KADOKAWA Technology Review
×
モデルナのCOVID-19ワクチン、3万人規模の第3相試験開始へ
Pexels
Moderna is enrolling 30,000 volunteers for its biggest covid-19 vaccine trial

モデルナのCOVID-19ワクチン、3万人規模の第3相試験開始へ

新型コロナウイルスに対するワクチン候補を開発中のモデルナが、ついに大規模な臨床試験を開始する。mRNAを用いた新種のワクチンは、人々を感染から守ることができるのだろうか。 by Neel V. Patel2020.08.03

バイオテクノロジー企業のモデルナ(Moderna)は、これまで新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチンの開発と臨床試験において非常に有望な前進を続けてきた。モデルナは、米国立衛生研究所と共同で、COVID-19ワクチンの最大規模の臨床試験を実施すると発表した。この臨床試験は第3相臨床試験であり、数万人の米国人の志願者を採用し、ワクチンが実際に人々を感染から守ることができるかどうかを評価する。読者に知っておいて頂きたい情報を以下にまとめた。

ワクチンが機能するしくみ
モデルナのワクチンは、ウイルスのメッセンジャーRNA(mRNA)を体内に入れてヒトの細胞が受け取れるようにするものだ。ヒトの細胞は、このmRNAを利用して、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)粒子の断片を作成する。作られた断片によってウイルス感染が起こることはないが、免疫システムが異種抗原だとみなすには十分である。免疫システムは、この断片を認識して反応することで、実際のSARS-CoV-2が体内に侵入したときに、感染が深刻化する前に免疫システムが反応できるようにする。

このワクチンはどれくらい有望なのか
mRNAを用いたワクチンを作り出すことに成功した事例はこれまで一度もない。もしモデルナのワクチンが機能すれば、世界初のmRNAワクチンとなる。これは希望に満ちたニュースではないものの、良いニュースとしては、このワクチンが初期の臨床試験で有望な結果を出していることが挙げられる。強力な抗体を産生し、副作用も許容できる範囲内であったのだ。しかし、第1相と第2相の臨床試験がワクチンの安全性を確かめるものであるのに対し、第3相臨床試験は、ワクチンが感染予防にどれくらいの効果を発揮するかを実際に見るものだ。

第3相臨床試験の詳細
モデルナのワクチンの臨床試験では、全米89か所で最大3万人の志願者を採用する。そのうちの半数に対しては、28日の間隔を空けてワクチンを2回注射する。残りの半数には、プラセボ(偽薬)として食塩水を2回注射する。この臨床試験は二重盲検法で実施される。二重盲検法とは、臨床試験の参加者にも、注射を担当する医療従事者にも、誰にワクチンを注射し、誰にプラセボを注射するかを知らせないで試験を実施する方法だ。研究者は、ワクチンの感染予防効果だけでなく、感染が生じてしまった場合に症状の重症化を抑える効果があるかどうかにも関心を向けている。

COVID-19の免疫に関する疑問
COVID-19の免疫がどのように働き、どれくらいの期間持続するのかということについては、明らかになっていないことが多い。そして、こうした問いは、パンデミック(世界的流行)を終わらせるためにどの程度ワクチンに頼ることができるのかを判断する上で重要な役割を持っている。今回の第3相臨床試験は、これらの疑問を明らかにするために重要である。

ワクチンに効果があった場合に期待できること
モデルナの発表によれば、ワクチンに効果があると証明された場合、2021年から年間5億回〜最大10億回分のワクチンを届けることができるという。モデルナは、営利目的のワクチン販売を模索すると発表している。

他のワクチンはどの段階にあるか
ニューヨーク・タイムズ紙のワクチン・トラッカーによれば、第3相臨床試験を実施しているワクチンは他に4つある。1つは、オックスフォード大学とアストラゼネカ(AstraZeneca)が率いるもの(世界最大規模の臨床試験を実施しており、複数の国の人を対象としている)で、他の3つは中国の団体によるものだ。ファイザー(Pfizer)とドイツのバイオンテック(BioNTech)もmRNAワクチンの研究に取り組んでおり、2020年7月末までの第3相臨床試験開始が見込まれている。

(関連記事:新型コロナウイルス感染症に関する記事一覧

人気の記事ランキング
  1. Why it’s so hard for China’s chip industry to become self-sufficient 中国テック事情:チップ国産化推進で、打倒「味の素」の動き
  2. How thermal batteries are heating up energy storage レンガにエネルギーを蓄える「熱電池」に熱視線が注がれる理由
  3. Researchers taught robots to run. Now they’re teaching them to walk 走るから歩くへ、強化学習AIで地道に進化する人型ロボット
ニール・V・パテル [Neel V. Patel]米国版 宇宙担当記者
MITテクノロジーレビューの宇宙担当記者。地球外で起こっているすべてのことを扱うニュースレター「ジ・エアロック(The Airlock)」の執筆も担当している。MITテクノロジーレビュー入社前は、フリーランスの科学技術ジャーナリストとして、ポピュラー・サイエンス(Popular Science)、デイリー・ビースト(The Daily Beast)、スレート(Slate)、ワイアード(Wired)、ヴァージ(the Verge)などに寄稿。独立前は、インバース(Inverse)の准編集者として、宇宙報道の強化をリードした。
10 Breakthrough Technologies 2024

MITテクノロジーレビューは毎年、世界に真のインパクトを与える有望なテクノロジーを探している。本誌がいま最も重要だと考える進歩を紹介しよう。

記事一覧を見る
人気の記事ランキング
  1. Why it’s so hard for China’s chip industry to become self-sufficient 中国テック事情:チップ国産化推進で、打倒「味の素」の動き
  2. How thermal batteries are heating up energy storage レンガにエネルギーを蓄える「熱電池」に熱視線が注がれる理由
  3. Researchers taught robots to run. Now they’re teaching them to walk 走るから歩くへ、強化学習AIで地道に進化する人型ロボット
気候テック企業15 2023

MITテクノロジーレビューの「気候テック企業15」は、温室効果ガスの排出量を大幅に削減する、あるいは地球温暖化の脅威に対処できる可能性が高い有望な「気候テック企業」の年次リストである。

記事一覧を見る
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る