KADOKAWA Technology Review
×
繰り返される山火事の悲劇
「減災」はなぜ進まないのか
Justin Sullivan | Getty Images
カバーストーリー 無料会員限定
California must reinvent its practices and policies for a deadly new fire reality

繰り返される山火事の悲劇
「減災」はなぜ進まないのか

カリフォルニア州で発生した大規模森林火災は、多くの犠牲者(少なくとも56人)を出す大惨事となった。土地の利用法、建築規制、森林に燃料となる木材が蓄積されないよう管理すること、火の元となりうる電力供給網を強風時に停止することなど、これまでのやり方を再発明する決意で臨まなければならない。 by James Temple2018.11.19

カリフォルニア州パラダイスが最初の炎に襲われてから1週間、シエラネバダ山脈のふもとにある街はほとんど破壊されてしまった。しかし、今でもパラダイスでは数千人の消防士が、カリフォルニア州史上最大の死者を出したもっとも破壊的な火災と戦い続けている。

少なくとも56人の犠牲者を出した今回の「キャンプ・ファイア」は、カリフォルニア州で今でもくすぶっている10以上の火災の1つで、甚だしい破壊力を持った火災が2年にわたって継続する中で起きた。荒野の端で数十年続いた開発、時代遅れの森林管理、夏の異常な高温と乾燥と強風を含む気候変動は、カリフォルニア州の多くのエリアを危険地域に変えてしまった。ひとたび火がつけば、猛烈な勢いで燃え広がってしまう。

1つのシンプルな戦略で、惨劇が再び起こるのを防ぐことはできない。しかし、従来のやり方と政策に多くの変更を加えれば、危険を減らせる可能性はある。

土地利用とゾーニング

州、市、開発業者、住民は、カリフォルニアの森林や燃えやすい低木地帯に接した場所に街を作るべきか、そして街をさらに拡張すべきかを再考する必要がある。町は、火災危険エリアにふさわしい建築規制を整備する必要がある。

スタンフォード大学フーバー研究所のリサーチフェローであるアリス・ヒルは、「これまでにないペースで、私たちは荒野と都市の境界に建築をしています」と語る。ヒルはバラク・オバマ大統領の下で、国家安全保障会議のレジリエンス政策担当上級部長を努めた人物だ。「そして、現在私たちが目にしているような火災から私たちを適切に守る建築規制は、まだ存在しないのです」。

林間の住居によく見られるウッドシェイク屋根やウッドデッキが、事実上、発火点として機能していると語るのは、米国森林局の太平洋岸南西部研究所(Pacific Southwest Research Station)でリサーチサイエンティストとして働くマルコム・ノースだ。とても燃えやすい構造物が1つあれば、ちょっとした火の燃えさしの熱が近隣一帯を破壊してしまう。

そのような危険を減らすために、州や地方自治体は次のようなことができる。石、レンガ、セメントといった耐火性素材の義務付け、森林地帯の開発や居住エリア拡張の禁止、繰り返し火災に遭っている地域での建て直しの禁止、敷地内で樹木や植物を維持するよう住人に義務付けること、火災が急速に広がった場合に備えてしかるべき避難経路と、火災と戦う拠点を確保すること、などだ。

報道によると、いくつかの保険会社は …

こちらは会員限定の記事です。
メールアドレスの登録で続きを読めます。
有料会員にはメリットがいっぱい!
  1. 毎月120本以上更新されるオリジナル記事で、人工知能から遺伝子療法まで、先端テクノロジーの最新動向がわかる。
  2. オリジナル記事をテーマ別に再構成したPDFファイル「eムック」を毎月配信。
    重要テーマが押さえられる。
  3. 各分野のキーパーソンを招いたトークイベント、関連セミナーに優待価格でご招待。
人気の記事ランキング
  1. AI reasoning models can cheat to win chess games 最新AIモデル、勝つためなら手段選ばず チェス対局で明らかに
  2. This artificial leaf makes hydrocarbons out of carbon dioxide 人工光合成が次段階へ、新型人工葉が炭化水素合成に成功
  3. Everyone in AI is talking about Manus. We put it to the test. ディープシークの衝撃再び? 話題の中国製AIエージェントを試してみた
  4. AGI is suddenly a dinner table topic 膨らんではしぼむ「AGI」論、いまや夕食時の話題に
MITTRが選んだ 世界を変える10大技術 2025年版

本当に長期的に重要となるものは何か?これは、毎年このリストを作成する際に私たちが取り組む問いである。未来を完全に見通すことはできないが、これらの技術が今後何十年にもわたって世界に大きな影響を与えると私たちは予測している。

特集ページへ
日本発「世界を変える」U35イノベーター

MITテクノロジーレビューが20年以上にわたって開催しているグローバル・アワード「Innovators Under 35 」。世界的な課題解決に取り組み、向こう数十年間の未来を形作る若きイノベーターの発掘を目的とするアワードの日本版の最新情報を発信する。

特集ページへ
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る