸(金融)のエリートへの反撃だ。

オバマ政権では、テック産業と政権に緊迫感はなかったが、次期政権では避けがたい。

Not happy with the results of the election? Secession is not the answer.
選挙の結果に不満でも、離脱は解決策にならない

確実に、トランプはカリフォルニア州太平洋岸の北西部を中心に所在するテック企業を苦しめるだろう。恐らく、アマゾンは独占禁止法違反で訴えられ、マイクロソフトやグーグル等の企業は法人税の支払いが求められ、タイムワーナーをAT&Tが買収する計画は停止させられるだろう。移民や貿易、さらに、より厳しい事態が予想されるのは、暗号やプライバシー等、テクノロジー関連の課題の処理にあたって、テック業界を激震させるはずだ。

一方、シリコンバレーのエリート層では、ある話が広まっている。ハイパーループの共同設立者シャービン・ピシェ―バーなどが、カリフォルニア州の米国からの離脱を提唱しているのだ。英国のEU離脱「Brexit」をもじった「Calexit」という名前まである。

確かに、カリフォルニア州は独立してもやっていける。十分に裕福なのだ。米国商務省経済分析局によると、カリフォルニア州の2015年の州内総生産(Gross State Product)は2.5兆ドルで、世界第6位の経済規模がある。

しかし、米国から独立する提案は、大人の問題に対する幼稚な回答だ。実際、この提案は、トランプによる実現性が乏しいアメリカとメキシコの国境に壁を作る計画を支持する「我々と彼ら」の感情と、あまり変わらない。シリコンバレーは、すでに、カリフォルニア州内で貧富の差を拡大させ社会を混乱させている。格差の拡大はトランプを勝利させた問題をこじれさせ、アメリカを傷つけることになる。

テクノロジー信奉者が描く未来は、不確かになり、政府との関係は変わらざるを得ない。しかし、Calexitはその解決策にはならない。いまは「私たちが個人的にどの候補者を支持したかに関わらず、唯一の方法は、共に前進すること」だ。これは、(受諾演説で似たようなことを述べたが)ドナルド・トランプの言葉ではない。ティム・クックのアップル従業員への昨日のメモからの引用だ。

シリコンバレーにはまともな意見もある。テック産業は、独自の壁を作るよりも、そうした意見に耳を傾けた方がいい。

(関連記事:Bloomberg, The New York Times, Guardian, “トランプ候補を完全論破 適当なコスト計算をするな,” “The All-American iPhone,” “Six Big Technology Questions for President Trump”)

人気の記事ランキング
  1. Three reasons robots are about to become more way useful  生成AI革命の次は「ロボット革命」 夢が近づく3つの理由
  2. Hydrogen could be used for nearly everything. It probably shouldn’t be.  水素は万能か? 脱炭素のための現実的な利用法
  3. Job titles of the future: AI prompt engineer 未来の職種:LLMを操る「プロンプト・エンジニア」は生き残るか
タグ
クレジット Photograph by Ringo Chiu | Getty
ジェイミー コンドリフ [Jamie Condliffe]米国版 ニュース・解説担当副編集長
MIT Technology Reviewのニュース・解説担当副編集長。ロンドンを拠点に、日刊ニュースレター「ザ・ダウンロード」を米国版編集部がある米国ボストンが朝を迎える前に用意するのが仕事です。前職はニューサイエンティスト誌とGizmodoでした。オックスフォード大学で学んだ工学博士です。
10 Breakthrough Technologies 2024

MITテクノロジーレビューは毎年、世界に真のインパクトを与える有望なテクノロジーを探している。本誌がいま最も重要だと考える進歩を紹介しよう。

記事一覧を見る
人気の記事ランキング
  1. Three reasons robots are about to become more way useful  生成AI革命の次は「ロボット革命」 夢が近づく3つの理由
  2. Hydrogen could be used for nearly everything. It probably shouldn’t be.  水素は万能か? 脱炭素のための現実的な利用法
  3. Job titles of the future: AI prompt engineer 未来の職種:LLMを操る「プロンプト・エンジニア」は生き残るか
気候テック企業15 2023

MITテクノロジーレビューの「気候テック企業15」は、温室効果ガスの排出量を大幅に削減する、あるいは地球温暖化の脅威に対処できる可能性が高い有望な「気候テック企業」の年次リストである。

記事一覧を見る
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る