KADOKAWA Technology Review
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最悪だった2020年に
少しばかりの「よかった」を
探してみた
Maja Hitij/Getty Images
2020 has sucked—but there are some small silver linings

最悪だった2020年に
少しばかりの「よかった」を
探してみた

新型コロナウイルス感染症のパンデミックに明け暮れた2020年は、ほとんどの人にとって最悪の年であったことは間違いない。だが、そうした状況の中でも、小さなことではあるが、希望の兆しを見つけることはできる。 by Abby Ohlheiser2020.12.30

2020年が「最悪の年」だったということに異議を唱える人はほとんどいないだろう。それでも、今年1年を振り返り、特に自分と他人とのつながり方について考えるとき、隔離状態における予想だにしなかったような希望の兆しを見つけることはできる。

もちろん、こうした恩恵のどれ一つをとっても、2020年というひどい年に起こった死や苦しみや悲惨さとは比較にもならない。だが、2020年を憤然と後にできる瞬間がやっと間近に迫った今、私たちが2020年に勝ち取った勝利のリストをここに挙げることにする。どれも小さな勝利ではあるが、私たちはこれらをしっかりつかまえて、育くんでいけばよいのだ。

寝転がって仕事にログインできること

「ズーム(ZOOM)疲れ」は現実に起こっているが、オンラインワークのすべてをオフィスワークの一時的な代替手段として扱うべきではない。障害者の権利擁護者の多くが、リモートワークでできる仕事については、在宅勤務という選択肢を障害者に提供するように何年も雇用者らに呼びかけてきた。今回のパンデミックにより、在宅のリモートワークによって恩恵を受けられる人が実際にいること、そしてリモートワークであってもオフィスワークと同じように生産的に仕事ができることが証明された。

「従業員が家にいることができて、家にいたいというのであれば、そうさせてあげましょう」と、障害者権利擁護者であり、「ランプ・ユア・ボイス(Ramp Your Voice、『あなた方の声を繋ぐ』の意)」の創設者でもあるヴィリッサ・トンプソンはいう。自宅で仕事をすることに対しては、非常に負担に感じる人もいる一方で、障害や家族のニーズ、地域社会のニーズといった理由から、オフィスよりも仕事がしやすくて快適だと感じる人もいる。トンプソンが懸念しているのは、ワクチンが普及するにつれ、企業が全従業員をまた慌ててオフィスに戻してしまうのではないかということだ。「特定の仕事については、リモートでは無理だとはもう言えないはずです」とトンプソンは言う。「うまくいくことがわかったからです」。

これは学校や専門家の集まりにも当てはまるとトンプソンは言う。授業にリモートで出席する選択肢はあるかどうか、大学に尋ねたことのある学生は、今では多くの学校がリモート授業の実施を決め込んだことを知っている。バーチャルなカンファレンスも、いろいろな面においてより利用しやすくなった。金銭的な面をとっても、入場料は安くできるし、宿泊費や交通費もかからない。

ライブ動画の字幕入れが当たり前になったこと

動画に文字や字幕を入れるのは、以前は稀なことだった。ユーチューブ(You Tube)の「クローズドキャプション」オプションのような機能を使って字幕入れができたとしても、結果がめちゃめちゃになってしまうことも少なくなかった。これにマスクをしたままの会話やビデオチャットが加わると、難聴者や聴覚障碍者は、同僚たちが何を言っているか理解するなど、ほぼ不可能であることが分かった。パンデミックにより、ライブ動画に字幕を入れる必要性が一気に高まり、エイヴァ(Ava) のようなスタートアップ企業から、ZOOMやマイクロソフトをはじめとする大規模なプラットフォームまでが、ライブ動画に字幕を入れる機能を取り入れた。そうした中には、より読みやすくできるように編集を可能にしたものも多い。

最も注目すべきことは、インスタグラムをはじめとするソーシャルメディアのプラットフォームが、聴覚障害を持つ人でも事前に録画された動画を理解できるよう、字幕を取り入れ始めたことだ。聴覚障害者でなくとも、アーカイブや検索が可能なテキストが作られるのは仕事に役立つことが分かった。ただし、これで問題がすべて解決したとわけではない。エイヴァの創業者兼CEO(最高経営責任者)であるティボー・デュシェミンによると、飛躍的な進歩があったとはいえ、特にライブ動画に関しては、まだまだやるべき仕事がたくさんあると言う。「現在、聴覚障害者がテレビを見るときはプロによるキャプションが付いていますが、大事なイベントがソーシャルメディアでライブストリームされるときにも同じようになってほしいと思います」。

最悪の現実世界から逃れてバーチャルの世界に没頭してしまったこと

こんにちは、アビーです。この記事の筆者の1人です。最近楽しかったことと言えば、数週間前、見知らぬ人たちとランダムに「アマング・アス(Among Us)」ゲームをプレイした時の話があります。「アマング・アス」は、ボードゲームの「シークレット・ヒトラー」や パーティーゲームの「マフィア」にちょっと似ているオンラインゲームです。プレイヤーはクルーメイト(宇宙船乗組員)か、インポスター(人狼)のどちらかの役割を演じるのですが、あなたがどの役を演じているかは誰も知りません。クルーメイトはタスクを完了させなければなりませんし、インポスターはクルーメイトを殺さないといけません。クルーメイトはタスクを完了させるか、劣勢になる前にインポスターを見つけ出して排除すれば勝ちとなります。とにかく、このときのゲームでは、カオスが最大限に起こるように設定を変更して、インポスターの数を多くして3人にしてみました。クルーメイトがそれぞれ1つのタスクをこなす設定ですが、テンポの速い騒乱劇となり、本当に大笑いしてしまいました。まるで、外で友達と過ごしているかのように、笑っている自分に気がついたのです。

テレビゲームはパンデミックの前からすでに一大産業でした。ですから、ゲームの中で、オンラインで楽しめるのは当然のことです。ですが、パンデミックの影響で、より多くの人々がこのことに気付き、バーチャル空間で友人や見知らぬ人たちとつながる方法を見つけるようになったのです。「どうぶつの森」で悲しみを癒したり、「ジャックボックス(Jackbox)」でパーティーナイトを開いたり、アマング・アスで楽しい悪夢ゲームを作ったりしたのです。こんな瞬間がこれからも、もっと多くの人の暮らしの一部となってくれればいいと思います。

デートは表面的なものではなかったこと

2019年、スワイプ文化(日本版注:スワイプで操作する出会い系アプリ)はまだ健在だった。それからまだ間もないというのに、パンデミックでワンナイトスタンドはビフォーコロナの遺物となった。世界中の独身者にとっては、オンラインでのつながりは余儀なくさせられるし、デートについても再考を迫られるしで、ジレンマが生まれることとなった。グーグルフォームがアドホックなお見合いサービスに使われ、ビデオデートが普及し、アダルトグッズの売上が急増した。もちろん、人と直接会って、現実世界で一緒にいたらどんな気分になるか、気が合うかどうかを確かめられたら、こんなにいいことはない。もっとも、パンデミックの状況下で自己の理想化されたバージョンを見せてしまう場合もあるだろうから、ロックダウン制限の緩和後に直接会ったら全然盛り上がらなかったということも少なくない。

郵便投票によって投票が簡単かつ安全になったこと

郵便投票はパンデミックのずっと前から実施されてきたが、 2020年には郵便投票の利用者が一気に拡大した。膨大な数の米国民が、大統領選挙で郵便投票を利用したからだ。12月のMITテクノロジーレビューの記事でも書いたように、郵便投票利用の拡大によって、今回の大統領選挙はこれまでで最も安全な選挙の1つとなった。記事では、「投票期間を1週間あるいは1カ月間に伸ばすことで、技術的な支障にせよ、悪意をもった攻撃にせよ、深刻な問題を大きく減少できた」と述べている。

手を洗う人が増えたこと

つまりは、手の正しい洗い方を知っている人なんてほとんど誰もいなかったということだ。パンデミックの初期、新型コロナウイルス(SARS CoV-2)がどう拡散するのかあまり知られていなかった頃のことだ。米国疾病予防管理センター(CDC)をはじめとする公衆衛生当局は、手は精力的かつ徹底的に20 秒かけて洗うよう、強く訴えた。これがきっかけとなって無数のミームが生まれ、「ハッピーバースデー」とつぶやく人が急増した(日本版注:このバースデーソングを2回歌うと約20秒になる)。2020年の最も苦しかった時期、自分の手を洗う際に、たくさんの人が「ハッピーバースデー」とひたすら繰り返したのである。

覚えているだろうか。地下鉄の握り棒をつかんだり、食料品店のカートに触ったり、その他多くの人が触る可能性のある物を撫でたりした後で、何も考えずに顔を触っていた頃のことを。そうだ、こんなことはもう二度としないようにしよう。

通勤時間が短い分、少しは呼吸ができる環境になったこと

渋滞時の電車での通勤や大型車の利用が減ったことの環境への影響が、目に見えるような形で現れた。2020年4月までに、二酸化炭素排出量が17%減少した。それまで汚染のひどかった中国インドの各都市でもスモッグが解消された。専門家によると、パンデミックが二酸化炭素排出量にもたらした影響は、道路から19万2000台の車を排除した量に等しいという。7月に雑誌「サイエンス」に発表された研究でも示唆されているように、世界中が集団的に活動を一時停止したことにより、科学者らは、普段なら聞けないような微かな地殻変動にも耳を傾けることができた。もっとも、世界が一時的に静かでクリーンになったからといって、地球温暖化の問題が解決したわけではないし、こうした利得もパンデミックが収束してしまったら元の木阿弥になることはほぼ確実だ。それでも、こうしたことによって、気候に関して抜本的な行動を起こせばどんなことが達成できるかが示された。

家庭の食卓で家族と食事をすることが多くなったこと

ハーバード大学心理学部の准臨床教授であり、「ファミリー・ディナー・プロジェクト(Family Dinner Project)」の共同創設者でもあるアン・フィシェルが実施した調査によると、パンデミック以前は、普段から家族で一緒に食事するという家庭の割合は、30%から40%の間だった。さて、今はどうだろう。自宅待機命令、ロックダウン、リモートワークやリモート授業の影響で、食事の時間は家族との絆を再び深めるための貴重な時間となった。「以前よりも自宅で料理をすることが多くなったと答えた家庭は全体の70%に上り、料理はすべて手作りしていると答えた家庭は60%、子供と一緒に料理をしていると答えた家庭は50%に上っています。全体としては、55%以上の家庭が家族で一緒に食事をとっています」と、フィシェル准教授はカナダのゲルフ大学が実施した調査結果を引用しながら語った。

家族全員と同じ食卓で同時に食事をすることは、良い伝統ではあるものの、他には特にメリットがないように思える。だが、フィシェル准教授によると有益な効果もあるという。

「定期的に家族そろって夕食をとっている家庭では、薬物乱用や摂食障害、不安、うつ病の発生率が低いと報告されています。回復力や自己肯定感も高いことが分かっています」とフィシェル准教授は言う。この2 つは、新型コロナウイルス感染者の再急増状態をなんとか切り抜け、新年を迎えようという今、ほぼ誰にとっても有用ではないだろうか。

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アビー・オルハイザー [Abby Ohlheiser]米国版 デジタル・カルチャー担当上級編集者
インターネット・カルチャーを中心に取材。前職は、ワシントン・ポスト紙でデジタルライフを取材し、アトランティック・ワイヤー紙でスタッフ・ライター務めた。
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MITテクノロジーレビューは毎年、世界に真のインパクトを与える有望なテクノロジーを探している。本誌がいま最も重要だと考える進歩を紹介しよう。

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