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Making VR Movies You’d Actually Want to Watch

VR映画の作り方は、映画監督よりゲームデザイナーや建築家に学ぶべき理由

グーグルのVR映画製作者が考え出した、VRヘッドセット向け映画の質を高める手法。 by Elizabeth Woyke2016.10.21

物語の質にこだわらず、没入できる世界を作り出すこと。これが、感動的な実質現実(VR)映画を製作で重要だ、とグーグルのVR映画製作者で、VR映画コンテンツという新分野でいち早くリーダーになったジェシカ・ブリルハートはいう。

ブリルハートはマサチューセッツ州ケンブリッジで水曜日に開催されたEmTech MIT 2016で講演し、自分の仕事について、人々が高品質のVRコンテンツを製作する手助けをしていると説明した。VRコンテンツは、具体的には短編の360度動画のことで、視聴者はスマホや軽量のVRゴーグルを利用してオンライン上で視聴できる。VR分野ではグーグルに関心が集まっている。昨年、グーグルはYouTubeを360動画に対応させ、最近ではモバイルVRプラットフォーム「デイドリーム」を、互換性のあるゴーグルやスマホとともに発表した。

Jessica Brillhart speaking at EmTech MIT 2016.
EmTech MIT 2016で講演するジェシカ・ブリルハート

人々にグーグルのVR機器を購入させ、YouTubeのコンテンツを視聴させるために、グーグルは魅力的なコンテンツを必要としている。ブリルハートは過去1年半の間に、YouTube向けVR映画を製作したり、VRという新しいメディアを体験したことから学んだことについて書いたり話すことで、グーグルの手助けをしている。「人々が『VR映画製作』の指南書として利用できる確かなものはありません。そのため、私が行動を起こして、VR映画について理解し、議論のために私の考えを世界に発信しています」とブリルハートはいう。

ブリルハートの発見で重要なのは、従来のように物語を伝えるのはVR映画には適さないことだ。VR映画はさまざまな角度から視聴できるため、360度VR映画はひとつのストーリーというよりはむしろ、ストーリーになり得るものがいろいろ集まったもの、という方が実状に近い。VR映画のこの基本的な側面を無視する映画製作者は、観客を苛立たせ、VRテクノロジーに特有な特性を活用できないだろうと、ブリルハートは言い切る。

VR映画を製作する時、ブリルハートはひと続きの静止した映画のコマを撮影するのでなく、一連の動的な360度のショット、すなわち「世界」の撮影に集中する。撮影した映画を編集する際には、視聴者(ブリルハートは視聴者を「ビジター」と呼ぶ)がそれぞれの世界にどうやって関わるのかを想像する。そして、ブリルハートは、厳密な裏付けが存在しないけれども理論の筋が通っているように思える方法で、ショットを通じたビジターの引き込み方を考え出す。

ブリルハートは昨年、最初のVR映画である『ワールドツアー』の編集時にこの手法を考案した。ブリルハートは当初、従来どおりのフレーム単位で映像を編集したが、編集中の場面をVRゴーグルで視聴するとすぐに、その作品に何の面白みもないことに気づいた。ある晩、イライラとしながら天井を見上げると、並んだ丸い電球が円を描き始めた。下の図は、ブリルハートのVR映画の編集方法だ。円は映画の中の異なる世界を表しており、黒と白の点はそれぞれの世界でビジターが出たり入ったりする可能性が高い場所を表している。

A diagram shows Brillhart’s editing technique for her VR film, <i>World Tour.</i>
ブリルハートがVR映画『ワールドツアー』で用いた編集手法を示す図

これは映画よりもビデオゲームのほうが使いやすい手法だ。「ゲームデザイナーは、自分たちが経験の中心地を作り出していることを理解しています。これは、潜在的な物語のためであり、直接的な1対1の物語のためではありません。ゲームデザイナーは全体的なアイデアを考え出し、プレイヤー自身で物語を発見させる手段をプレイヤーに提供します」とブリルハート氏は語る。VR映画製作者はゲームデザイナーから学べる。また、建築家は同様に「人々と会話をする空間を築く」ため、建築家からも学べる、とブリルハートはいう。

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エリザベス ウォイキ [Elizabeth Woyke]米国版 ビジネス担当編集者
ナネット・バーンズと一緒にMIT Technology Reviewのビジネスレポートの管理、執筆、編集をしています。ビジネス分野ではさまざまな動きがありますが、特に関心があるのは無線通信とIoT、革新的なスタートアップとそのマネタイズ戦略、製造業の将来です。 アジア版タイム誌からキャリアを重ねて、ビジネスウィーク誌とフォーブス誌にも在籍していました。最近では、共著でオライリーメディアから日雇い労働市場に関するeブックを出したり、単著でも『スマートフォン産業の解剖』を2014年に執筆しました。
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