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「気候テック企業10」選出で見えてきた3つの潮流
Courtesy Envision
3 takeaways about climate tech right now

「気候テック企業10」選出で見えてきた3つの潮流

中国の躍進、データセンターの電力需要への関心など、MITテクノロジーレビューが発表した「気候テック企業10」の選考過程で浮き彫りになった3つの潮流とは? by Casey Crownhart2025.10.22

この記事の3つのポイント
  1. MITテクノロジーレビューが2025年版気候テック企業10社を発表した
  2. 中国が風力・太陽光・EV分野で圧倒的地位を占め世界的エネルギー超大国として台頭している
  3. AIデータセンター需要増大と材料分野でのイノベーション継続が今後の重要課題となっている
summarized by Claude 3

MITテクノロジーレビューは、2025年版の「気候テック企業10」を発表した。このリストをまとめるのは今年で3回目だが、毎年の私のお気に入りのプロジェクトの一つとなっている。

報道の世界は、資金調達ラウンドであれ、研究論文であれ、スタートアップの失敗であれ、最新ニュースに振り回されがちだ。このリストを厳選するプロセスを通じて、私たちのチームは、一歩下がって、より大きな全体像を考える機会を得る。どの業界が進歩しているか、あるいは遅れているか? どの国や地域で急速な変化が起きているか? 誰が成功する可能性が高いか?

今年は気候テック界にとって特に興味深い時期であり、選考は難航した。この記事では、リストを作る過程で得た、私の3つの気づきを紹介しよう。

1. 現在のエネルギー技術における中国の役割を誇張することは困難である

率直に言えば、クリーンテックにおける中国の進歩は驚異的だ。中国は風力・太陽光発電の設置と電気自動車(EV)の製造で圧倒的な地位を占めており、核融合エネルギーなどの新興技術にも政府資金を投入している。

世界的エネルギー超大国としての中国の台頭を反映するため、最終的に「再生可能エネルギー」と「電池」という、主要産業の中国企業2社をリストに含めることになった。

2024年、中国は世界の風力タービンメーカー上位4社を占めた。エンビジョン(Envision)は2位で、昨年193億ワットの新規容量を追加している。しかし同社は風力に限定されず、グリーン水素などの技術で鉄鋼や化学品などの重工業への電力供給を支援する取り組みも進めている。

電池も中国で注目の産業であり、EVや送電網向けエネルギー貯蔵の多くを占めるリチウムイオン電池を超えた技術での進歩が見られる。その代表的な企業として、ハイナ・バッテリー・テクノロジー(HiNa Battery Technology)を選出した。同社は、より安価な可能性があるナトリウムイオン電池を製造する主要スタートアップである。同社の電池はすでに電動スクーターや送電網向けに使用されている。

2. データセンターとAIからのエネルギー需要が、特に米国で誰もの関心事となっている

今年気づいたもう一つのトレンドは、AIモデルを動かす大規模な専用施設を含むデータセンターの増大するエネルギー需要への執着である(特集「AIとエネルギーの未来」を併せてお読みいただきたい)。

たとえ技術がデータセンターと何の関係もなくても、企業はエネルギー需要増大の時代にどのように価値を提供できるかを示そうとしている。一部は製品の市場投入に必要な資金を提供する可能性のある、テック大手との有利な契約を締結している。

カイロス・パワー(Kairos Power)は、次世代原子炉を建設するそのようなエネルギー生成企業の一つになることを望んでいる。昨年、同社はグーグルと契約を締結し、2035年までに最初の原子炉から最大5億ワットの電力を購入することが決まった。

より直接的な取り組みでは、レッドウッド・マテリアルズ(Redwood Materials)が使用済みEV電池を連結して、データセンターに電力を供給できるマイクログリッドを構築している。同社の最初の設備は今年稼働を開始し、小規模ではあるが、古い技術の新しい用途の興味深い例である。

3. 材料は引き続きイノベーションが期待できる分野である

リストに付随するエッセーで、ビル・ゲイツは気候技術の進歩におけるイノベーションの重要な役割を説明している。記事を読んでいて私が注目した数字が一つある。世界の温室効果ガス排出量の30%がセメントや鉄鋼生産を含む製造業から来ていることだ。

私は何年も材料と重工業を取材してきたが、世界を支える最も重要な材料において、まだどれほど多くのイノベーションが必要かということに今でも驚かされる。

今年のリストでは、複数の企業が材料に焦点を当てている。中でも、世界の温室効果ガス排出量の7%を占める、セメントに注目した。セムビジョン(Cemvision)は代替燃料源と原材料を使用して汚染産業をクリーンにする取り組みを進めている。

また、サイクリック・マテリアルズ(Cyclic Materials)はレアアース(希土類)磁石の回収とリサイクルを試みている。これはスピーカーからEV、風力タービンまであらゆるものを支える重要な技術である。現在、リサイクル機器からの希土類のわずか0.2%しかリサイクルされていないが、同社はそれを変えるため、北米で複数の施設を建設している。

気候テック企業10社のリストでは、確立されたエネルギー技術から新しい材料まで、あらゆるものの助けを借りて世界が気候変動に対処し適応するのを支援する可能性があると我々が考える企業をピックアップした。ぜひ、一通りご覧いただきたい。

「気候テック企業10」のリストはこちら

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ケーシー・クラウンハート [Casey Crownhart]米国版 気候変動担当記者
MITテクノロジーレビューの気候変動担当記者として、再生可能エネルギー、輸送、テクノロジーによる気候変動対策について取材している。科学・環境ジャーナリストとして、ポピュラーサイエンスやアトラス・オブスキュラなどでも執筆。材料科学の研究者からジャーナリストに転身した。
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MITテクノロジーレビューが20年以上にわたって開催しているグローバル・アワード「Innovators Under 35 」。世界的な課題解決に取り組み、向こう数十年間の未来を形作る若きイノベーターの発掘を目的とするアワードの日本版の最新情報を発信する。

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