期待はずれだった平昌五輪のVR配信、東京に生かせるか?
平昌で開催中の冬季オリンピックでは、NBCが50時間以上のVRライブストリーミングを提供している。記者もさっそく自宅で体験してみた。 by Rachel Metz2018.02.20
多くの人々のように、私はその夜、平昌冬季オリンピック大会の生中継に釘付けだった。女子ハーフパイプ決勝でアメリカの天才スノーボーダー、クロエ・キムが優勝を決める瞬間を見ていた。だが、私は他の多くの観客とは違って、実質現実(VR)ヘッドセットを頭に取り付けて、粉雪が舞うのを見ていたのだ。
VRは、オリンピックのような大規模で国際的なスポーツイベントを見るのに素晴らしい手段だと言われている。平昌はとても遠く、実際に現地に見に行くとしたら非常に費用がかかる。おまけに、もし現地に着いて競技のチケットを買ったとしても、いい位置から見られるとは限らない。しかも、現地は極寒なのだ。
むしろ私は、アメリカの気温調整された自宅のリビングに座ったまま、実際に平昌に行こうと思う。NBC(National Broadcasting Company)は、VRヘッドセットで動作するスポーツVRアプリを提供している。2月9日から2月25日まで開催される2週間以上の競技で、NBCはインテルとオリンピック放送機構(OBS)と協力し、スノーボードからカーリング、フィギュアスケートまで、VRで視聴できる50時間以上のライブストリーミングと、録画されたビデオ・クリップを提供中だ。
NBCがオリンピックのVR配信をするのはこれが二度目だが、VRアプリ上でイベント開催と同時にストリーミングするのは今回が初めて。私は冬のスポーツの熱烈なファンではないものの、リアルタイムのVR放送に自分が興奮するかどうかに興味があった。そこで、グーグルのデイドリーム・ヘッドセット(Daydream headset)と対応するスマホを使って、ここ数日間できる限り視聴してみた。
カーリングとスノーボードはライブで見て、ボブスレー、ダウンヒルスキー、スキージャンプなどは録画で見た。それは圧巻だった。ショーン・ホワイトがハーフパイプで私を吹き飛ばしたり、バーチャルなボブスレーに乗ってトラックを滑降したりした。いくつかの競技では、1つのVRカメラの視点からもう1つの視点に切り替えられるのはすばらしかった。
だが、2018年最初のバーチャル空間での冒険は、 VRが奇妙な転機にあることを証明した。VRはかつてないほどに安価で幅広く利用できるようになったのに、大衆の視覚体験を変換するのに優れているとはまだいえないのだ。
オリンピックのような大がかりのショーとなると、コンテンツクリエーター側も、魅力的なVR映像を撮る方法やコンテンツを提供する最良の方法に、まだ確信を持っていない。いらだたしい途中の中断やテレビよりもはるかに低い画質などを考えると、数分間以上視聴し続けることはいまだに困難だ。
最初に気になったのは画質だ。VR映像の解像度は、2016年の夏季オリンピック大会のときよりも一見するとよさそうだが、依然としてひどいものだ(私の夫はライブストリーミングを見るためにヘッドセットを試したが、怒って私に返してきた)。
確かに、平昌の雪景色、選手の体とスポーツギアのような大きな特徴、VRカメラが設置される仮設のプラスティックフェンスのようなクローズアップされた物体は見ることができた。だが、どのVRカメラの視野を表示するか自動的に決定する特別な「VRキャスト(VR Cast)」モードで見ない限り、人物の顔を区別することは不可能だった。VRキャストモードは、選手の顔をクローズアップして表示するバーチャルな大画面テレビを含んでいるモードだ。さらに悪いことに、配信は定期的に途切れて配信された。
VRでライブ視聴するのに最適だと思われる競技が、さまざまな理由から必ずしもうまく見られないこともわかった。ペースが速くスピンが多いスノーボードのハーフパイプはVRにぴったりだろうと思っていたが、あまりにも動きが速すぎて、コースに沿って待機していたにも関わらず、選手が目の前をあっという間に通過し、「ぼやけた何か」以上に見えることはなかった。さらに、競技中の野外の照明の変化が、何が起こっているのかをより見えにくくしていた。
意外なことに、カーリングはVRでのライブ視聴にはるかに適していた。カーリング競技は室内の平面で行われ、常に少ない人数だけが参加する。照明は一貫しており、どんな視点からでも動きを容易に追いかけることができたし、カメラの視点を切り替える時間にも余裕があり、競技の最中に何かを見逃すこともほとんどなかった。
NBC、インテル、そしてOBCがより良いVR体験を未来のオリンピックに向けて実現することに期待している。以下が、修正すべきと考える項目のリストだ。
- 第一に、画質を向上させる。誰もぼやけた選手なんて見たくない
- 360度カメラをもっと使う。平昌から見たライブイベントは180度 カメラで撮影された視野であり、夢中になるような体験を提供できない。一方で、短いハイライト映像は、360度カメラで撮影されていた。360度カメラを常に使用することで大きな違いが生まれるだろう
- カメラを置く位置を熟慮する。選手がすばやく猛進する雪の斜面上や、人々がカメラの前をさまようかもしれない場所に1つ設置しても、気づかない可能性がある
- より多くのライブストリーミングを提供するとともに、どの録画済み映像を提供するかを熟慮する。アプリをダウンロードして、VRゴーグルを装着するという手間をかけるのならば、何か特別なものを見たい。ライブがVRの視聴者に緊迫感を与えるのだ
2020年に東京でオリンピックが開かれるとき、私は再びVRでオリンピックを見るだろう。だが2018年の閉会式ではテレビに波長を合わせるつもりだ。
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- レイチェル メッツ [Rachel Metz]米国版 モバイル担当上級編集者
- MIT Technology Reviewのモバイル担当上級編集者。幅広い範囲のスタートアップを取材する一方、支局のあるサンフランシスコ周辺で手に入るガジェットのレビュー記事も執筆しています。テックイノベーションに強い関心があり、次に起きる大きなことは何か、いつも探しています。2012年の初めにMIT Technology Reviewに加わる前はAP通信でテクノロジー担当の記者を5年務め、アップル、アマゾン、eBayなどの企業を担当して、レビュー記事を執筆していました。また、フリーランス記者として、New York Times向けにテクノロジーや犯罪記事を書いていたこともあります。カリフォルニア州パロアルト育ちで、ヒューレット・パッカードやグーグルが日常の光景の一部になっていましたが、2003年まで、テック企業の取材はまったく興味がありませんでした。転機は、偶然にパロアルト合同学区の無線LANネットワークに重大なセキュリテイ上の問題があるネタを掴んだことで訪れました。生徒の心理状態をフルネームで記載した取り扱い注意情報を、Wi-Fi経由で誰でも読み取れたのです。MIT Technology Reviewの仕事が忙しくないときは、ベイエリアでサイクリングしています。