KADOKAWA Technology Review
×
米国で児童性的虐待コンテンツが急増、オランダ抜き世界首位に
Ms Tech
The US now hosts more child sexual abuse material online than any other country

米国で児童性的虐待コンテンツが急増、オランダ抜き世界首位に

米国は現在、児童性的虐待に関するオンラインコンテンツが世界でもっとも多くホストされている国となった。専門家は、プロバイダーの自助努力は期待できないため、新たな法律がなければ問題は大きくなる一方だと指摘する。 by Rhiannon Williams2022.05.09

児童性的虐待関連のコンテンツを世界で最もオンラインでホストしている国は米国——。虐待コンテンツの発見と取り締まりに取り組む英国の団体「インターネット監視財団(IWF: Internet Watch Foundation)」の新たな調査で明らかとなった。同調査によると、2022年3月末時点で、世界全体の児童性的虐待コンテンツ素材(CSAM)を含むURLの30パーセントが米国でホストされているという。

インターネット監視財団の年次報告では、2021年末時点で世界のCSAMのURLの21パーセントを米国がホストしていた。しかし、その割合は2022年の最初の3カ月間で9ポイント急増したという。インターネット監視財団は、2021年にCSAMまたはCSAMを宣伝する内容を含むURLを25万2194件発見した。この数は2020年から64パーセント増加している。これらの数値は、検知されたCSAMコンテンツを、同財団が物理サーバーを追跡し、地理的な位置を特定することにより確認されたものだ。コンテンツの89パーセントは、画像管理サービス、オンライン・ストレージ、画像ストアから検知された。

インターネット監視財団のホットライン責任者を務めるクリス・ヒューズによると、米国における急激な増加の少なくとも一因は、CSAMを含むいくつかのサイトがオランダから米国にサーバーを移し、CSAMのトラフィックを大量に持ち出したことにある。オランダは2016年以降、世界で最も多くのCSAMをホストしていたが、現在はその数を米国に抜かれている。

ただ、米国で急増するCSAMの問題は、より長期的な要因によるものだ。1つ目の要因とは、単純な米国の規模の大きさと、世界で最も多くのデータセンター、安全なインターネット・サーバーが存在しており、迅速でより安定した接続による高速ネットワークを構築しているという事実だ。すなわち、CSAMをホストするサイトにとって魅力的な状況である、ということだ。

もう1つの要因は、CSAMの規模の大きさに対して、それらを排除するためのリソースが不足していることだ。カリフォルニア大学バークレー校でコンピューター科学の教授を務め、画像をハッシュと呼ばれる固有のデジタル署名に変換してCSAMを識別する技術「フォトDNA(PhotoDNA)」を共同開発したハニー・ファリド教授は、このアンバンランスによって、たとえ捕まったとしても、問題になる可能性は「限りなく低く」、悪質業者が米国内で堂々と活動できると感じているという。

同様に、米国企業は、CSAMのコンテンツを確認した際に「全米行方不明・被搾取児童センター(NCMEC: National Center for Missing & Exploited Children)」に通報することが義務付けられており、最高15万ドルの罰金が定められているものの、積極的な検索は義務ではない。

カナダ児童保護センターのロイド・リチャードソン技術部長は、CSAMを迅速に削除できないプラットフォームに対する罰は、「悪評」以外にはほとんどないと言う。リチャードソン部長は、「CSAMの削除が遅い、あるいは削除しないことを理由に、通信サービスプロバイダーに罰金を課した国はほとんどないでしょう」と述べる。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックの期間中、子どもたちも犯罪者たちもかつてないほど多くの時間をネット上で過ごしたため、CSAMの量は世界中で劇的に増加した。反児童売買組織「ソーン(Thorn)」や、CSAMホットライン50カ所のグローバル・ネットワークである「インホープ(INHOPE)」などの児童保護専門家は、この問題は今後も拡大し続けるだろうと予測している。

では、問題に対処するにはどうしたらよいか。オランダの例がヒントになるかもしれない。オランダは、国家的なインフラや地理的な位置、そして世界的なインターネット・トラフィックの主要ハブとしての地位もあり、依然として大きなCSAMの問題を抱えている。しかし、なんとか大きな前進を遂げることができた。インターネット監視財団によると、オランダは2021年末に世界全体のCSAMの41パーセントをホストしていたが、2022年3月末には13パーセントへと低下した。

背景には、2017年にオランダで新政権が誕生した際、CSAMへの取り組みを優先させたことが大きく影響している。2020年、オランダ政府はCSAMの存在を警告されてから24時間以内に削除できなかったインターネットホスティング・プロバイダーを名指しで非難する報告書を発表した。

少なくとも短期的には効果があったようだ。オランダのCSAMホットライン「EOKM」によると、こうしたインターネットホスティング・プロバイダーの企業名が公開された後、これらのプロバイダーは、より進んでCSAM素材をより迅速に削除するようになった。さらに、これらの企業は、CSAMを発見してから24時間以内に削除することを約束するなど、積極的なCSAM検出手段を採用する傾向があることが分かった。

しかし、EOKMのアルダ・ゲルケンス代表は、オランダはCSAMの問題を根絶したのではなく、問題を別の場所に押し付けてしまったに過ぎないと考えている。「CSAMを一掃したオランダは、成功モデルのように見えます。しかし、その問題が消えてなくなったのではありません。別のところに移動しただけなのです。それが心配なのです」。

児童保護の専門家らは、問題の解決策は法律によってもたらされると主張する。米国では現在、米国通信品位法230条の改正が進められている。同法は、プラットフォームを連邦刑事訴追から保護するものではないが、オンラインコンテンツの法的責任をコンテンツをホストするプラットフォームではなく作成者が負うことを広く規定している。

米上院議会では現在、「アーニット(EARN IT:(Eliminating Abusive and Rampant Neglect of Interactive Technologies)法」と呼ばれる新たな法制度が検討されている。この法律は、CSAMに関連するケースにおいて、オンラインサービスのプロバイダーから230条による法的保護を取り除くもので、個人がプロバイダーに対して民事訴訟を起こすと同時に、州法による刑事告訴の対象にもなり得ることを意味している。

プライバシーや人権擁護活動家は、この法案が言論の自由を脅かし、エンドツーエンド暗号化やその他のプライバシー保護の禁止をもたらす恐れがあるとして、猛烈に反対している。しかし、その半面、テック企業は現在、CSAMによって被害を受ける人のプライバシーよりもCSAMを配信する人のプライバシーを優先していると、全米行方不明・被搾取児童センターのジョン・シェハンは指摘する。

たとえ米国議会が「アーニット法」を可決できなかったとしても、英国で近々制定予定の法案が、CSAMを含む違法コンテンツの責任を大手テック企業のプラットフォームに負わせるだろう。英国の「オンライン安全法案(Online Safety Bill)」と欧州の「デジタルサービス法(Digital Services Act)」が施行された暁には、大手テック企業が違法コンテンツに適切に対処できなかった場合に数十億ドルの罰金を科される可能性がある。

この新たな法律は、英国または欧州で事業をするソーシャルメディア・ネットワーク、検索エンジン、動画プラットフォームに適用される。つまり、フェイスブック、アップル、グーグルなど米国に拠点を置く企業が、英国で事業を継続するためにはこれらの法律を遵守する必要があるということだ。「この件について世界的な大きな動きが出てきています。この動きは世界中に連鎖反応を生み出すでしょう」とシェハンは述べる。

ファリッド教授は、「法制化せずに済むほうがよかったのです」と述べる。「しかし、我々は大手プロバイダー企業自身が倫理規範を持つようになるまでもう20年も待っているのです。法制化は最後の手段です」。

人気の記事ランキング
  1. Advanced solar panels still need to pass the test of time ペロブスカイト太陽電池、真の「耐久性」はいつ分かる?
  2. The AI Act is done. Here’s what will (and won’t) change ついに成立した欧州「AI法」で変わる4つのポイント
  3. Apple researchers explore dropping “Siri” phrase & listening with AI instead 大規模言語モデルで「ヘイ、シリ」不要に、アップルが研究論文
リアノン・ウィリアムズ [Rhiannon Williams]米国版 ニュース担当記者
米国版ニュースレター「ザ・ダウンロード(The Download)」の執筆を担当。MITテクノロジーレビュー入社以前は、英国「i (アイ)」紙のテクノロジー特派員、テレグラフ紙のテクノロジー担当記者を務めた。2021年には英国ジャーナリズム賞の最終選考に残ったほか、専門家としてBBCにも定期的に出演している。
10 Breakthrough Technologies 2024

MITテクノロジーレビューは毎年、世界に真のインパクトを与える有望なテクノロジーを探している。本誌がいま最も重要だと考える進歩を紹介しよう。

記事一覧を見る
人気の記事ランキング
  1. Advanced solar panels still need to pass the test of time ペロブスカイト太陽電池、真の「耐久性」はいつ分かる?
  2. The AI Act is done. Here’s what will (and won’t) change ついに成立した欧州「AI法」で変わる4つのポイント
  3. Apple researchers explore dropping “Siri” phrase & listening with AI instead 大規模言語モデルで「ヘイ、シリ」不要に、アップルが研究論文
気候テック企業15 2023

MITテクノロジーレビューの「気候テック企業15」は、温室効果ガスの排出量を大幅に削減する、あるいは地球温暖化の脅威に対処できる可能性が高い有望な「気候テック企業」の年次リストである。

記事一覧を見る
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る