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ロケット・ラボが大型ロケットを発表、スペースXの最大のライバルへ
Rocket Lab
Rocket Lab could be SpaceX’s biggest rival

ロケット・ラボが大型ロケットを発表、スペースXの最大のライバルへ

ロケット・ラボは、スペースXの「ファルコン9」と直接競合する大型ロケット「ニュートロン」の建造計画を発表した。同社はこれまで小型ロケットに特化してきたが、人工衛星のメガコンステレーションやライドシェアの市場拡大を見据えて新たな方針を打ち出した。 by Neel V. Patel2021.03.04

民間宇宙産業は現在、スペースX(SpaceX)とその他大勢といったような状況に見える。億万長者のジェフ・ベゾスが創業し、支援するブルーオリジン(Blue Origin)が、かろうじてスペースXと同じくらい関心を集められそうにも思えるが、ブルーオリジンはいまだに準軌道を超えた宇宙飛行を達成できていない。

ロケット・ラボ(Rocket Lab)が間もなく、この複占に物申すようになるかもしれない。ニュージーランドで創業され、米カリフォルニア州ロングビーチに本社を置く同社は、打ち上げ頻度がスペースXに次いで第2位であり、米国企業で定期的にロケットを軌道に打ち上げているのは表向きにはこの2社のみである。ロケット・ラボの小型主力ロケット「エレクトロン(Electron)」は、4年足らずで18回打ち上げられ、100基近くの人工衛星を宇宙に運搬した。打ち上げに失敗したのはわずか2回だ。

ロケット・ラボは3月1日、高さ40メートルで、エレクトロンの積載量の20倍の重量を運搬できる新しいロケット「ニュートロン(Neutron)」の計画を発表し、野心をさらに明確に示した。同社はニュートロンを、大型人工衛星とメガコンステレーションの打ち上げ市場、および将来の月と火星へのロボット・ミッションへの参入を示すものとして売り込んでいる。さらに興味深いことに、ロケット・ラボによると、ニュートロンは有人宇宙飛行にも対応した設計になるという。同社は、ニュートロンを、スペースXの「ファルコン9(Falcon 9)」ロケットに「直接取って代わるもの」だとしている。

「ロケット・ラボは、小規模のロケット打ち上げ企業の中でサクセス・ストーリーのひとつとなっています」とセントラルフロリダ大学の宇宙政策の専門家であるロジャー・ハンドバーグ教授は話す。「そして今、特にスペースXなど、より大規模で定評のあるロケット打ち上げ企業の領域に入ろうとしています」。

ロケット・ラボの野心は、同社とベクター・アクイジション(Vector Acquisition)の合併という、3月1日に発表された別のニュースによっても裏付けられた。ベクターは表向きには従来のIPO(新規株式公開)をせずに株式公開できるようにするSPAC(特別買収目的会社)であり、同社との合併によってロケット・ラボは巨額の資金の流入を受けられるようになる。その結果、ロケット・ラボの新たな評価額は41億ドルとなっている。その資金のほとんどが、同社が2024年の打ち上げ開始を目指すニュートロンの開発と試験に投入される。

今回の動きは、ロケット・ラボにとってちょっとした方向転換となる。同社の最高経営責任者(CEO)を務めるピーター・ベックは以前、積載量が大きく、一度に複数の顧客企業のペイロードを運搬できる可能性がある、より大型のロケットを建造する考えに乗り気ではなかった。

だが、特に、今後10年間で軌道に打ち上げられる人工衛星の大半を占めることになるであろう人工衛星メガコンステレーションの台頭により、人工衛星市場は、ライドシェア(相乗り)ミッションを擁するようになった。ニュートロンは8000キログラムのペイロードを地球低軌道に運搬できる。つまり、一度に数十のペイロードを軌道に運べる可能性があるということだ。ニュートロンの紹介動画の中で、ベックCEOは、今回の計画が大きなロケットは作らないという過去の発言と矛盾していることを認め、そのお詫びとして、冗談交じりに自分の帽子を食べて見せた。

ニュートロンによりロケット・ラボは、その他の点でも、スペースXとの差を縮めることになる。両社は、低コストの材料と再使用可能なシステムを使用した、より安価な宇宙飛行に投資している。ニュートロンの第1段ブースターは、スペースXのファルコン9の第1段ブースターと同様に、海上のプラットフォームに垂直に着陸するよう設計される。

スペースXとの類似点はそれにとどまらない。ロケット・ラボによると、スペースXが現在実施しているのと同様に、ニュートロンは、軌道そして国際宇宙ステーション(ISS)に向かう有人ミッションを実施する認証を受けられるように設計されるという。ニュートロンの設計は、ISSに3人の宇宙飛行士を送ることができるロシアのソユーズ宇宙船と同様の設計となっている。そしてもちろん、両社とも、地球周回軌道を超えたミッションに興味を抱いている。ニュートロンは月に2000キログラムのペイロード、火星と金星に1500キログラムのペイロードを運搬できるという。

相違点もいくつかある。スペースXの宇宙船「クルードラゴン(Crew Dragon)」とは異なり、ロケット・ラボはまだ独自の有人カプセルを建造していない。もしニュートロンが軌道への有人飛行を開始できるようになれば、どの宇宙船をロケットの先端に搭載して打ち上げられるのかは明らかではない。ロケット・ラボは、「スターシップ(Starship)」のような惑星間宇宙船を建造しないし、「スターリンク(Starlink)」のようなグローバルな人工衛星インターネット・サービスを作ろうともしていない。ロケット・ラボが手掛ける、ロケット以外の唯一の大きなプロジェクトは、軌道上の衛星の位置を地上の管制センターに伝える宇宙船のインフラとなる「フォトン(Photon)」衛星バスだ。

ニュートロンの設計・建造は、一筋縄ではいかないだろう。再使用可能型にするため、何度も試験を実施する必要がある(エレクトロンですら、いまだに完全に再使用可能なロケットではない)。ニュートロンのエンジン設計は、エレクトロンのものを単に適合させるにはあまりにも大きくて複雑であるため、ロケット・ラボは振り出しに戻って、再び一から製造を規模拡大する方法を見つけ出さなくてはならないだろう。

当然のことながら、有人宇宙飛行が同社の大きな挑戦となる。「ロケット・ラボは、新しい宇宙船により、ペイロードにおいて、より競争力を持つようになるでしょう」とハンドバーグ教授は話す。「ですが、有人宇宙飛行は、それより厄介です」。ISSは1つの目的地だが、そのような打ち上げ契約の獲得で同社は、スペースXやボーイングと競合することになる。宇宙旅行はビジネスになるかもしれないが、依然として未成熟な産業だ。

安全性の問題もある。「ロケット・ラボは競争の問題を抱えていますが、有人飛行ができる新しいロケットを作り、運用を支援するインフラを構築するコストの方が大きな問題です」とハンドバーグ教授は話す。「スペースXは、たった1回の打ち上げの失敗で、クルードラゴン宇宙船の問題につながる状態にあります」。2019年12月の「スターライナー(Starliner)」のテスト打ち上げの失敗により、ボーイングの有人飛行計画は1年以上も先延ばしされた。しかし、商用宇宙産業における影響について言えば、ニュートロンにより、スペースXとロケット・ラボの間の距離が一気に縮まった。2024年にニュートロンが打ち上げられるようになれば、その距離はさらに縮まるだろう。

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MITテクノロジーレビューの宇宙担当記者。地球外で起こっているすべてのことを扱うニュースレター「ジ・エアロック(The Airlock)」の執筆も担当している。MITテクノロジーレビュー入社前は、フリーランスの科学技術ジャーナリストとして、ポピュラー・サイエンス(Popular Science)、デイリー・ビースト(The Daily Beast)、スレート(Slate)、ワイアード(Wired)、ヴァージ(the Verge)などに寄稿。独立前は、インバース(Inverse)の准編集者として、宇宙報道の強化をリードした。
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