ナトリウム電池、ニッチ分野で存在感 スクーター、送電網などで
市場におけるリチウムイオン電池の優位性は揺るがないものの、ナトリウムイオン電池がニッチな用途で使われ始めている。現時点では、エネルギー密度がさほど問題にならない電動スクーターや送電網の電力貯蔵設備での使用が成長分野となっている。 by Casey Crownhart2025.06.17
- この記事の3つのポイント
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- ナトリウムイオン電池がリチウムイオン電池の競争相手として市場に参入している
- 電動スクーターや定置型蓄電設備などニッチ分野で優位性を発揮している
- エネルギー密度は劣るが豊富な資源と低コストが将来的な強みである
リチウムイオン電池に新たな競争相手が出現している。ナトリウムを使用した代替品が市場に食い込みつつあるのだ。
ナトリウムは地球上でリチウムよりも豊富であり、ナトリウムを使用するバッテリーは将来的に安価になる可能性がある。新しい電池化学を構築するのは難しい。その主な理由は、リチウムがあまりにも根付いているからだ。しかし、以前に指摘したように、この新技術はニッチ分野での優位性がある。
私は数年間にわたってナトリウムイオン電池を追いかけてきた。大きなカテゴリーである電気自動車においては大きな進歩は見られないものの、電池化学は進歩し始めている。これらの新しい電池はどちらかと言うと、特に小型の電動スクーターや大規模なエネルギー貯蔵設備など、意味のあるニッチな分野で用途を見出しているのだ。今回は、ナトリウムイオン電池の最新情報と、その化学が本当にブレイクするために必要なことについてお話したい。
2年前、リチウムの価格は、率直に言って、狂っていた。ベンチマーク・ミネラルインテリジェンス(Benchmark Mineral Intelligence)のデータによると、リチウムイオン電池の材料として使用される水酸化リチウムの価格は、2021年1月の1トンあたり1万ドル弱から、2023年1月には1トンあたり7万6000ドル以上に跳ね上がった。
リチウムの価格が高騰すると、リチウムイオン電池のコストが上昇する。価格の急騰と潜在的な不足への懸念が相まって、ナトリウムイオン電池をはじめとする代替品への関心が高まった。
私はこの高まる関心について2023年の記事で書いた。その記事は主に、中国の自動車メーカーと、この市場に参入したいと望む数社の米国のスタートアップに焦点を当てたものであった。
ここで理解すべき重要なポイントが1つある。ナトリウムイオン電池がリチウムイオン電池と競争するチャンスを得るためには、特に電気自動車向けに、リチウムイオン電池よりも安価である必要がある。なぜなら、ナトリウムイオン電池は1つの重要な指標であるエネルギー密度において、リチウムイオン電池に劣る傾向があるからだ。リチウムイオン電池と同じサイズ・重量のナトリウムイオン電池は、蓄えられるエネルギー量が少なく、車両の航続距離が制限されてしまう。
問題は、2023年以降の報道で見てきたように、リチウム価格とリチウムイオン電池市場は変動するということだ。前駆体材料の価格は2023年初頭のピーク時から下がっており、最近ではリチウム水酸化物が1トンあたり9000ドルを下回っている。
そして、より多くの電池工場が建設されるにつれ、製造製品のコストも下がり、2024年のリチウムイオンパックの平均価格は20%下落した。ブルームバーグNEFによると、2017年以来最大の年間下落率だという。
2023年の記事ではこの潜在的な困難について次のように書いた。「ナトリウムイオン電池がコストと材料の入手可能性によって市場に参入しようとするのなら、リチウム価格の下落によって厳しい立場に置かれる可能性がある」。
ある研究者は当時、ナトリウムイオン電池はリチウムイオン電池と直接競合するのではなく、その化学的特性が理にかなった特別な用途を見出す可能性があると指摘した。2年後の今、それらの用途が見えてきている。
ナトリウムイオン電池にとって大きな勝利となる可能性がある成長分野の1つは、スクーターや三輪車などの電動マイクロモビリティ車両である。これらの車両は自動車と比べて低速で短距離を走行する傾向があるため、ナトリウムイオン電池のエネルギー密度が低いことはそれほど大きな問題にならないかもしれない。
6月2日のBBCの記事では、電動スクーターにナトリウムイオン電池を搭載する取り組みが紹介された。この記事では、世界最大級の電動二輪・三輪車メーカーである中国企業のヤディア(Yadea)に焦点が当てられている。ヤディアはこれまでに、ナトリウムイオン電池を搭載した数モデルを市場に投入しており、BBCへの声明によると、2025年の最初の3カ月間で約1000台のスクーターを販売したとのことだ。まだ初期段階ではあるが、この市場が出現していることは興味深い。
ナトリウムイオン電池は、送電網向けのものを含む定置型電力貯蔵設備においても大きな進歩を見せている。 繰り返しになるが、電池を持ち運んだり、限られたスペースの車両に収めたりすることを気にしないのであれば、エネルギー密度はそれほど重要ではない。
中国の雲南省に開設されたばかりの宝池エネルギー貯蔵ステーション(Baochi Energy Storage Station)は、リチウムイオンとナトリウムイオンの両方のバッテリーを使用するハイブリッド・システムで、容量は400メガワット時である。米国のナトロン・エナジー(Natron Energy)は、特にデータセンター用途で定置型蓄電池の顧客を狙っている企業の一つだ。
ナトリウムイオン電池は小型車両や固定設備での早々に勝利を収めるように思えるが、一部の企業は電気自動車への使用をあきらめていないようだ。中国電池大手のCATL(寧徳時代新能源科技)は2025年に入って、ナクストラ電池(Naxtra Battery)というブランド名で大型トラック向けのナトリウムイオン電池を生産する計画を発表した。
結局のところ、リチウムは電池業界の巨大な存在であり、どんな代替化学物質であっても真っ向から勝負するのは難しいだろう。しかしながら、意味のあるニッチ市場に固執することは、入手可能なあらゆる成功した電池タイプを必要としている時代に、ナトリウムイオン電池の進歩に役立つかもしれない。
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- ケーシー・クラウンハート [Casey Crownhart]米国版 気候変動担当記者
- MITテクノロジーレビューの気候変動担当記者として、再生可能エネルギー、輸送、テクノロジーによる気候変動対策について取材している。科学・環境ジャーナリストとして、ポピュラーサイエンスやアトラス・オブスキュラなどでも執筆。材料科学の研究者からジャーナリストに転身した。