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Audi’s New A8 May Drive Itself, But Owners Should Proceed With Caution

アウディ、渋滞時はAIボタンで自動運転 「ながら通勤」も

アウディは従来の市販車とは一線を画する自律運転機能を搭載した新型セダンを発売した。しかし、車載センサーとアルゴリズムが、運転中に起こりうるすべての事態に対処できるわけではない。 by Jamie Condliffe2017.07.18

アウディの新型高級セダンA8は、渋滞時には走行時速60キロ以下で自律運転が可能とされている。だが、運転手はあまり気を抜かないほうがいいだろう。

アウディA8には、レーダー、カメラ、超音波センサー、レーザー・スキャナーが搭載されている。アウディによると、無人運転自動車の基準として想定されているレーザーを搭載し、周辺状況の把握に用いる市販車は初めてだという。センサーについての詳細をアウディに問い合わせたが、この記事を執筆中には返答を得られなかった。それでも、自律性オートパイロット・システムに精度があまり高くないレーダーとカメラしか使っていないとして批判を受けたテスラに対し、アウディは一線を画している。

2016年、テスラの車両1台が衝突死亡事故に巻き込まれた。運転手はオートパイロットを使用中で、多数の警告が出されたにも関わらず車両の制御を怠り、走行した37分間のうちたったの25秒しかハンドルに触れていなかったという。車両は幹線道路を横断中のトレーラーに衝突した。搭載されたレーダーとカメラ・センサーは、トレーラーを認識できなかったのだ。

アウディA8に搭載されたレーザー・センサーは、こうした状況を回避するのに役立つ。さらに、他の機能と連動して、アウディが言うところの「トラフィックジャム・パイロット」(渋滞時運転支援システム)に必要なデータを提供する。自律運転機能は「AI」と表示されたボタンを押すと起動し、アクセル、ブレーキ、ハンドルの操作を自動制御する。ただし、使用できるのは走行速度が時速60キロ以下で、反対車線が中央分離帯で隔てられている場合に限られる。アウディは、将来的にはドライバーが「ハンドルにまったく触らなくてもよくなり、各国の法律が許す範囲で、車載機能を利用した別のこと、たとえばテレビの視聴など」が可能になるかもしれないと提案している。

この驚くべき提案をめぐり、自律自動車開発業界の意見は割れるだろう。設計理念にちょっとした対立が起こっているからだ。アウディやテスラといった一部の企業は、すでに幹線道路で実用可能な自律運転機能を売り出しており、車が交通状況に対処できない場合は運転手が操作を引き継ぐように求めている。他方、フォード、ウェイモ(Waymo)、ウーバー(Uber)などの企業は、じっくりと開発に取り組み、人間による介入が一切必要ない車を作り出そうとしている。

どちらのやり方が正しいのかは分からない。半自律型移動手段に好意的な人々は、テスラやアウディが導入した自動運転機能は、車の安全性を高め、路上での衝突事故を減らすのに役立つだろうと語る。しかしウェイモ(2017年版スマート・カンパニー50)の主張によると、半自律型の車に乗った運転手は危険なほど注意散漫になることが調査から明らかになっているという。一部の専門家は、半自律型車両は今後、ながら運転による死亡事故を増加させる恐れがあると警鐘を鳴らしている。

ドライバーの注意力が途切れたり、制御を引き継ぐよう促されたにも関わらずハンドル操作を怠ったりした場合にも対処できるように、アウディが車の設計にかなり力を入れたのは明らかだ。アウディA8の発売を取り上げたワイアードの記事は、以下のように報じている

アウディA8は、計器群に備わった顔認識カメラで持ち主の顔を監視する。ハンドルは運転手が触れていることを感知する。運転手の助けがいると判断した時や、運転手が注意散漫になっているのを感知した時は、表示と音声で執拗に警告を発する。改善が見られない場合は、シートベルトを引き締めて、徐々にスピードを落とす。それでも駄目ならどうするかって?ハザードランプをつけて、ゆっくりと停車し、ドアを開けるのだ。

素晴らしい仕組みだが、運転手が制御を引き継ぐ隙もないほどの突発的な危険に対しては通用しない。予測不能かつ極端で稀なケース、例えば高速道路を走行中にいきなり人が飛び出してくるといった状況こそが、自律型移動手段の最も大きな課題だ。幹線道路で起こる可能性がどれだけ低くても、この種の問題があるために、ウェイモやウーバーは最初から完全自律制御にこだわっているのだ。

実際のところ、センサーとアルゴリズムは、道路上の生物が車に対して引き起こす全ての事態には対処できない。少なくとも、アウディA8のAIを呼び出して運転を任せるのであれば、そのことを心に留めておいたほうがいいだろう。

(関連記事:AudiWired、「Lazy Humans Shaped Google’s New Autonomous Car」、「半自律自動車は不注意死亡事故を増やす」、「自律自動車の重要部品『ライダー』に盗用と在庫・性能不足問題」)

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クレジット Image courtesy of Audi
ジェイミー コンドリフ [Jamie Condliffe]米国版 ニュース・解説担当副編集長
MIT Technology Reviewのニュース・解説担当副編集長。ロンドンを拠点に、日刊ニュースレター「ザ・ダウンロード」を米国版編集部がある米国ボストンが朝を迎える前に用意するのが仕事です。前職はニューサイエンティスト誌とGizmodoでした。オックスフォード大学で学んだ工学博士です。
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