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AI規制のゆくえを占う、2023年に得られた4つの教訓
Stephanie Arnett/MITTR
Four lessons from 2023 that tell us where AI regulation is going

AI規制のゆくえを占う、2023年に得られた4つの教訓

2023年は生成AI技術および同技術の規制についての話題で持ちきりだった。規制の具体的な動きが始まる今年、AI政策に関して知っておくべき4つのポイントについて説明しよう。 by Tate Ryan-Mosley2024.01.15

この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。

2023年、米国をはじめとする国々は、人工知能(AI)とその規制の話題で持ちきりだった。2024年はさらに多くのアクションが起こることが確実だ。本誌は先日、2024年のAI政策についての予測をまとめた記事を発表した。

ごく大まかには、昨年登場した戦略が継続、拡大し、そして実行に移されると予測される。たとえば、バイデン大統領の大統領令を受けて、米国のさまざまな政府機関が新たなベストプラクティスの概要を示す可能性があるが、AIテック企業に自らを取り締まる権限を与えるかもしれない。諸外国では、企業と規制当局が欧州のAI規制法とそのリスクベースのアプローチに取り組み始めるだろう。もちろん、シームレスにとはいかないだろう。これらの新たな法律や政策が実際どのように機能するかについて、多くの議論が交わされるに違いない。

この記事を書きながら、これまでの経緯を振り返る時間があった。テクノロジーの台頭に関する物語は、反省的に検証する価値があると思う。次に何が起こる可能性があるかをより深く理解するのに役立つからだ。記者である私は、そうした物語の時間経過とともに浮かび上がってくる一定のパターンを目にしてきた。ブロックチェーンであれ、ソーシャルメディアであれ、自動運転車であれ、あるいはその他の急速に発展し、世界を変えるイノベーションであれ、そうである。テクノロジーは通常、規制よりもはるかに速い動きを見せる。立法者が、持続可能で将来にわたって機能する法律を作るための新しい方法を考案しながら、テクノロジー自体のスピードに追いつくのはますます困難になっている。

米国について具体的に考えてみると、これまでに経験してきたことが前例のないことなのかどうかは分からないが、確かに、生成AI(ジェネレーティブAI)が私たちの生活に導入されるスピードには驚かされてきた。昨年、AI政策は、巨大テック企業のパワーバランスの変化、議会のスキルアップと超党派性(少なくともこの分野では)、地政学的競争、そして新進テクノロジーの迅速な開発によって特徴づけられた。

そこから私たちは何を学んだだろうか? そして、次に何が起こるのか? 政策についていえば、把握しなければならないことは山ほどあるが、ここでは知っておくべきことを4つの要点に分類してみることにする。

1. 米国政府は巨大テック企業を締め付けるつもりはないが、立法者は確かにAI業界を巻き込もうとしている

オープンAIの最高経営責任者(CEO)であるサム・アルトマンは、チャットGPTの衝撃的な発表から6カ月後の昨年5月、初めて連邦議会に足を運んだ。プライベートな夕食会で立法者たちと会い、自身のテクノロジーが人類にもたらしうる存亡の危機について証言した。これはいろいろな面で、米国でAIについて話す際の道筋をつけた。その後、AIに関するバイデン大統領のスピーチ、立法者たちに情報を提供する議会のAIインサイト・フォーラム、そしてより多くの大規模言語モデルのリリースなどが続いた(注目すべきことに、これらのAIインサイト・フォーラムのゲストの顔ぶれは、産業界に大きく偏っていた)。

米国の立法者たちがAIに本格的に取り組み始めたことで、それは(わずかではあるが)議会における超党派の珍しい分野となった。両党の議員から、テクノロジーへの規制強化を求める声が上がっている。同時に、州レベルや法廷での活動も活発化した。主に、年齢認証投稿監視といったユーザー保護をめぐる動きだ。

記事に書いたとおり、「この活動を通じて、米国流のAI政策が浮かび上がってきた。ベストプラクティスを重視し、各機関が策定する独自ルールに頼り、経済の各分野にそれぞれ異なる規制を適用するという微妙なアプローチを採る、AI産業界に優しい政策である」。その集大成が、10月末のバイデン大統領令である。そこで同大統領は、各機関が独自ルールを策定するためのAI政策に対する分散型アプローチを概説していた。これは(当然かもしれないが)AI企業の賛同に大きく依存するものだ。

2024年は、これらすべてを踏まえた新たな規制の導入が予測できる。別の記事で書いたように、議会は新法の草案を起草することに関心を向けており、バイデン大統領令を補完するレコメンド・アルゴリズムデータプライバシー透明性に関する既存の法案を検討する予定だ。州もまた、独自の規制を検討することになるだろう。

2. AIがもたらす害やリスクに対処するのは容易ではない

実存的リスクが昨年の最も大きな見出しのいくつかを飾った。その一方で、人権擁護団体や研究者たちはしばしば、不正確な情報や偏見を永続させるといった、市場に出回っているAIが今まさに引き起こしている危害を指摘した。そして、実存的リスクが誇張され過ぎると、黒人や褐色人種の患者を不均衡に誤診する医療用AIのような現実の危険から注意をそらしてしまうと警告した。

将来のロボット戦争をどの程度懸念すべきかといった議論が家庭や学校に浸透するにつれ、さまざまな機関や地方規制当局が、AIに関する宣言や声明を発表し始めた。たとえば、米国連邦取引委員会(FTC)と米国消費者金融保護局(CFPB)を含む4つの米国連邦政府機関が4月に発表した共同声明では、人工知能(AI)には「不法な偏見を永続させたり、不法な差別を自動化したり、その他の有害な結果をもたらす可能性がある」と警告している。しかし、こうした結果をどのように監視・防止するのかについては、現時点では分からないことだらけだ。

テック業界自体においては、AIシステムの危険性をめぐり、関係者が立法者たちと言い争いを続けるだろう。欧州連合(EU)のAI規制法をめぐる土壇場の議論は、基盤モデルをめぐる争いに終始したが、この議論は今年もさまざまな場所で続くだろう。AIのどのような用途を高リスクと見なすべきか、誰がそうしたリスクを管理する責任を負うべきかも議論されることになる。

3. AIはテクノロジー・ナショナリズムとグローバル競争の次の未開拓分野である

この1年で、AIに対する米国のアプローチが、中国に対する技術的優位性を達成・維持したいという願望に基づいていることも明らかになった。その間にも両国は、AIモデルに必要なハードウェアを提供する半導体の貿易戦争をエスカレートさせ続けている。

技術力で優位を保つだけでなく、米国はテクノロジー規制のリーダーとなり、規制の厳しい欧州に対抗したいと願っている。バイデン大統領令は、英国のAIサミットの数日前、EUのAI規制法をめぐる最終交渉の前に、戦略的に発表された。

4. 米国と世界の選挙の行方を注視すべきである

もちろん、米国は2024年に大きな選挙をするが、他の多くの国でも選挙がある。2023年の最後の記事では、生成AIやその他のメディアテクノロジーが欺瞞に満ちた不正確な情報を氾濫させるのではないかと強く懸念されることについて論じた。私は特に、ソーシャルメディア・プラットフォームや政治家たちが、生成AIが生み出す政治的デマという新たな脅威にどのように対処するのかに関心がある。数カ月前の記事に書いたように、研究者たちはすでに悪影響を目にしている。

少なくともひとつ確かなのは、2023年に生成AIがユーザーに素早くリリースされたため、2024年の選挙でおそらく劇的で前例のない影響が出るということだ。テクノロジーがいかに急速に変化し、ユーザーがそれをいかに素早く予期せぬさまざまな方向に押し進めてゆくかを考えると、今後何が起こるかを正しく予測するのは難しい。そういうわけで、たとえ政府やソーシャルメディア企業が、セーフガードの強化や新たな政策の策定を試みたとしても、2024年に生成AIが実際にどのように使用されるかが、将来の規制を策定する上での鍵となるだろう。

いずれにせよ、興味深いことになるのは間違いない。

テック政策関連の注目動向

  • ニューヨーク・タイムズ紙が、チャットGPTの訓練に同社の記事を使用したとしてオープンAIを提訴している。これはここ数週間で最も注目すべき記事の一つだ。もうお読みになっただろうか。私は特に、訴状にあるとおり、チャットGPTのアウトプットとニューヨーク・タイムズ紙の記事がよく似ていることに興味を持った。
  • スタンフォード・インターネット観測所(Stanford Internet Observatory)の研究者たちは、生成AIの訓練に使用される主要なデータセットの一つに、児童の性的虐待の素材の例が何千点もあることを発見した。そのデータセットは現在、一時的に削除されている
  • スマートカーが、パートナーを虐待する人物により監視や追跡の道具とされ、武器と化している。ニューヨーク・タイムズ紙のカシミール・ヒル記者の新しい記事が伝えている。ほとんどすべてのものが位置データを生成する能力を持つ世界において、この種の話はますます一般的になるだろうと私は危惧している。

テック政策関連の注目報道

本誌のメリッサ・ヘイッキラ記者とウィル・ダグラス・ヘブン編集者は、2024年にAIに何が起こるかを予測する記事を発表した。記事では、チャットボットのカスタマイズ、生成AI映像の新たな進歩、選挙期間中にAIが生成する偽情報、そしてマルチタスク・ロボットの登場を予測している。間違いなく、一読の価値ありだ。

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新しいテクノロジーが政治機構、人権、世界の民主主義国家の健全性に与える影響について取材するほか、ポッドキャストやデータ・ジャーナリズムのプロジェクトにも多く参加している。記者になる以前は、MITテクノロジーレビューの研究員としてニュース・ルームで特別調査プロジェクトを担当した。 前職は大企業の新興技術戦略に関するコンサルタント。2012年には、ケロッグ国際問題研究所のフェローとして、紛争と戦後復興を専門に研究していた。
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