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Closing the Digital Divide Isn’t Easy—But We Have to Try

情報格差の是正は貧困対策であり、難しいからと放置できない

インターネットが利用できないことで貧困から抜け出せず、貧困であるがゆえにインターネットが利用できない。インターネット接続を普及させることは、経済政策でもあり、社会福祉政策でもあるのです。 by Jason Pontin2016.12.28

ワールド・ワイド・ウェブが登場したほぼ直後から、「情報格差(デジタル・デバイド)」の問題は懸念されていた。1995年の夏、新設された米国商務省電気通信情報局(NTIA)が『ネットの取りこぼし:米国の地方および都市部における「持たざる者」に関する調査』というレポートを発表した。NTIAのラリー・アービング管理官とホワイトハウスのアルバート・ハモンド補佐官が、情報サービスに対するアクセスの不平等を指して「情報格差」という言葉を使い始めた。アル・ゴアも副大統領時代のスピーチでこの言葉を使った。

20年以上が過ぎ、傷が癒えるように、情報格差はほぼなくなりつつあると考えるのは簡単だ。実際、米国では人口の88%が、何らかの形でインターネットに接続できる。全世界で見ても40%前後あり、各種の予測によれば、2020年までに世界中で60億台以上のスマホが、全人口の70%前後によって使われるという。

だが米国でも、デイヴィッド・タルボットが「デジタル経済から取り残される3400万人の米国民」で書いた通り、もっとも貧しい人々、つまりインターネット接続の恩恵をもっとも受けられるはずの人には、ほとんど閉ざされているのだ。

ほとんどの米国家庭はインターネット・サービスを利用している。しかしクリーブランド市(オハイオ州)の貧困地域やその近郊では状況が異なる。2012年の調査によると、同地域の58%、年収2万ドル以下の家庭には家庭用ブロードバンドも携帯インターネット接続もない。(略)クリーブランド市の共同住宅の1階に最近まで住んでいたラリー家もそんな家庭のひとつだ。公営住宅プロジェクト(略)の部屋に、母親のマルセラ・ラリーと人見知りな娘のマナヤ・ラリー(13)が二人で暮らしていた。

数学の才能を伸ばす特別教育プランで、マナヤはカーン・アカデミーがオンラインで提供する練習問題をこなし、ビデオを見ることになっている。だが母親のマルセラは月額50ドルのタイム・ワーナーのブロードバンド料金を払えない。自宅にスマホはあるが、小さな画面では数学の問題は見にくく、数時間分ある講習ビデオは契約中のスマホのデータ通信量の上限を超えてしまう。地元の図書館には高速インターネットが整備されているが「このあたりは治安がとても悪く、外を歩くのはあまり安全ではありません」とマルセラはいう。

デジタル業界の伝道者は以前、情報格差を解消すれば社会的・経済的な利益があると声高に主張した。一部の専門家は今でも同じ意見に自信があるが、ホワイトハウスの経済諮問委員会の示した「情報格差とは、人口統計上のそれ以外の不均衡の原因と結果の両方である可能性が高い」という見通しに異議を唱える者はおそらく誰もいないだろう。デジタルアクセスがなければ、非常に多くの現代的活動(オンラインの教育プログラムを含む)はできない。情報格差は貧しい人々を社会から孤立させ、閉じ込めているのだ。

クリーブランドの公共住宅整備局は、先述の「宿題格差」を埋めようとして、マナヤにタブレットとモバイル無線ルーターを貸与した。だがこうした試験的なプロジェクトは、数千戸規模の家庭を対象にして済ますわけにはいかない。幸運にも、非営利団体のデジタルCが、クリーブランドの病院をつなぐ光ファイバー・ネットワーク(2009年に連邦活性化補助金で整備された)を、シクルが提供するミリ波送信システムで公営住宅に拡大する計画を立てている。1Gbpsのインターネット接続を公営住宅に提供する計画で、FCCの助成金も利用すれば、公営住宅のほとんどの居住者がブロードバンド接続を使えるかもしれない。

いい話だ。だが、クリーブランドのデジタルCのようなプロジェクトを期待できない、米国の内陸部や地方のコミュニティに暮らす数百万人はどうだろう? もっとも合理的に思える解決策は、ブロードバンドの通信事業者間の競争を刺激することだ。時には政府のインフラ投資によって企業間の競争環境が整うこともある。地域や州、連邦政府の資金で光ファイバー・ネットワークの構築を支援するのだ。政府は、投資を促進するために、お役所仕事をやめられる。そうすれば電柱などの物理的な送電設備を所有していない企業でも、簡単に光ファイバーを新設できる。コストを下げスピードを上げるための企業間競争が、ハンツビルやアラバマ、カンザスシティなど米国のいくつかの都市で情報格差を縮小させてきた。もちろんこの手法にはいくつも問題がある。地方の場合は特にそうだ。だが、とにかくやってみないことには、あまりにも大勢の子どもが、マニャ・ラリーのように学ぶ機会をさらに失うことになるだろう。

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jason.pontin@technologyreview.com

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クレジット Photo by Guido Vitti
ジェイソン ポンティン [Jason Pontin]米国版 編集長兼発行人
MIT Technology Reviewの編集長兼発行人です。編集部門だけではなく、プラットフォームの開発、紙とデジタルの会社の全般的な事業戦略、イベントまで担当しています。2004年にMIT Technology Reviewに参画する以前は、休刊してしまったバイオテクノロジー誌の創刊編集長でした。1996年から2002年までは、レッド・ヘリング誌(ウォールストリートジャーナルには「ドットコムブームの聖典」と呼ばれました)の編集者でした。育ったのは北カリフォルニアで、母はサンフランシスコのレストラン向けに狩猟鳥を育てていました。ただし、教育を受けたのはイギリスで、ハロウスクールとオックスフォード大学で学びました。その結果、私の英語のアクセントはあり得ないくらいに変わってしまいます。
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