KADOKAWA Technology Review
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揺れ動くブラックホール・シャドウ 極限状態の物理解明へ前進
EHT / Hotaka Shiokawa
The only black hole we’ve ever seen has a shadow that wobbles

揺れ動くブラックホール・シャドウ 極限状態の物理解明へ前進

「イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)」の研究チームは、昨年写真が公開された超大質量ブラックホールについて新たな洞察を発表した。そのうちの一つは、事象の地平面を取り巻く三日月形に光るガスと塵が不安定に揺れ動いているというもので、極限状態における物理現象を解明するのに役立つ可能性がある。 by Neel V. Patel2020.09.28

1年あまり前、科学者たちはブラックホールを初めて撮影した写真を発表し、世界を驚かせた。「イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)」として知られる国際協力プロジェクトで、4大陸に設置されたパラボラアンテナを使った電波天文観測の結果をまとめることにより、5300万光年の彼方を見通し、超大質量ブラックホールを捉えることに成功したのだ。このブラックホールは、質量が太陽の650万倍あり、メシエ87(M87)銀河の中心に位置している。歴史的大偉業ともいえるこの画像には、ブラックホールの事象の地平面を周回している、超高温のガスと塵でできた明るい三日月形が写っていた。事象の地平面とは、その内側に入ったあらゆるもの、光さえも閉じ込めてしまう、ブラックホールの中心付近にある漆黒の帰還不能点である。

EHTチームは、天文学の歴史上最も感動的な偉業のひとつを達成したばかりであるが、それは始まりに過ぎなかった。同チームのメンバーは、(「M87*」として知られる)M87の超大質量ブラックホールに関する新たな発見を、9月23日付けの「アストロフィジカル・ジャーナル(Astrophysical Journal)」誌に発表し、新たに2つの重要な洞察を明らかにした。

ひとつ目の洞察は、事象の地平面の暗部の直径は、時間が経過しても変化しないということで、これはアインシュタインの一般相対性理論におけるM87*規模の超大質量ブラックホールに関する予測とまったく合致している。しかし、もうひとつの洞察は、この暗部を飾る明るい三日月形が安定とは程遠く、揺れているというものであった。非常に多くの乱流物質がM87*を取り巻いていることを考えれば、この三日月形が奇妙な動きをして落ち着かないのも当然といえる。しかし、ここで重要なのは、科学者たちは、その動きを時間の経過とともに観測することで、宇宙において最も極限的な状態における物理学を研究できるようになったということだ。

「私たちは、ブラックホール近辺の極限状態における物理学を理解し、ブラックホールがどのように至近環境の物質と関わり合っているかを研究したいと思っています。ブラックホールにある三日月のような外観の力学を研究することは、この魅力的な環境を精査するのにうってつけです」。ハーバード・スミソニアン天体物理学センターの天文学者で、新しい研究論文の筆頭筆者であるマシエク・ウィルガス研究員はこう述べる。

EHT以前の感度の低い観測機器では、科学者たちはブラックホールが辿る構造の変化を研究できなかった。「まるで解像度1ピクセルの映画を見ているようなものでした。明るさが時間とともに変化するので、明らかにそこで何かが起こっていることはわかるのですが、何が起こっているかはどう頑張っても解明できませんでした」とウィルガス研究員は言う。

今回の新発見は、M87*を新たに観測したことによるものではない。むしろ、EHT初期の2009年から2013年に集められたデータを新たに分析し、そもそもブラックホールの画像につながった2017年のデータセットと組み合わせることで、三日月形の影を特徴づけたというものだ。古い方のデータは、ソフトウェア上の制約、さらにはそれ以上にハードウェア上の制約があったため詳細さを欠いていたが、期間的にはより長いものであった。一方、新しい方のデータセットは、4地点からの1週間におよぶM87*の観測のみで構成されていたが、ずっと上質で微妙な違いがわかるものであった。ウィルガス研究員らのチームは、まるで新しい補正フィルターを使って古い写真をより鮮明にするように、新しいデータの詳細を使って古いデータのギャップを埋めることができた。なんと、彼らは数週間にもおよぶM87*の高品質タイムラプス動画を持っていたのだ。

現在、EHTプロジェクトでは、2018年の観測結果の処理を進めており、来年には全部で10基の電波望遠鏡を使って、新たにM87の観測を実施する計画である。三日月形のより詳細な調査をはじめとするそれらの観測によって、ブラックホールの回転、磁場の強さ、周辺物質のプラズマの微視的物理学に関する新たな洞察が明らかになる可能性がある。さらに、そうした洞察が、例えば高階電離したイオン化物質のブラックホール中心からの放出が何によって引き起こされるかなど、超大質量ブラックホールにまつわる最も激しい現象の背後にある謎を解明するという、より大きな取り組みに役立つことを科学者たちは期待している。

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MITテクノロジーレビューの宇宙担当記者。地球外で起こっているすべてのことを扱うニュースレター「ジ・エアロック(The Airlock)」の執筆も担当している。MITテクノロジーレビュー入社前は、フリーランスの科学技術ジャーナリストとして、ポピュラー・サイエンス(Popular Science)、デイリー・ビースト(The Daily Beast)、スレート(Slate)、ワイアード(Wired)、ヴァージ(the Verge)などに寄稿。独立前は、インバース(Inverse)の准編集者として、宇宙報道の強化をリードした。
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