KADOKAWA Technology Review
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Quantum Computing Paranoia Creates a New Industry

「問題が起きてから対応」では量子コンピューターで大惨事

強力な量子コンピューターはまだ存在しないが、セキュリティ企業は量子コンピューターから防御する準備を進めている。 by Tom Simonite2017.01.31

コンピューター・セキュリティ・ビジネスでは恐怖が売れる。2015年から、セキュリティ・イノベーション(本社マサチューセッツ州)は、世界最恐級の組織米国国家情報局(NSA)から、思わぬ支援を受けている。

これまで6年間、セキュリティ・イノベーションが模索している新たな収入源は、独自の暗号テクノロジー「NTRU」(ブラウン大学の数学者4人から獲得)のライセンスだ。NTRUはもともと量子物理学に基づくコンピューターの強力な暗号解読能力への対抗策として開発されたが、量子コンピューターは当時まだ存在せず、すぐには登場しないと見込まれ、売却されたのだ。

その後、NSAは量子コンピューティング分野の進展を受け、銀行取引等のオンライン取引を保護する暗号技術は、すぐにも量子コンピューターに耐えうるものに置き換える必要がある、と警告した。セキュリティ・イノベーションで製品管理の責任者を務めるジーン・カーターは「この時点で、量子コンピューターが現実的な脅威だと顧客を説得する必要がなくなりました。顧客が弊社に電話をかけて『助けてくれ!』と頼むようになったのです」という。

セキュリティ・イノベーションは今や、企業が量子暗号ハルマゲドンに備える計画を支援する小規模ながらも成長中の産業で一翼を担っている。

現代社会が依存している暗号を解読できる量子コンピューターの登場までには、まだまだ時間がかかるだろう。さらに暗号学のコンセンサスでは、既存の「量子セーフ」な暗号システムは、NTRUを含めて、今後も研究を続けるする必要がある。しかし、量子コンピューターが大混乱を招く可能性はあり、NSA等の政府機関が切迫した声明を出し、新市場が求められるほど事態は差し迫っているのだ

米国国立標準技術研究所(NIST)は、2025年までに米国政府の各機関は「ポスト量子」暗号(NISTによる呼称)への切り替えが整うという。セキュリティ・イノベーションと競合他社によれば、システムをどう更新すれば量子セーフになるかを研究している顧客や、提案されている耐量子暗号テクノロジーのいくつかを実際に実験している顧客がすでにいるという。

アトス(オランダに本社がある売上高数十億ドル規模のITサービス会社)は量子コンピューティングへの備えを展開している企業だ。量子セーフな暗号事業を率いるフレデリック・ケリングは今後、機密データを扱う企業が大規模なインフラ更新計画に取り掛かるのは当然だという。

「暗号は組織の内部、ハードウェアやソフトウェアの内部など、至る所に隠れており、暗号を更新しようとすれば、どこが暗号化されているのかを知る必要があります」とケリングはいう。企業が量子コンピューティング時代に安全に移行するための計画の支援はニッチなビジネスだが、今後数年間で大きく成長するとケリングは予想している。「このビジネスへの認知は高まっています」

グーグルマイクロソフトはここ最近量子コンピューティング研究への投資を増やしている。昨年、IBMのプロジェクトで実験的な量子チップがオンライン上で試験されたが、この件も、ケリングが話した多くの企業幹部に、量子コンピューティングがセキュリティに及ぼす影響を考慮する必要があると説得するのに役立ったという。

世界最大のテック企業の多くが、将来の量子コンピューターに対抗できる新しい暗号形態を開発しようとしている。たとえば、シスコやアマゾンは、欧州国際的な標準化団体によるこうした状況を調査に関わっている。マイクロソフトは、他とはわずかに異なる量子技術対抗暗号(Webページのセキュリティ確保に利用される)を試験した。グーグルもWebブラウザーのクロムで「新たな希望(New Hope)」というポスト量子暗号アルゴリズムの試験を実施している。

暗号学者で、IBM傘下のセキュリティ企業レジリエント・システムズのブルース・シュナイアー最高技術責任者(CTO)によると、NIST等の政府機関がこうした研究や取り組みに参加することが不可欠だという。ただし、企業が量子コンピューティング時代に向けて今から緻密に計画を立てるべきかについて、シュナイアーCTOはあまり賛同していない。「今計画を立てるのはあまりに早すぎます。企業は量子コンピューティングへの備えをまだ考える必要はありません」とシュナイアーCTOはいう。

一方、ポスト量子セキュリティ企業エボリューションQの共同創業者で、ウォータールー大学(カナダ)量子コンピューティング研究所のミシェル・モスカ副所長は、医療記録や金融記録など、長年価値を持つデータを扱う企業が、量子コンピューターに備えるのに早すぎることはないと考えている。

モスカ副所長によれば、重要データを扱う企業は、敵対者が暗号化データを盗みだし、量子コンピューターが解読できるまで、データを保存するリスクを考慮すべきだという。社会のあちこちにある暗号を更新する複雑な作業に、一部の企業でも今から関わらなければ、量子セーフ暗号を標準化団体や政府が承認しても、業界は量子セーフ暗号の導入をすぐには準備できないだろう、とモスカ副所長はいう。

モスカ副所長は、現在非常に重要なデータの暗号を解読できる量子コンピューターを誰か(おそらくは国家)が2026年までに所持する可能性を7分の1と推測している。「大惨事が起きるまで待ち、起きてから対処する業界の通例は、非常に危険です」とモスカ副所長は警告する。

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MIT Technology Reviewのサンフランシスコ支局長。アルゴリズムやインターネット、人間とコンピューターのインタラクションまで、ポテトチップスを頬ばりながら楽しんでいます。主に取材するのはシリコンバレー発の新しい考え方で、巨大なテック企業でもスタートアップでも大学の研究でも、どこで生まれたかは関係ありません。イギリスの小さな古い町生まれで、ケンブリッジ大学を卒業後、インペリアルカレッジロンドンを経て、ニュー・サイエンティスト誌でテクノロジーニュースの執筆と編集に5年間関わたった後、アメリカの西海岸にたどり着きました。
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