KADOKAWA Technology Review
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2024年を代表する若きイノベーターたちに会える!【11/20】は東京・日本橋のIU35 Japan Summitへ
持続可能エネルギーへの
転換が進まない本当の理由
Denis Doyle | Getty
カバーストーリー Insider Online限定
At this rate, it’s going to take nearly 400 years to transform the energy system

持続可能エネルギーへの
転換が進まない本当の理由

地球温暖化による気候変動の問題はもはや、抜本的な解決策に多額の費用をかけるか、気候変動の影響で将来起こる異常気象がもたらす大規模被害の処理に費用をかけるかの選択を迫られている。それにもかかわらず世界は、問題に対して真っ向から取り組むことを始めてすらいない。 by James Temple2018.05.02

15年前、カーネギー研究所の上級研究者であるケン・カルデイラ博士の計算では、壊滅的な気候変動を避けるには2000年から2050年まで毎日、クリーン・エネルギーによる発電能力を、原子力発電所1つ分だけ増やしていく必要があった。最近になってカルデイラ博士は、現在どうなっているのか見るために簡単な計算を行なった。

結果はよくなかった。気温上昇を2度以下に抑えるには毎日約1100メガワットずつ無炭素エネルギーを増やす必要があるというのが、博士が2003年にサイエンス誌に発表した論文の結論であった。しかし現実には、毎日151メガワットずつしか増えていない。これは12万5000件の家庭分の電力でしかない。

このペースでは、エネルギー・システムを本質的に転換するには、今後30年どころか、4世紀近くもかかってしまう。その間に気温は上昇し、極地の氷が溶け、都市が水没し、地球上のあちこちで破壊的な熱波が発生するだろう(「気候変動が形成する悪循環、頻発する異常気象と自然災害」を参照)。

カルデイラ博士は、他の要因を制御することで、エネルギー・システムの転換に要する期間を大幅に短縮できると主張する(特に、世界のエネルギー消費の半分以上を占める電気による熱の生産は、エネルギー需要を大きく左右する)。しかし博士は、現在のエネルギー・システム転換のペースが1桁も遅いのは明らかであり、状況を正しく認識している人がほとんどいないと指摘する。「気候変動の難題に対処するためのクリーン・エネルギー構築の速度が遅いのが問題なのではありません。何十年も警告し続けて、政策論議をし、クリーン・エネルギーのキャンペーンをしても、世界は問題に立ち向かうことをほとんど始めてすらいないことが問題なのです」。

国連の気候変動グループは、世界の温室効果ガス排出量を今世紀半ばまでに70パーセントも削減しないと、気温が2度上昇することは避けられないと主張する。しかし、炭素汚染は今も増え続けており、2017年には2パーセント増加した。

では、何に手間取っているのだろう?

経済的、政治的、技術的な問題が複雑に絡みあっているのをさておいても、基本的問題が圧倒的な規模になっているのだ。なすべき仕事は大量にあり、それには膨大な量の労力、資金、材料が必要だ。

まず、新興国の経済が成長するにつれて、世界のエネルギー消費は今後数十年間に約30パーセント増加することが挙げられる。国際エネルギー機関(International Energy Agency)によれば、中国だけでも2040年までに米国全体の電力部門に等しいエネルギーを追加で増やさなければならない。 温室効果ガスの排出を迅速に削減し、かつ経済成長を鈍らせないためには、世界は2050年までに10テラから30テラワットのクリーン・エネルギー生産能力を開発しなければならない。30テラワットと言えば、原子力発電所を約3万カ所に建設するか、250ワットの太陽発電パネルを1200億枚製造して設置するのに等しい数値だ。

エネルギー転換

われわれがすべきこと*

実際にしていること†

メガワット/日

1100

151

メガワット/年

40万1500

5万5115

メガワット(50年以内)

2007万5000

275万5750

20テラワット増やすのにかかる年数

50

363

*2000年に表記ペースで転換を開始していた場合

†2006~2015年の実際の無炭素エネルギー平均増加量/日

 

単純に言って、エネルギー業界がそれだけの規模とペースで新設備を建設できるような財政的な奨励策はほとんどない。しかも、エネルギー業界は既存設備の埋没費用(回収の見込みのない支払済コスト)を何十兆ドルも抱えている。

「10億ドル支出して発電能力が1ギガワットの石炭発電所を建設しても、その発電所を10年後に引退させねばならないとしたら不幸なことです」と、カリフォルニア大学アーバイン校の地球システム科学部のスティーブン・デイビス准教授はいう。

困難か、そうでなければ不可能な状況を変えるには、政府の強力な政策が現れるか、現在の経済性をひっくり返すような大きな技術的ブレークスルーを待つしかない。

飛躍的な変化

2018年2月下旬、筆者はハーバード大学環境センターのダニエル・シュラグ教授のオフィスにいた。大きな黄色のチヌーク犬、ミッキーが足元に来て横になった。

シュラグ教授はバラク・オバマ大統領の最上級気候顧問の一人だった。気候変動と太古の地球温暖化時代を入念に研究した地質学者として、気候変動で物事がどれだけ劇的に変化しうるものかを極めて正確に理解している。

シュラグ教授は私の隣に座ってラップトップコンピューターを開くと、最近共同で執筆した気候変動のリスク評価についてのレポートを開いた。そのレポートで強調 …

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