KADOKAWA Technology Review
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小さな島の「3割普及」の奇跡、グアムに学ぶ接触追跡アプリの広め方
Jordan E. Gilbert/US Marine Corps
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While mainland America struggles with covid apps, tiny Guam has made them work

小さな島の「3割普及」の奇跡、グアムに学ぶ接触追跡アプリの広め方

米国の各州が接触追跡アプリの普及に苦労する中、グアムが一定の成功を収めている。予算も人手もない中、草の根ボランティアと観光局による地元コミュニティへの働きかけやSNSの利用が奏功した格好だ。 by Cat Ferguson2020.12.21

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が蔓延し、制御不能に陥っている米国では、各州がさまざま手段を使ってウイルスと戦っている。多くの州が取り組んでいる対策は、公共の場での集会の制限やマスク着用の義務化、検査、感染者の経路追跡、曝露通知など、ほぼ同じものだ。

だが、多くの州が関係機関の連携に苦労する一方で、小さな米国の領土であるグアムが、コミュニティを結集させる方法のヒントを与えてくれるかもしれない。少なくとも対策手段の1つ、スマートフォンによる接触追跡に関してはそうだ。予算がないグアムは、草の根的なボランティア活動にほぼ完全に依存する形で、島の成人29%に接触追跡アプリをダウンロードさせることに成功した。より潤沢なリソースがある他の州を上回る普及率だ。

協力体制

グアムでは3月に初めて新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染例が報告された。それから数週間後の4月、大量の感染者受け入れで国際的な注目を集めることになる。新型コロナウイルスが蔓延した米海軍の艦艇に対して、グアムの海軍基地へ入港命令が出されたからだ。検査結果が芳しくなかった乗組員は島内のホテルに隔離され、民間人との接触が禁じられた。

その後、8月末までに島で大量の陽性者が出たことで、グアムがいかに無防備かということがあらわになった。だがそれにより、多くの自発的な新しい支援方法を探る動きも始まった。

同じころ、グアムのソフトウェア会社であるネクストジェンシス(NextGenSys)の開発者であるヴィンス・ムニョーズの元へ、1本の電話がかかってきた。グアム政府の公式接触追跡アプリを開発していた非営利団体、パスクリーク財団(PathCheck Foundation)からの協力要請だった。ムニョーズは新たな脅威に立ち向かう地元住民を助けるため、すぐさま協力を決めた。

「他の住人を助けるために、これはやるべきだと思いました。接触追跡アプリを作れば、感染拡大を抑える力が得られるわけですから」。

デジタル形式の接触追跡アプリは、ウイルスに曝露した人をスマホを使って追跡することにより、保健当局の手間を減らしながらも、新型コロナウイルスの拡散を防げる可能性がある。たとえ曝露通知が多くの技術者が期待するような万能の手段ではなくても、いくつかの感染連鎖の経路を断つだけで命を救えることを示す新研究もある。

そこでムニョーズ率いるボランティア・チームは、パスクリーク財団と協力し、「コビット・アラート(Covid Alert)」というアプリの開発を始めた。このアプリは、米国の各州が出している接触追跡アプリのほとんどと同様、Bluetoothを利用するグーグルとアップルのシステムを採用しており、のちに検査で陽性になった人と接触していた人に対して警告を送るというものだ。警告を受け取った人には、地元保健当局への連絡と適切な行動を促す。プライバシー保護のため、すべては匿名で処理されるようになっている。

開発から数カ月、テストと調整を繰り返してアプリをリリースする準備は整ったものの、まだ肝心な部分が欠けていた。結局のところ、接触追跡アプリが効果を発揮するにはなるべく多くのダウンロードが必要なのだ。ムニョーズは、アプリの宣伝に最適な場所を知っていた。それはグアム政府観光局だ。島民の10倍にも上る年間150万人以上の観光客が訪れるグアムにとって、観光は極めて重要な産業だ。パンデミック発生以前、観光局はグアムの「星砂ビーチ」への観光を推進していた。だが、パンデミックの最中、観光局の職員はアプリの普及を担う機会にすぐに飛びついた。

島 …

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