消えゆく米政府の気候監視、民間団体が「測定の空白」阻止へ
トランプ政権が気候変動関連プログラムを相次ぎ廃止する中、重要な気候監視機能の継続に向け、非営利団体や学術機関が緊急対応に乗り出している。データ財団が主導する新たな温室効果ガス連合など、政府機能の肩代わりが本格化。専門家は、民間による完全な代替は困難と指摘している。 by James Temple2025.08.15
- この記事の3つのポイント
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- トランプ政権が温室効果ガス測定プログラムを解体し連邦政府の気候関連予算を削減している
- データ財団などの非営利団体が温室効果ガス測定の継続と近代化を目指すイニシアチブを立ち上げ
- 米国地球物理学連合は政府に代わりIPCC報告書への科学者参加支援を開始している
トランプ政権による連邦政府プログラムの解体により、米国の気候変動への貢献が見えにくくなるとの懸念が高まっている。こうした中、非営利団体は温室効果ガス測定の近代化を目指す米国の取り組みを守ろうと奮闘している。
ワシントンDCに拠点を置く、非営利のオープンデータ推進団体「データ財団(Data Foundation)」は、気候排出情報の正確性とアクセス性を高めるため、非営利団体、技術専門家、企業の取り組みを調整するイニシアチブの資金を集めている。これは、ジョー・バイデン前大統領が2023年に開始し、トランプ大統領が就任初日に撤回した、排出量データ収集の改善計画を基盤としたものだ。
このイニシアチブは、連邦政府による温室効果ガスのモニタリング・測定プログラムで発生する変化への対応を優先順位づけるのに役立つ。しかし、データ財団は、主な役割は政府機関外での「長期的な調整ニーズ」に応えるものであると強調している。
トランプ政権が環境関連の資金、人員、規制を削減する中で、気候に関する重要なモニタリングや研究活動を維持するために設立、あるいは方向転換する非営利団体・学術団体が米国で増えている。新たに立ち上がったこの温室効果ガス連合もその1つだ。これには、米国の科学者が国連の主要な気候報告書に引き続き貢献し、国内の気候変動リスクの高まりを評価する報告書を発表できるようにする活動も含まれる。そうしたプログラムが失われれば、山火事、干ばつ、熱波、洪水の頻度や深刻さの増大がどの程度進んでいるのか、その危険性がどれほど深刻かを地域社会が把握することはますます困難になるだろう。
非営利団体や産業界だけで、トランプ政権によって生じた資金不足を埋められると考える者はほとんどいない。しかし観測筋は、たとえそれが一時的な措置でしかなくても、連邦政府が長年主導してきた気候変動リスクの理解に向けた取り組みを継続することは、極めて重要だと指摘する。
「憂慮する科学者同盟(Union of Concerned Scientists)」で気候・エネルギープログラムの上級政策部長を務めるレイチェル・クリータスは、排出量データを放棄すれば「闇雲に動くしかなくなります」と述べる。「問題の理解と最善の対処法の特定に役立つ情報を、意図的に手放そうとしているのです」。
排出量推定値の改善
米国環境保護庁(EPA)、海洋大気庁(NOAA)、農務省森林局(USFS)などの機関は長年にわたり、さまざまな方法で温室効果ガスに関するデータを収集してきた。これには、業界による自己報告、大気中ガス濃度の船上・気球・航空機による測定、山火事による二酸化炭素およびメタンの衛星測定、樹木の地上調査などが含まれる。環境保護庁はこれら多様なソースからのデータを収集し、年次報告書『米国の温室効果ガス排出量と吸収量に関するインベントリ(Inventory of US Greenhouse Gas Emissions and Sinks)』として公開している。
しかし、この報告書は常に2年遅れで発行されている。さらに、報告書が依拠する推定値の一部、特に自己報告に基づく数値には大きな誤差が含まれる可能性があることが、研究によって示されている。
4つの大規模な埋立地が放出するメタン汚染を人工衛星で測定した最近の分析では、施設が環境保護庁に報告していた数値よりも、平均で6倍の排出があることが明らかになった。同様に、サイエンス誌に掲載された2018年の研究では、石油・ガスのインフラからのメタンの漏出量が、インベントリで自己報告された推定値よりも実際には約60%多かったことが分かっている。
バイデン政権が打ち出した「米国温室効果ガス測定・モニタリング・情報システムの統合促進に向けた国家戦略(National Strategy to Advance an Integrated US Greenhouse Gas Measurement, Monitoring, and Information System)」は、推定値の精度向上を目的に、最先端のツールや手法の導入を目指していた。これには、自己報告の補完や検証を可能にする人工衛星などのモニタリング技術が含まれている。
この取り組みでは、政府、産業界、非営利団体の間のパートナーシップを通じて改善を図ることが重視されていた。団体間で収集されたデータは、政策立案者や一般市民がアクセス可能な形式でオンライン・ポータルに公開する予定だった。
元NASAの科学者で、バイデン政権下で科学技術政策局の副局長として取り組みを主導していたベン・ポールターは、気候変動リスクの高まりを理解し、産業界が政府規制や自主的な気候目標を順守しているかを追跡するには、より最新で信頼性の高いデータを提供するシステムへの移行が不可欠だと述べる。
「このシステムが本格稼働すれば、気候変動対策の推進に役立つ情報を、ほぼリアルタイムで提供できるようになるはずでした」とポールター元副局長は語る。同氏は現在、気候変動対策の新手法の加速に取り組む非営利団体「スパーク・クライメート・ソリューションズ(Spark Climate Solutions)」の上級科学者を務めており、また新しい温室効果ガスイニシアチブを監督するデータ財団の「気候デー …
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