KADOKAWA Technology Review
×
来れ!世界を変える若きイノベーター。IU35 2025 候補者募集中。
微生物を使って岩石からレアアースを抽出、ISSの実験で成功
ASU/Peter Rubin
Microbes could be used to extract metals and minerals from space rocks

微生物を使って岩石からレアアースを抽出、ISSの実験で成功

国際宇宙ステーションでの実験により、ある種のバクテリアは、微小重力環境でも岩石からレアアースを抽出できることが分かった。将来、宇宙での採鉱において有用資源を抽出するための効率の良い方法となる可能性がある。 by Neel V. Patel2020.11.13

バクテリアを用いた岩石からのレアアース(希土類元素)抽出が微小重力環境でも成功することが国際宇宙ステーション(ISS)での研究で明らかになった。「ネイチャー・ コミュニケーションズ(Nature Communications)」誌に11月10日付けで掲載された新たな論文では、地球以外の場所で将来、微生物を用いて貴金属や鉱物を採鉱できる可能性のある新たな方法が提示されている。

ある種の単細胞生物は、地球上で長年かけて進化することで、特殊な化学反応によって栄養や必須化合物を岩石から取り込めるようになった。世界中で人間が利用する銅と金の約20パーセントの採鉱に、このようなバクテリアの性質を生かしたプロセスが用いられている。研究者らは、これらのプロセスが微小重力環境でもうまく働くかどうかを知りたいと考えた。

「バイオロック(BioRock)」は宇宙ステーションで実施する36の一連の実験である。研究者らの国際チームはバイオロック(BioRock)のために「バイオマイニング・リアクター(biomining reactors)」と呼ぶ装置を作成した。バイオマイニング・リアクターは、バクテリア水溶液に浸した玄武岩(地球の表面や地表近くでよく見られる火成岩で、月と火星にも多く存在する)の小片を入れたマッチ箱サイズの小さい容器である。

バイオロックでは、微小重力のほか、火星の重力と地球の重力を模した重力シミュレーター内にそれぞれバイオマイニング・リアクターを置き、約3週間にわたってバクテリアが活動している間のレアアース放出量を計測した。その結果、実験で使った3種のバクテリアのうち1種(スフィンゴモナス・デシカビリス、Sphingomonas desiccabilis)は、低重力下でも地球上と同等の効率でネオジム、セリウム、ランタンなどを抽出できることが分かった。

宇宙で資源を採取するとしても、微生物が通常の採鉱技術に取って代わることはないだろうが、採鉱速度を上げることは間違いないだろう。バイオロックの研究チームによると、微生物は、酸素のような有用な元素から金属粉と有用鉱物を引き離すことにより、地球外の天体上で採鉱速度を400パーセント程度も加速させる可能性があるという。微小重力に耐えられそうだという事実は、宇宙での生活を持続させる上で微生物が資源採取の安価な手段になり、長旅と遠く離れた世界への移住を可能にするかもしれないことを示している。

人気の記事ランキング
  1. It’s pretty easy to get DeepSeek to talk dirty 「お堅い」Claude、性的会話に応じやすいAIモデルは?
  2. Promotion Call for entries for Innovators Under 35 Japan 2025 「Innovators Under 35 Japan」2025年度候補者募集のお知らせ
  3. Google’s new AI will help researchers understand how our genes work グーグルが「アルファゲノム」、遺伝子変異の影響を包括的に予測
  4. Why AI hardware needs to be open オープンAIが目指す「iPhoneの次」に期待すべきではない理由
ニール・V・パテル [Neel V. Patel]米国版 宇宙担当記者
MITテクノロジーレビューの宇宙担当記者。地球外で起こっているすべてのことを扱うニュースレター「ジ・エアロック(The Airlock)」の執筆も担当している。MITテクノロジーレビュー入社前は、フリーランスの科学技術ジャーナリストとして、ポピュラー・サイエンス(Popular Science)、デイリー・ビースト(The Daily Beast)、スレート(Slate)、ワイアード(Wired)、ヴァージ(the Verge)などに寄稿。独立前は、インバース(Inverse)の准編集者として、宇宙報道の強化をリードした。
日本発「世界を変える」U35イノベーター

MITテクノロジーレビューが20年以上にわたって開催しているグローバル・アワード「Innovators Under 35 」。世界的な課題解決に取り組み、向こう数十年間の未来を形作る若きイノベーターの発掘を目的とするアワードの日本版の最新情報を発信する。

特集ページへ
MITTRが選んだ 世界を変える10大技術 2025年版

本当に長期的に重要となるものは何か?これは、毎年このリストを作成する際に私たちが取り組む問いである。未来を完全に見通すことはできないが、これらの技術が今後何十年にもわたって世界に大きな影響を与えると私たちは予測している。

特集ページへ
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る