KADOKAWA Technology Review
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船舶位置データで描き出した、美しい海の地図
DATA: NOAA; MAP: JON KEEGAN / BEAUTIFUL PUBLIC DATA
These stunning images trace ships' routes as they move

船舶位置データで描き出した、美しい海の地図

船舶から発信される位置情報データは、海上交通を監視して海底インターネット・ケーブルの損傷を回避したり、クジラの衝突を特定したり、水中騒音の足跡を調査したりするのにも役立っている。公開されているデータを1年分集めて地図化してみると、美しいパターンが浮かび上がった。 by Jon Keegan2024.12.27

地球上で走ったり、運転したり、自転車に乗ったり、飛行機で飛んだりすると、移動の痕跡が残る。ただし、その痕跡をどこで見ればよいのかを知っている必要がある。物理的な痕跡、熱の痕跡、化学的な痕跡から、私たちがいた場所が分かる。その他にも、私たちが使用する自動車、飛行機、電車、船から発信される無線信号が作り出す痕跡もある。

飛行機の場合、ADS-B(放送型自動従属監視)と呼ばれるテクノロジーを使って、飛行機のリアルタイム位置情報、識別情報、速度、方位データが提供されている。海上を航行する船舶の場合、AIS(船舶自動識別装置)がその機能を担っている。

AIS送信機は、161.975および162.025メガヘルツの周波数を利用して船舶の識別番号、名前、コールサイン、全長と全幅、種類、アンテナの位置を6分ごとに送信する。船舶の位置、緯度軽度のタイムスタンプ、船首方位はより頻繁に送信される。AISの主な目的は海上の安全であり、衝突防止、救助支援、海上交通が海洋生物に与える影響の把握に役立つ。米国沿岸警備隊の規則では一般に、長さ約20メートル未満の個人用船舶にはAISの使用は義務付けられていないが、ほとんどの商用船舶には使用が義務付けられている。航空機のADS-Bとは異なり、AISは稀な状況を除いて、オフにすることはできない。

海底インターネット・ケーブルの損傷を回避するための海上交通の監視、クジラの衝突の特定、水中ノイズの足跡の調査など、多くの分野でAISデータがさまざまな用途に使われている。

米国海洋大気庁の海洋台帳(Marine Cadastre)ツールを使えば、16年分の詳細な日々の船舶の動きや、1年分のデータから生成された各船舶の累積経路を示す「トランジット・カウント(transit count)」マップをダウンロードできる。データはすべて米国沿岸の地上局で収集されたものだ。

私は2023年のトランジット・カウント・マップをすべてダウンロードし、QGISという地理空間情報を閲覧、編集、分析できるソフトウェアに読み込んで、この1年間の海上交通を視覚化した。

電気の火花のような抽象的なマップができた。陸地を削除した状態では、船舶の軌跡は、線香花火や高エネルギー粒子の衝突、あるいは光ファイバーの束の長時間露光写真のようだ。

ビクトリア、ブリティッシュコロンビア、シアトル。
DATA: NOAA; MAP: JON KEEGAN / BEAUTIFUL PUBLIC DATA
ヒューロン湖。
DATA: NOAA; MAP: JON KEEGAN / BEAUTIFUL PUBLIC DATA
ジョージア州サバンナ。
DATA: NOAA; MAP: JON KEEGAN / BEAUTIFUL PUBLIC DATA
ルイジアナ州。
DATA: NOAA; MAP: JON KEEGAN / BEAUTIFUL PUBLIC DATA

これらのマップを拡大すると、完全な円形や格子状の線といった奇妙な幾何学模様が目に入るかもしれない。その一部は漁場だ。そのほかにも、海底を測量する科学調査を示すものもあれば、ルイジアナ州のメキシコ湾岸沖にある沖合石油掘削施設を行き来する船舶を表しているものもある。

人目に触れない

海上のすべての船舶の正確な動きをほぼリアルタイムで追跡できるグローバルなシステムは、素晴らしいイノベーションのように思える。ただし、船舶の動きや積荷を秘密にしておきたい場合は別だ。

ブルームバーグは2023年に、ロシアがウクライナ侵攻後に「スプーフィング(spoofing:偽のAISデータの送信)」によってどのように石油輸出の制裁を逃れ、監視機関を欺いたのかを調査した。記者たちは航海に耐えられるかどうか疑わしい錆びついた船舶の船団を追跡し、AISデータと実際に海上で目にしたものを比較して、データが示す場所に船舶がいないことを発見した。

漁業の監視

既知の漁場に向かう傾向のある漁船の集団は、マップ上で最も興味深いパターンを作り出している。

国際的な非営利団体のグローバル・フィッシング・ウォッチ(Global Fishing Watch)は、AISを使って漁業を監視し、乱獲から海洋生物を守ろうとしている。しかし、AIS送信機を使用している漁船は全体の2%に過ぎないという。

グーグル、海洋保護団体オセアナ(Oceana)、衛星画像会社のスカイトゥルース(SkyTruth)が支援するグローバル・フィッシング・ウォッチは、AISデータと衛星画像を組み合わせ、機械学習を使って使用されている漁業テクノロジーの種類を分類している。

スカイトゥルースの社長兼創設者であるジョン・エイモスは、グローバル・フィッシング・ウォッチの設立を発表するプレスリリースの中で次のように述べている。「公海で起こっていることの多くのことは目に見えません。そのため、海洋で何が危機に瀕しているのかを理解し、世界に発表する大きな障壁になってきました」。

この記事は、政府機関が収集した視覚的に興味深いデータセットを収集・公開しているニュースレター「ビューティフル・パブリック・データ(beautifulpublicdata.com)」に掲載されたものである

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ジョン・キーガン [Jon Keegan]米国版 寄稿者
地方、州、連邦政府機関が収集した視覚的に興味深いデータセットを編集したニュースレター『ビューティフル・パブリック・データ(beautifulpublicdata.com)』を執筆している。
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