KADOKAWA Technology Review
×

Hyper-personalized medicine 超個別化医療

  ある患者固有の遺伝子変異を治療する、新しい医薬品が開発されている。 超個別化医療 ・なぜ重要か ある1人の患者に向けた遺伝子医療は、治療法がない病気を患った人々に希望を与える。 ・キー・プレーヤー A-Tチ …

by MIT Technology Review Editors 2020.06.29
実現時期
実現済み

JULIA DUFOSSÉ

 

ある患者固有の遺伝子変異を治療する、新しい医薬品が開発されている。

超個別化医療

・なぜ重要か
ある1人の患者に向けた遺伝子医療は、治療法がない病気を患った人々に希望を与える。
・キー・プレーヤー
A-Tチルドレンズ・プロジェクト(A-T Children’s Project)、ボストン小児病院、アイオニス・ファーマシューティカルズ(Ionis Pharmaceuticals)、米国食品医薬品局(FDA)
・実現時期
実現済み

 

絶望的な症例として定義されるのは、治療法のない、極めて稀で、致命的な疾患を持つ子どもだ。症例数が少なすぎて、その疾患を研究する研究者もいない。「治療するにはあまりにも珍しすぎる」といわれるほどだ。

だが、患者の遺伝子に合わせて個別にあつらえる新しい医薬品の登場で、状況は変わろうとしている。特定のDNAの損傷によって起こる極めて稀な病気は数千とあるが、遺伝子治療のおかげで、少なくとも病に立ち向かえる可能性が出てきた。

患者固有の遺伝子の突然変異に起因する絶望的な病気に苦しむ少女、ミラ・マコベックの症例がその1つだ。ミラのためだけに、医薬品が作られたのだ。ミラの遺伝子異常を医師が解読してからわずか1年で治療が始まり、2019年10月、ニューイングランド医学ジャーナル(New England Journal of Medicine)に論文が発表された。薬は、ミラにちなんで「ミラセン(milasen)」と名づけられた。

この治療でミラの病気が治癒したわけではない。だが、ミラだけのための薬によって、病状は安定したようだ。ミラの発作は減少し、介助があれば立ち上がって歩けるようになった。

治療が実現したのは、より迅速に遺伝子治療薬を作れるようになり、効果が現れる可能性も高まったからだ。こうした新しい医薬品は、遺伝子置換、遺伝子編集、アンチセンス(ミラが投与されたタイプ)と呼ばれる、誤った遺伝子情報を消去・修正する分子消しゴムのような形式になるだろう。これらの治療法に共通しているのは、遺伝性疾患のDNAの修正や補正をデジタルスピードでプログラムできる点だ。

ミラのような治療例は、どれくらいあるだろうか。現時点では、ほんのわずだ。

だが、今後、多くの症例が出てくるだろう。かつては、さまざまな障害を発見し「残念です」と断っていた研究者たちが、今やDNAに解決策を見出し、何かできるかもしれないと考えている。

「n-of-1」治療の真の課題は、医薬品の開発・試験・販売に関して一般的に受け入れられている、あらゆる概念に反していることだ。開発や製造に大量の人材を必要とするような医薬品を使って1人の患者を救った場合、誰がその費用を負担するのだろうか?

(アントニオ・レガラード)

フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る