KADOKAWA Technology Review
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Startup Uses Computer Vision to Make Augmented Reality in Cities More Precise

ポケモンGOのズレをなくせ!ARアプリの精度アップに新技術

現在の拡張現実(AR)アプリで、現実世界に重ね合わせて表示されるバーチャル・イメージにはどこか不自然さが付きまとう。その原因の一つに、混雑した街中では特に、ユーザーの位置を正確に検出できないことがある。 by Rachel Metz2017.08.07

スマホを使って「ポケモン GO」のような拡張現実(AR)アプリで遊んだことがある人ならだれでも、ディスプレイ越しに見えるバーチャル・イメージが、背景の現実世界とは異なって見えることに気付くだろう。

拡張現実アプリは、スマホのGPSと磁気センサーを組み合わせて使うことでユーザーのいる場所を検知し、スクリーン上のどこにバーチャル・イメージを表示するかを決める。しかし、賑やかな都市を歩き回っているときには、GPSがあまりうまく機能しない。そのため、バーチャル・オブジェクトが周囲の風景に溶け込まず、ぎくしゃくしながら現れたり消えたりすることになるのだ。

拡張現実のスタートアップ企業であるブリッパー(Blippar)は、新しい方法でこの問題を解決し、より見た目のよい拡張現実(AR)アプリで先行したい考えだ。コンピュータービジョンを使って、周囲の込み合った都市空間と比較することで、ユーザーの現在地と向かっている方角を検知する。この方法は多くの場合、都市部ではGPSよりも精度が高いという。

ブリッパーの共同創業者兼CTO(最高技術責任者)のオマール・タイーブによれば、この手法を可能にするために、主要都市の大量の画像データのライセンスを受けているという。どの会社と提携しているのかは明言していないが、基本的にはグーグル・ストリート・ビューの他社版だろう。写真をインデックス化し、スマホのカメラ越しにユーザーが見ているものと照らし合わせ、その場所に最も一致するものを見つけ出す (スマホはユーザーの場所を特定するのにGPSや電波塔を利用した三角測量も使用するかもしれないが、ブリッパーの及ぶところではないとタイーブCTOは言う) 。これまでに同社は、サンフランシスコ、ロンドン、カリフォルニア州マウンテンビューでこの手法のテストをしている。

都市の画像データを使うことで、異なる角度から撮影した建物群の写真を取得できるようになり、その一つからどれくらい離れていて、どの角度からそれを見ているのかを特定できるとタイーブCTOは語る。これはまた、バーチャル・サインや他のバーチャル・イメージを表示する場所を、より正確に決めるのにも役立つ。

どのように見えるのかは、ブリッパーが開発中の拡張現実アプリの試作を用いてiPhoneで撮影したYouTube映像を見ればおおよそ感じ取れるだろう。

映像のグラフィックスは粗く見える。道の上に重ねて表示した色の帯の中を自転車に乗った人が通り抜けていき、飲食店のメニューを書いたサンドイッチボードのバーチャル・イメージは妙な具合に地面の上に浮かんでいる。

しかしイメージは素早く現れるし、表示される位置も理にかなっているように見える。タイーブCTOは、位置推定手法の精度は平均8メートル以内だが、たいていの場合は3メートル以内に収まるという。スマホのGPSは、開けた場所で大体5メートル以内の精度だ。建物や木が多い場所では、これよりも悪くなる。

ブリッパーは今後3ヵ月以内に、アンドロイド端末とiPhone用の拡張現実アプリを一般向けにリリースし、不動産リストやレストランのレビューのイメージを現実世界の位置に重ね合わせるのに、同社の位置決め技術が有効であることを示す計画だ。ゆくゆくは、他社のアプリ向けにテクノロジーのライセンスを与えることも考えているという。

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レイチェル メッツ [Rachel Metz]米国版 モバイル担当上級編集者
MIT Technology Reviewのモバイル担当上級編集者。幅広い範囲のスタートアップを取材する一方、支局のあるサンフランシスコ周辺で手に入るガジェットのレビュー記事も執筆しています。テックイノベーションに強い関心があり、次に起きる大きなことは何か、いつも探しています。2012年の初めにMIT Technology Reviewに加わる前はAP通信でテクノロジー担当の記者を5年務め、アップル、アマゾン、eBayなどの企業を担当して、レビュー記事を執筆していました。また、フリーランス記者として、New York Times向けにテクノロジーや犯罪記事を書いていたこともあります。カリフォルニア州パロアルト育ちで、ヒューレット・パッカードやグーグルが日常の光景の一部になっていましたが、2003年まで、テック企業の取材はまったく興味がありませんでした。転機は、偶然にパロアルト合同学区の無線LANネットワークに重大なセキュリテイ上の問題があるネタを掴んだことで訪れました。生徒の心理状態をフルネームで記載した取り扱い注意情報を、Wi-Fi経由で誰でも読み取れたのです。MIT Technology Reviewの仕事が忙しくないときは、ベイエリアでサイクリングしています。
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