KADOKAWA Technology Review
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シリコンバレーの最後の野望
「若返り」を模索する
研究ベンチャーが始動
Alamy, Getty (Bezos)
生命の再定義 Insider Online限定
Meet Altos Labs, Silicon Valley's latest wild bet on living forever

シリコンバレーの最後の野望
「若返り」を模索する
研究ベンチャーが始動

ジェフ・ベゾスやユーリ・ミルナーといったシリコンバレーの大富豪らが出資しているとされる、「若返り」をテーマにしたスタートアップ企業が立ち上がった。潤沢な資金を背景に、自由な発想で研究できる環境を約束し、米国や英国、日本などで研究者の採用を進めている。 by Antonio Regalado2021.09.13

2020年10月のことだ。パロアルト隣接のロス・アルトス・ヒルズ地区にあるユーリ・ミルナーの大豪邸に、大勢の科学者が集まった。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の検査を受け、マスクを着用した科学者たちは、敷地内のホームシアターで開催された2日間の科学会議に参加した。ビデオで参加した人もいた。会議のテーマは、人々を若返らせるためのバイオテクノロジーの可能性だった。

ロシア生まれのミルナーは、フェイスブックやロシアのインターネット・サービス企業であるメイルルー(Mail.ru)への投資で財を成した富豪だ。以前、優れた物理学者、生物学者、数学者に毎年300万ドルを授与する「ブレークスルー賞(Breakthrough Prizes)」を立ち上げたことでも知られる。授賞式には礼装をして集まるような華やかな賞だ。しかし、ミルナーの科学への情熱は、具体的な新しい方向性を示す挑発的なものに変わっていた。科学会議が進むにつれ、動物を「若返らせる」という過激な試みを説明する専門家たちが壇上に登場した。

この科学会議がきっかけとなって、「アルトス・ラボ(Altos Labs)」という野心的なアンチエイジング企業が創業されたと関係者は語る。アルトス・ラボでは生物学的なリプログラミング技術を研究している。リプログラミングは実験室で細胞を若返らせる方法として知られており、動物の全身を活性化させ、最終的には人間の寿命を延ばせると考えている科学者もいる。

今年に入って米国と英国で法人化されたアルトス・ラボは、ベイエリア、サンディエゴ、英国ケンブリッジ、日本などに複数の研究所を設置する予定だ。細胞がどのように老化していくのか、またその老化プロセスを逆転させる方法に関して自由な発想で研究できる環境と高額な給与を提示して、大学の科学者たちを多数採用している。

アルトス・ラボから説明を受けた数人によると、同社の投資家の中には、2021年7月にアマゾンの最高経営責任者(CEO)を退任し、その数週間後に命がけでロケットカプセルに飛び込んで宇宙に到達した世界一の富豪、ジェフ・ベゾスも含まれているという。MITテクノロジーレビューは、ミルナーと彼の妻ジュリアがアルトス・ラボに出資していることを財団を通じて確認した。

アルトス・ラボは、グーグルの共同創業者であるラリー・ペイジが2013年に発表した長寿研究企業「カリコ・ラボ(Calico Labs)」と比較されることは間違いない。カリコ・ラボもまた、エリート科学者を雇い、豊富な予算を提供した。しかし、このグーグルのスピンアウト企業が大きな進歩を遂げたかどうかは疑問視されている。カリコ・ラボもリプログラミングに重点的に取り組む研究室を立ち上げており、今年、リプログラミングに関する初の査読前論文(プレプリント)を発表した。

アルトス・ラボに加わると言われている科学者の中には、カリフォルニア州ラホーヤにあるソーク研究所(Salk Institute)のスペイン人生物学者、フアン・カルロス・イズピスア・ベルモンテ教授がいる。イズピスア・ベルモンテ教授はヒトとサルの胚を組み合わせる研究で評判になり、ヒトの寿命を50年延ばせると予言している。同教授の動向についてソーク研究所はコメントを控えた。

カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の教授であり、人間の老化を正確に測定できる「生物学的時計」の開発者であるスティーブ・ホーバスもアルトス・ラボに加わる。リプログラミングの発見で2012年にノーベル賞を共同受賞した京都大学の山中伸弥教授は、無報酬の上級科学者として同社の科学諮問委員会の議長を務める予定だ。

山中教授の画期的な発見は、「山中因子」と呼ばれるわずか4つのタンパク質を加えるだけで、細胞を胚性幹細胞(ES細胞)の性質を備えた原始的な状態に戻すことができるというものだった。イズピスア・ベルモンテ教授の研究チームは2016年に、山中因子を生きているマウスの全身に適用し、老化が逆転した兆候を得た。それ以降、イズピスア・ベルモンテ教授はリプログラミングを「不老不死の薬」候補と呼んでいる。

このようなマウス実験の結果は、興味をそそる一方で、恐ろしいものでもあった。組織が若返った兆候を示すマウスがいた一方、リプログラミングの度合いによっては、テラトーマ(奇形腫)と呼ばれる悪性の胚芽腫ができたマウスもいた。

「克服すべきハードルはたくさんありますが、大きな可能性を秘めています」と山中教授は電子メールで述べ、アルトス・ラボへの関与を認めた。

中年の危機?

若者は金持ちになることを夢見て、金持ちは若返ることを夢見ていると言われている。このパラドックスを、59歳のミルナーや57歳のベゾスは痛感しているのかもしれない。現在、フォーブス誌の世界の長者番付においてベゾスは純資産約2000億ドルで首位。ミルナーの資産は推定48億ドルとされている。

ベゾスの投資事務所であるベゾス・エクスペディションズ(Bezos Expeditions)へコメントを求める電子メールを送ったが、返信はなかった。

アルトス・ラボの設立に詳しい関係者によると、当初ミルナーのリプログラミングへの関心は慈善的なものだったという。ミルナーの豪邸で開催された科学会議の後、ミルナーが後援する非営利団体であるミルキーウェイ研究財団(Milky Way Research Foundation)が、数人の長寿研究者に年間100万ドルの3年間の助成金を授与した。この助成金の申請は、山中教授と、カリフォルニア大学バークレー校のジェニファ …

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