昨今の小型衛星ビジネスによって、人類の物流圏および経済圏は、すでに地球周回軌道まで広がっている。人類の経済活動圏が今後、地球−月、さらには火星へと広がるのは時間の問題だ。近い将来、カオスな状態での軌道投入を避けるには、月面や火星周回軌道などにメインとなる宇宙ハブを構築し、ハブの間を大量輸送で結ぶ宇宙輸送ネットワークでカバーすることが必要となるだろう。
ケンプス・ランドンが開発している小型宇宙機用キックモーター(軌道変換用ロケット)は、最寄りの宇宙ハブから最終目的地へ向かうラストマイル輸送を、安全かつ低コストで実現するためのものだ。北海道大学の特任助教として宇宙航空研究開発機構(JAXA)と連携して開発を進めているだけでなく、2020年6月には自身が代表取締役を務めるスタートアップ企業「Letara(レタラ)」を創業し、キックモーターの事業化を目指している。
ケンプスは、米軍の小隊長・情報官としてアフガニスタンへの派遣を経験。最先端の人工衛星による設備管理・天気予報・国境整備などを担ったことから、一般社会における人工衛星の持つ可能性に気づいた。しかし、人工衛星の技術開発には一般に莫大なコストがかかる。そこで注目したのが、北海道大学の永田晴紀教授が主導して開発を進めている低コストのハイブリッド・ロケット「CAMUIロケット」だった。
ケンプスは米国での職を辞し、2015年に来日して永田研究室の研究生になり、大学院でロケットの黒鉛ノズルの設計などについて研究。博士号を取得した後は、JAXA大学共同利用連携拠点「超小型深宇宙探査機用キックモータ研究開発拠点」の博士研究員として、小型宇宙機用キックモーターの開発に取り組んできた。
ケンプスらが開発しているキックモーターは、早ければ2022年に打ち上げられる地球磁気圏X線撮像計画「GEO-X(GEOspace X-ray imager)」の小型衛星で、放射線環境の厳しいヴァンアレン帯を短時間で脱出するために用いられる予定だ。
「幼い頃からスター・ウォーズやスタートレックが大好きだった」と語るケンプスは、現在、エンジニアおよび起業家として、SFで描かれた世界をどうやって実現すれば良いかを考えている。ケンプスらが開発するキックモーターは、小型化が進む今後の宇宙輸送で重要な役割を果たすだろう。
(中條将典)
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