中国テック事情:生成AIで懐かしい都市の光景が蘇った
人気の生成AIツール「ミッドジャーニー(Midjourney)」を使って、レトロなAIアート作品を描く中国のクリエイターが注目されている。 by Zeyi Yang2023.05.11
この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。
ソーシャルメディアのタイムラインに次のような画像が現れたら、それが1990年代の中国南西部の都市・重慶を撮影した本物の写真かどうか、あなたは答えられるだろうか?
実は、どれも本物ではない。重慶に住む路上写真家のチャン・ハイジュンが、画像生成AIプログラムのミッドジャーニー(Midjourney)を使って作成したものだ。
多くのアーティストやクリエイターが、人工知能(AI)の助けを借りて中国のノスタルジックな写真を作り出している。まだ人間の指の数や漢字の形など、細かいところで間違いはあるものの、これらの写真は私を含む多くのソーシャルメディアのフォロワーたちを騙して感動させるほど、リアルなものだ。
チャンの画像のようなレトロなAIアート作品は、中国の歴史写真コレクター、トン・ビンスエの目にも留まった。トンは先日、それらの写真の何枚かを、自身の人気ツイッター・アカウント「China in Pictures(写真の中の中国)」に再投稿した。
トンは、生成されたこれらの写真には、確かに美的な魅力があると言う。解像度、鮮明さ、彩度、色調など、一般的な写真の評価指標の観点から見ても、洗練されているように見える。「ソーシャルメディア上で人々が何かを見るとき、最初に目を引くのは、これら(の属性)です。写真の信憑性はその次です」(トン)。一方、本物の歴史写真は、素人っぽく見えたり、物理的に一部が欠けていたりすることがある。
上のAI画像の作成者であるチャンは、1992年に重慶で生まれた。長い歴史を持つ中国最大級の鉄鋼工場の1つ、重慶鋼鉄の近くで育ったチャンは7歳ごろ、労働者たちの姿を見ていたのを覚えている。「幼い頃、休憩時間に工場から出てきて地面に座り、タバコを吸いながら遠くを見つめている労働者たちを、よく見ていました。彼らの目には物語がありました」と、チャンは言う。
その経験をミッドジャーニーの画像生成プロンプト(指示テキスト)に変換したところ、結果に驚かされた。「AIが生成したもの、たとえば強い生命力が感じられる労働者たちの目や、服の着方などは、私が説明したものそのものに見えます」。
現在チャンは、ミッドジャーニーに年間200ドル以上を支払い、さまざまなテーマで新たなレトロ写真を作り出している。90年代の農村の結婚式や、市場で雇われるのを待つ肉体労働者たち、重慶のストリート・ファッションなどの写真だ。毎回、中国語でプロンプトを書き、機械翻訳ツールを使って英語に変換してからミッドジャーニーに読み込ませて、理想的な結果になるまで20分ほどかけて微調整する。
AIを使って活動するアーティストの中には、発見された本物の写真からインスピレーションを得る者もいる。欧米の離散ユダヤ人の若者たちは、インスタグラムでコミュニティを作り、そこでクラウドソースしながら歴史写真を集めて整理することで、欧米の枠組みに捕らわれない記憶を再構築している。
杭州に住む28歳のUIデザイナー兼写真家のキム・ワンは、フランス人アーティストのトーマス・ソーヴィンによるプロジェクト「北京銀鉱山」からインスピレーションを得た。このプロジェクトでソーヴィンは、北京のリサイクル工場から、廃棄された1985年ごろのカラーネガ85万枚を救出した。
ワンはミッドジャーニーを使い、1980~90年代の中国の写真を作り出した。
「私たちの世代にとっては、1995年から2023年までの期間が大きく飛躍しているように感じます」と、ワンは言う。「今とはまったく違う時代ですが、その時代に戻りたいような気持ちがあるのです」。ワンは特に、杭州がハイテクハブとなり、アリババ(Alibaba)、ハイクビジョン(Hikvision)、ネットイース(NetEase:網易)など複数の中国テック企業が拠点を構える前の姿を再現したかった。「それほど複雑ではなかった時代に戻したいのです」。ワンは、中国に広がる燃え尽き症候群を説明する表現として近年人気になった言葉を使って、こう話す。
ワンが作成した1枚の写真の中では、若いカップルが、杭州の有名な西湖のほとりでファーストフードをシェアしている。ワンは、マクドナルドのロゴをソフトクリームのパッケージに表示させたかった。ところがミッドジャーニーは、ロゴを中国の伝統的な深紅色の柱の上に配置し、意外なひねりを加えた。ワンはこの偶然の結果を気に入り、この写真を他の7枚と一緒に、ソーシャルメディア・アプリの小紅書(Xiaohongshu)に投稿することにした。すると、およそ9000件の「いいね!」がついた。
AIが生成したこれらの写真が話題になっているのは、3月中旬にリリースされたミッドジャーニーのメジャーアップデートによるところが大きい。ワンによれば、最新のバージョン5では、人間の手の生成が改善されただけでなく、さまざまな写真スタイルをまねることも上手になったという。以前のバージョンで生成された写真は、照明が適切でないために、イラストのように見えることがよくあった。ここ最近話題になった、おしゃれなローマ法王の写真やドナルド・トランプ前大統領が逮捕される姿と主張する写真など、いくつかのAI画像はどれも、新バージョンのミッドジャーニーを使って作成されている。
ワンによると、新バージョンでアップグレードされたもう1つの重要な点は、アジア人の顔をステレオタイプで描くことから脱却し始めたことだという。「バージョン4で生成された写真は、アーモンド型の目や細長い目、一重まぶたなど、欧米のファッション広告に登場するモデルの顔に近かった」とワンは言う。
とはいえ、素人の目から見ても、AIが生成した写真であることはまだ比較的簡単に見破ることができる(たとえば、上の花嫁の写真では、後ろの赤いズボンをはいた女性の足が1本ない)。
ミッドジャーニーに対しては、他のアプリケーションやその他の類似のAIツールと同様に、知的財産の盗用も懸念されている。権利者の許可やクレジット表記なしに特定のアーティストのスタイルを模倣するからだ。
「写真家からデータを盗み、それを使って金儲けをしたり、必ずしも支持を得られない方法でメッセージを送ったりしています」。政策研究者でもあるアーティストのルイ・ジョンは、AIが生成した重慶のレトロ写真を掲載するトン・ビンスエのツイートの下にこう書き込んだ。中国のソーシャルメディアでは、最近の画像生成AIの流行で一部のイラストレーターが厳戒態勢に入っており、適切な表記のない、AIの生成したアート作品を探し回って告発している。
トンは、レトロ画像には、見て楽しいという以外の価値はあまりないと言う。「歴史写真の最も重要な特性は、アーカイブとしての価値です。鮮明さ、色調、芸術的価値などはすべて、副次的なものです」。
古い写真の中には、画像の被写体だけでなく、背景に見えるものや、偶然捉えられた可能性のある小さなものなど、学ぶべきものがあるとトンは言う。写真そのものも、人の手による芸術品である。銀塩フィルム、ガラスネガ、紙片、どのようなものであっても、物質的な媒体としての写真には、時間を経てきた自らの旅が記録されている。それに対してAIレトロ写真は、ただ見栄えの良い画像というだけで、他には何ももたらさない。
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大学生グループが明らかにした中国ネットいじめの実態
中国では、いまだにネットいじめで命が奪われている。
髪をピンクに染めたことでネットいじめを受けた中国人女性が昨年自殺した事件を受け、復旦大学の復数データジャーナリズム研究室の大学生グループが、中国におけるネット嫌がらせの深刻さを示すデータの収集に乗り出した。
学生たちは何千件ものニュース記事を整理し、2022年に起こった311件のネットいじめ事件を記録したデータベースを完成させた。被害者の40%以上は普通の人々だった。特に人前で目立つ仕事に就いているわけではないが、たまたまネット上の見知らぬ人から私生活に口を挟まれ、ターゲットにされた人たちである。女性の場合は容姿や人間関係、一家の品行を理由に、男性の場合は思想の違いやニュースに関する言説、仕事上の能力を理由にいじめられる傾向があることが分かった。
2022年には中国の多くのソーシャルメディア・プラットフォームが、有害な情報をフィルタリングする新しい仕組みを導入することと、いじめの被害者が制限をかけて自分を守れるようにすることを約束した。この新しいルールの有効性をテストするため、学生たちは中国の4つのプラットフォームでネットいじめを装ったコメントを投稿した。その結果、特にプライベートメッセージに関しては、ほぼすべてのコメントが、自傷行為、辛辣な侮辱、露骨な画像に関するプラットフォームの検出基準に引っかかることが判明した。
あともう1つ
今こそ、その男性的な視線を男に向け直す時だ。中国で大人気の飲料ブランド「ココナッツパーム」は、性的なほのめかしや女性のきわどい写真であふれる、当惑してしまうような広告で有名だ。しかし、市場競争の激化に直面しているこのブランドは、より多くの若い女性客を惹きつけるために、自らを改革したいと考えている。そこで、3月8日の国際女性デーに、タイトな服を着て看板商品の飲料缶を持ちながらワークアウトする、マッチョな男性のライブストリーミングを放送した。しかし、残念ながら上手くいかなかった。ライブストリーミング中にこの男性モデルがネット上で売った商品の総額は、150ドルにも満たなかった。
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- ヤン・ズェイ [Zeyi Yang]米国版 中国担当記者
- MITテクノロジーレビューで中国と東アジアのテクノロジーを担当する記者。MITテクノロジーレビュー入社以前は、プロトコル(Protocol)、レスト・オブ・ワールド(Rest of World)、コロンビア・ジャーナリズム・レビュー誌、サウスチャイナ・モーニング・ポスト紙、日経アジア(NIKKEI Asia)などで執筆していた。