KADOKAWA Technology Review
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生命の再定義 Editor’s letter: The precision medicine issue

医療とテクノロジーの未来:「生命の不平等」とも向き合う覚悟を

ヒトゲノムの解読に初めて成功してから20年が過ぎ、膨大な量の医療データが利用可能になり、分析ツールが揃ってきたことで、個人ごとにカスタマイズした「適確医療」が現実となる日が近づきつつある。MITテクノロジーレビューの適確医療特集に寄せる、米国版編集長からのエディターズ・レター。 by Gideon Lichfield2018.11.16

人類が初めてヒトゲノムの解読に成功してからほぼ20年が過ぎた。そして、この成功は、各個人のDNAに完璧に適合させた医薬品や治療を開発する糸口となった。しかし、個人ごとの、あるいは「適確な」医療は常に、空飛ぶ自動車やセックスボット、人工肉などと同じように、長い間、開発を約束されながら決して得られないもののように感じられてきた。MITテクノロジーレビューでは、実はその間にも適確医療の時代がゆっくりと訪れつつあり、それに対する準備ができていない点について論じてきた。

現在、もっとも急速に変化しているのは、利用可能な医療データが膨大な量になり、それを分析するためのツールがそろってきたことだ。アントニオ・レガラードが指摘しているように、米国でDNA検査を受ける人の数は現在、数千万人に達しており、毎年倍増している。

アリ・トルカマニとエリック・トポルが説明しているように、DNAデータを人の医療記録と組み合わせることで、アルゴリズムが特定の一般的な疾患のリスクを予測し、それを予防する医薬品や食事を提案することが可能だ。また、抗がん剤は現在、個々の患者に合わせてカスタマイズされるようになっているとアダム・ピオールが報告している。さらに、DNAの配列そのものではなく、DNAの活性化を変化させる、いわゆるエピジェネティックなデータによって、寿命を予測できるとカレン・ワイントローブは書いており、新しいセノリティクス(senolytics:老化細胞除去薬もしくは老化細胞死誘導剤とも呼ばれる)医薬品が、老化による疾患を長期間食い止められると期待されていることをステファン・ S・ホールが報告している

DNA配列だけでなく、あらゆる種類のデータがこれまでにないほど大規模に収集され、分析されている。レイチェル・メッツが説明するように、携帯電話のタップ、入力、スワイプの仕方を監視するだけで精神疾患を追跡することが可能になってきている。

こうしたことによって得られる恩恵は、より良い治療と健康的な生活だけではない。ラフル・パリキなどの医師は、定型業務をアルゴリズムに任せることで、患者を知ることにもっと時間をかけられるようになると期待している。英国の試みでは、単純な診察においてAIシステムがすでに医師の代替となっているとダグラス・ヘブンは報告する。これは、急増する高齢者人口の医療ニーズに応えるための一助になるかもしれない。

では、これらが提起する課題は何だろうか。医療のカスタマイズが進むと、不平等が加速するリスクがある。自分の子どもが患っている非常に希少な疾病の遺伝子療法を受けるため、数百万ドルの資金を調達する親についての興味深くも悩ましいレガラードの報告がある。こうしたことは、いつの日にかカスタマイズした医療をすべての人が安価に受けられるようになるテクノロジーの先駆けなのだろうか、それとも超富裕層やクラウド・ファンディングの達人だけが助かる未来の幕開けなのだろうか。遺伝子スクリーニングと組み合わせた体外受精(IVF)は、致死的疾患をその人の家系から永久に排除できるが、無病の富裕層と病気が蔓延する貧困層という遺伝的な2つの階級制度につながる可能性があるとローラ・ハーシャーは論じる。富裕で高学歴な人は、オーダーメイドの治療を受けられるだけでなく、初めから疾病にかからないようにするためのテクノロジーやデータの恩恵を受けられる可能性が高まる。

こうした問題は、医療の分野だけに止まらない。知能などとの遺伝子的相関を見つける能力が増すにつれ、優生学のおぞましいドグマが復活する恐れがあるとナサニエル・コンフォートは警告するメアリー・マッデンはさらに、この膨大なデータがどのように使われて、悪用されていないかを監視することは可能なのだろうか、と問う。

私たちは死においても不平等の問題に直面する。コートニー・ハンフリーズが報告するように、現在30代の人たちは死ぬまでに、かなり正確な自分のデジタル・アバターを作成するのに十分なほどのデータを生成するだろう。死亡後にこの自分の分身を所有するのは誰なのだろうか。少なくとも、どのように準備すべきかについて、シムソン・ガーフィンケルがいくつかアドバイスを提供している。

このように、生まれる前から死んだ後に至るまで、人間の存在の全期間をカバーしてMITテクノロジーレビューは論じてきた。これらの記事が共通して提示している問題はシンプルだ。医療に不平等が存在しているのは既知の事実として、不平等をどの程度まで容認すべきなのだろうか? ということである。

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ギデオン・リッチフィールド [Gideon Lichfield]米国版 編集長
I’m MIT Technology Review’s editor in chief. Science and technology were my first love and my first beat as a journalist, but for nearly two decades my career took me elsewhere—covering Latin America, the former Soviet Union, and Israel/Palestine for the Economist, followed by a turn into digital media in New York, where I helped launch Quartz, a business-news outlet for the 21st century. Having seen my share of the world’s dysfunction, I’m endlessly curious about how we can use technology to make things better and why we sometimes end up using it to make things worse. My mission is for MIT Technology Review to be the leading voice exploring emerging technology, its impacts, and how the human choices that determine those impacts get made.
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