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米国のPCR検査能力に余剰、感染拡大でも「コロナ疲れ」か
Kevin Winter/ Getty Images
The US now has more covid-19 tests than it knows what to do with

米国のPCR検査能力に余剰、感染拡大でも「コロナ疲れ」か

米国では1日あたり3万人以上の新規感染者が確認され、新型コロナウイルス感染症の収束が見えない。一方で、検査体制は専門家が考える目標には大きく到達していないにもかかわらず、多くの研究施設で検査処理能力に余裕がある状況だ。 by Neel V. Patel2020.07.02

「米国の検査プログラムは世界のどの国よりも優れています」。6月23日、ドナルド・トランプ大統領は報道陣に対してそう語った。「我々は世界のどこよりもうまく検査を実施しています。我が国の検査は世界で最も優れており、検査数も圧倒的に多い。検査が増えることにより、感染者を多く見つけることができます」。トランプ大統領はさらに、米国がこれまで2500万件の検査を実施しており、世界各地の「大国」と比較しても数百万件以上の差を付けていると続けた。

まずはトランプ大統領の正しい点を見てみよう。6月23日時点で、米国は2755万3581件の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)検査を実施することに成功している(ここでの検査とは、ウイルスの存在を確認し、対象者が感染しているか否かを判断するものを指す)。つまり、この点に関しては同大統領は概ね正しい。そして現在確認できる複数の情報源によると、米国は他のどの国よりも多く検査を実施している。

しかし、米国の検査プログラムを「世界最高」だと見なすことはできない。「アワー・ワールド・イン・データ(Our World in Data)」の数値によると、米国の人口1000人あたりの検査数は83.24件だという。比較対象として、現在新型コロナウイルスが猛威を振るっているロシアでは、人口1000人あたり120.07件の検査をしている。

米国は現在、1日あたり約50万件の検査を実施している。しかし、4月下旬にトランプ大統領が、間もなく1日500万件の検査ができるようになると発言していたことからすると、これは圧倒的に低い数字だ。これは必ずしも検査数を増やせないからではない。米国の検査処理能力はパンデミック発生以来、劇的に改善している。それでも、先月20州を対象に実施したワシントンポスト紙の調査によると、米国では、少なくとも1日あたりの検査処理能力を23万5000件下回る数の検査しか実施されていないことが明らかになった。感染者が急増しているアリゾナ州などの地域は検査処理能力不足に直面している一方で、国内の大半の地域では検査処理能力を十分に活かしきれていない。

これは裏を返せば、検査数をすぐに増やせるということでもある。私たちはこの情報を広める必要がある。だがその一方、経済の再開を視野に入れている今の状況で、検査処理能力が余っているという事実は、パンデミックにおける検査の役割を考え直す機会でもある。この未開の水脈は、新規感染者の発見以外にも活用方法がある。

状況はどれくらい深刻か?

公衆衛生の専門家の大半は、検査がパンデミックの抑制に不可欠だと言うだろう。個人レベルでは、検査を受けることで、仮に無症状でも感染しているかどうかを知ることができる。検査で陽性が出たら自己隔離して他人を守り、あなたが感染させたかもしれない人を接触者追跡の担当者が探し出して同様に隔離してもらえる可能性がある。検査によって新規感染者が増加傾向にあることがわかれば、政府当局はその情報を元にアウトブレイクの範囲を特定し、今後リスクが高いと考えられる地域コミュニティに警告を発することが可能になる。十分な検査ができなければこうしたことは実行できず、ウイルスをより速やかに拡散させてしまうことになる。

ただし、別の問題がある。新型コロナウイルス感染症に関して、無症状者からの感染拡大が正確にどの程度なのかについてはまだ結論が出ていない。だが、もし無症状者による感染拡大が大きな問題だということが明らかになった場合には、「自分が感染していることに気がついていない人を特定できなければ、問題に先んじて対応することはできません」。マサチューセッツ州にある研究所、ベッドフォード・リサーチ・ファウンデーション(BRF)のアン・キースリング所長はそう語る。「感染を拡大させる可能性があるのは、無症状の人々なのです」。

では、米国はどの程度検査を実施すべきなのだろうか? 米国の公衆衛生の専門家の間でも、意見は一致していない。ニューヨーク大学の経済学者であるポール・ローマー教授は、米国は1日3000万件の検査を実施する必要があると述べている。ハーバード大学エドモンド・J・サフラ倫理学センター(Edmond J. Safra Center for Ethics)が作成したモデルからは、1日1000万件の検査が必要だという結論が出されている。

ハーバード大学グローバル・ヘルス研究所のアシシュ・ジャー所長らのチームは、そういった数字よりもはるかに穏当で無難な1日90万件という数字を導き出した。彼らのモデルは、インフルエンザのような軽い症状の人も全員検査すべきだという考えから出発している。ジャー所長の最も有力な予測によると、現在米国では毎日約10万人が新たに新型コロナウイルス感染症に感染している。そこで約20%が無症状者だと仮定すると、検査を受けるべきは残りの8万人ということになる。また、陽性者1人あたり約10人の接触があると仮定すると、その10人を特定し検査を実施することも必要になる。そこにさまざまな変数(新規感染者の割合や活動再開の影響など)を組み込むと、最低でも1日90万件の検査が必要だという結論が導き出される。

「私も可能なら1日3000万件の検査を実施するでしょう」とジャー所長は話す。「300万から500万件でもすばらしいと思いますし、そのあたりが理想的です。90万件というのは、目指すべき最低限のラインだと考えています」。

ではなぜ米国はこの数字を達成できていないのだろうか? パンデミックの初期段階では、単純に検査システムが需要を満たすことができなかった。中程度あるいは深刻な感染の症状が明確に出ていない人々は、大抵の場合検査を断られたCOVIDトラッキング・プロジェクトによると、4月末の時点でも米国は1日30万件以下の検査しか実施できていなかった。

現在では、全国の大規模な研究施設はこれまでよりもはるかに多くの新型コロナウイルス診断検査ができるだけの設備とリソースを確保しており、多くの小規模な研究施設も焦点を完全に新型コロナウイルス感染症検査に移している。それでも、ワシントンポスト紙の調査で明らかになったように、ユタ州などでは1日の検査処理能力の3分の1に過ぎないわずか9000件しか検査が実施されていない。カリフォルニア州では、ギャビン・ニューサム知事が同州は1日10万件の検査を実施可能だが、実際にはその40%ほどの検査しかしていないことを認めている。ボストングローブ紙の数週間前の報道によると、マサチューセッツ州は1日3万件の検査を処理できる可能性があるにも関わらず、平均すると、実際にはその3分の1以下しか検査をしていないことが明らかになっているオレゴン州ロサンゼルステキサス州をはじめとする各地で、毎日可能なはずの数千件の検査が実施されていない。米国はその気になればすぐにでも検査数を数十万件増やすことができるのに、なぜそうなっていないのか?

「我々は、依然として検査処理能力が不足しているという前提で運営しているのです」とジャー所長は話す。処理能力は改善しているが、大半の州では軽症あるいは無症状者への検査制限を緩めていない、もしくはより多くの人に検査を受けさせようという呼びかけをしていないという。代わりに、多くのコミュニティは単純に経済を再開させようという選択をしている。北米におけるパンデミック拡大の中心地であるニューヨーク市でさえもそのような状況なのだ。米国では今、新規感染者が急増している

すべての専門家が大規模検査に前向きなわけではない。南カリフォルニア大学ケック医学校のマイケル・ホックマン医師は、1日50万件という現在のレベルでもこの状況を切り抜けられると考えている。ホックマンは先月「スタット(STAT)」に掲載された論説で、大規模検査にはコストや検査場での感染拡大の可能性、偽陰性の懸念など、いくつかの問題点があると論じた。ホックマン医師は、症状が出ている人に検査対象を限定し、コミュニティに対し、社会的距離やフェイスマスクの着用、こまめな手洗い、各種表面を清潔に保つといった単純な日々の習慣を徹底させることが好ましいとしている。ウイルスの封じ込めに成功している韓国、台湾、日本、アイスランド、香港といった国では検査プログラムがうまく機能している。しかしホックマン医師は、そういった国々がより広範囲にわたって経済活動を再開できている理由は、国民がマスクの着用をいかに当たり前のものにしたかという点にあると考えている。

ハーバード大学の疫学者であるマイケル・ミーナ助教授は、米国が検査数を増やす必要があるのは確かだが、ウイルス検査が最も重要なのは感染者数が急増し、感染者の発見と隔離が決定的に重要になるパンデミックの発生初期だと語る。その後は、「ウイルスの量が減少した場合、必ずしも全員を検査した方がいいというわけではありません」(ミーナ助教授)。そうなると、抗体の有無から過去の感染を探る血清検査の方が、長期的に見てコミュニティ内でエピデミック(局地的流行)がどのように推移しているのか、そして通常通りの生活に戻しても安全なのかといったことをより正確に見極めるためには有効になる。ミーナ助教授はさらに、検査処理能力の増加がより重要になってくるのは、米国で感染の第2波が予想されている秋になってからではないかと話す。

しかし、仮に現在の検査レベルが問題ないと考えるにしても、感染の第2波の到来をただ待っているだけでは、手つかずになっている検査処理能力を無駄にしているという主張も成り立つ。

検査の役割を再考する

BRFのキースリング所長は、検査施設がいかに十分に活用されていないかを目の当たりにしてきた研究者の1人だ。マサチューセッツ州ベッドフォードのファースト・ユニテリアン教区教会(First Parish Unitarian Church)ではこの6週間にわたって毎週火曜日に、BRFが運営する新型コロナウイルス感染症検査クリニックが開かれている。全国では検査結果を受け取るまでに多くの人々が7日から14日ほど待たなければならない状況であるのに対し、小規模な地域研究施設として、キースリング所長らは48時間以内に検査結果を返却できると考えていた。

初期段階では、この検査場で毎日100人以上が検査を受けていた。その数は徐々に減っていき、6月16日に登録したのはわずか30人で、そのうちの数人は当日検査会場に来なかった。フル稼働ならこの研究施設では1日200件の検査ができるが、現在ではその上限に達することは滅多にない。

なぜ検査数は劇的に減少してしまったのか? 「本当のところは私たちにも分かりません」とBRFの運営マネージャーを務めるライアン・キースリングは話す。「皆、疲れてしまったのではないでしょうか」。これは仮説としてはかなり説得力がありそうだ。今月実施されたギャラップ(Gallup)の世論調査によると、多くの米国民が、国内の状況は良くなっていると考えているという。運営を再開する企業やビーチなどの娯楽施設が増える中で、人々は警戒を緩め、数カ月に渡って続けてきたうんざりするような習慣を捨てたいという気持ちを強めている。通常の活動を再開する人々が増えており、隔離を実践する米国民は5月には75%から58%に減少した。これはまた、検査の重要性は低下していると米国民が考えている可能性があることを意味している。「人々は現時点で、新型コロナウイルス感染症に関するあらゆることにただ疲れきってしまっています」とキースリングは話す。「たとえ実際には収束していなくとも、この状況を終わらせたいと望んでいるのです」。

家の外に出たいという人々の気持ちはよく理解できる。私たちが思いのままに検査処理能力をフル活用できていたら、そのことを受け入れるのはより簡単だったかもしれない。BRFのアン・キースリング所長は、人々が職場や学校に安全に戻れるように(少なくとも14日間ごとに)検査を実施し、感染が判明した場合は即座に隔離できるような迅速さで検査結果を通知できるはずだと考えている。

これは新しいアイデアというわけではない。多くの雇用主はオフィスの再開にあたって従業員への定期的な検査実施の義務付けを検討している。だがキースリング所長はこのアイデアを一歩先に進め、特定の状況下における社会的距離の緩和のための手段として検査を利用したいと考えている。

たとえば、学校あるいはデイケアセンターが再開を見込んでいるとしよう。こうした施設では、厳格な社会的距離を維持するのは非常に困難だ。だが、全職員および子どもたちに定期的な検査(1週間に複数回、ということも考えられる)を義務づけ、感染が疑われる症状に関して厳密なモニタリングをすることでこの問題を解決し、施設の運営を安全に再開させられるかもしれない。こうしたことを、現在活用されていない余剰の検査処理能力をフル活用することで実現できる可能性があるのだ。

慎重に実施すれば、オフィスにも適用できるかもしれない。社会的距離はウイルスの感染拡大を止めるために非常に重要であり、こうした制限をその場の思いつきで緩和するのは避けたいところだ。しかしキースリング所長は、同じ人を相手に小規模のグループで仕事をしていて、他人と対面でのやり取りが必要ない職種であれば、定期的な検査を実施することで、その職場の人々にとって受け入れ可能なレベルまでリスクを減らせるのではないかと言う。

だが、マサチューセッツ州の衛生当局および州の地域保健局は、検査を企業学校を再開させる際の戦略に組み込むようにガイドラインを改定していない。キースリング所長は、現在の社会的距離規制の条件下では運営を再開できない複数の企業から特に要請を受け、州や地域の衛生当局に何度も提案しているが、成果は出ていない。当局は検査の役割を拡大することに単純に興味がないようだ。「馬鹿げています」とキースリング所長は話す。

いずれにせよ、余剰の検査処理能力をどう活用するかについて考え直すということが、数カ月のうちに論点になってくる可能性がある。気温が下がってくれば再び新型コロナウイルス感染症が猛威を振るうと予想されており、多くの地域が今年の3月や4月と同じような厳しい状況に晒される可能性がある。そうなれば、検査システムは再び処理能力の限界まで追い込まれるかもしれない。

前出のハーバード大学グローバル・ヘルス研究所のジャー所長は、検査処理能力が再び不足状態に陥った場合、プーリングなどの方法で対応できる可能性があるという。プーリングとは、複数の対象者の検査サンプルを単一のものとして処理し、陽性が出た場合は感染者を特定するためにサンプルを個別に再検査する手法だ。陰性が出た場合は多くの人が感染していないことをまとめて確認できる。だが、ジャー所長は最終的には懸念を抱いている。「もし1日の検査数が40万件から50万件に留まるとなれば、ウイルスの抑え込みを維持するという点に関して何らかの有効な対策を実施することが非常に困難になるでしょう」(ジャー所長)。

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MITテクノロジーレビューの宇宙担当記者。地球外で起こっているすべてのことを扱うニュースレター「ジ・エアロック(The Airlock)」の執筆も担当している。MITテクノロジーレビュー入社前は、フリーランスの科学技術ジャーナリストとして、ポピュラー・サイエンス(Popular Science)、デイリー・ビースト(The Daily Beast)、スレート(Slate)、ワイアード(Wired)、ヴァージ(the Verge)などに寄稿。独立前は、インバース(Inverse)の准編集者として、宇宙報道の強化をリードした。
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