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カリフォルニア大学はなぜ、炭素クレジットの購入をやめたのか
Stephanie Arnett/MITTR | Envato
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The University of California has all but dropped carbon offsets—and thinks you should, too

カリフォルニア大学はなぜ、炭素クレジットの購入をやめたのか

キャンパス全体の排出量削減を目指すカリフォルニア大学は、カーボン・オフセットの使用を大幅に減らし、排出量を直接削減する計画に切り替えた。その理由は、オフセットの信頼性の低さだという。 by James Temple2024.01.12

2018年秋のことだ。米国のカリフォルニア大学は、キャンパス全体の温室効果ガス排出量を確実に相殺できる、植林などの購入可能なカーボン・オフセットのプロジェクトを特定するよう、研究者チームに命じた。

結果、研究者チームは何も見つけられなかった。

「市場全体を調査し、有望と考えられるプロジェクトについてはさらに深く掘り下げました」。カリフォルニア大学バークレー校環境公共政策センター(Center for Environmental Public Policy)に設置されている「バークレー炭素取引プロジェクト(Berkeley Carbon Trading Project)」の代表で、この取り組みを統率したバーバラ・ハヤは言う。「そして、ほぼ空振りに終わりました」。

この調査結果を受けて、カリフォルニア大学は、大学システム全体として持続可能性に関する計画を抜本的に見直すことになった。2023年7月には、第三者からのオフセットの購入をほぼ解消し、構成単位である各大学(編注:カリフォルニア大学は独立した10の大学群からなる)に対して、継続的な汚染を対象に炭素料金を課すこと、すべてのキャンパスと医療施設で排出量の直接削減に注力することを発表した。

現在、カリフォルニア大学の研究チームは、持続可能性戦略でオフセットが果たすべき役割を(もしあるとすればだが)、他の大学や組織が検討するのに役立てたいとの思いから、プロジェクトの過程で得た教訓を伝えている。2023年11月30日、研究チームは、発見した多くの問題、策定に協力した厳格なカリフォルニア大学のオフセット購入基準、自主的な炭素市場でプロジェクトを精査するために開発した方法を紹介するWebサイトを立ち上げた。

カリフォルニア大学は、3つの研究所と10の大学キャンパス(バークレー校、サンフランシスコ校、ロサンゼルス校など)を持つ巨大かつ影響力のある公的研究機関だ。州全体に広がる天然ガスのプラントやその他の汚染源となるインフラを置き換える誓約は、他の大学や組織、さらには都市も追随できる、そして追随すべきモデルを明らかにしていると、ニューヨーク州立大学バッファロー校の環境社会科学者であるホリー・バック助教授は言う。また、オフセットに対して非常に強い姿勢をとったことは、すでに傷んでいる炭素市場にとって新たな打撃となるだろう。

オフセットの基本的な約束は、個人や組織は他者にお金を払い、排出量削減や大気からの二酸化炭素除去に役立つ可能性のある樹木の育成、伐採中止、その他の手段を代行してもらうことで、自らの温室効果ガス汚染の帳尻を合わせられるというものだ。しかし、ますます多くの研究や調査報告により、オフセットのプロジェクトは気候上の利益をさまざまな方法で大げさに誇張している可能性があり、グリーンウォッシング(環境に配慮をしていると装い、ごまかすこと)の域を出ることができていないと判明している。

批判の高まりは大きな打撃になっている。最近のデータが示すところでは、オフセットの需要は低下しており、後のある時点に一定の価格でオフセットを購入する約束である先物契約の価格は、一部の企業がオフセットへの依存を見直し始めたために下落している。だが、多くの企業だけでなく国家も、オフセットの約束をいまだに当てにしている。ドバイで11月30日に開幕したCOP28気候変動会議では、各国の交渉担当者が国連運営下にあるグローバルな炭素取引市場の基準を巡って自国に有利になるように粘り強く交渉する予定だが、カーボン・オフセットの問題についても熱い議論が交わされる予定だ(編注:この記事のオリジナルはCOP28開幕直前に掲載された)。

ハヤ代表は20年にわたってオフセットの問題を強調してきたが、今回の研究プロジェクトで3つの主要な結論が得られたという。優先度の高い順に並べると次のようになる。カーボン・オフセットを購入せずに、排出量削減に注力すること。オフセットを利用しなければならないときは、自らその仕組みを作り出すこと。独自のオフセットを作り出せないときは、市場にある選択肢をきわめて慎重に精査し、信頼できるもののみを購入すること。

だが、3つ目の選択肢は「選択しにくい道」だという。「単に現在の市場にあるものの品質が劣悪なため」だ。

直接削減

2013年、カリフォルニア大学は、排気ガスを出さない移動手段への移行、再生可能エネルギーのプロジェクト創出などの取り組みで、12年以内にすべてのキャンパスと医療施設でカーボン・ニュートラル(炭素中立)を達成すると約束した。ただし、目標達成には炭素市場を通じて相当な量のオフセットを購入することも必要だった。

このような当てにならない気候ツールに大きく依存し、投資する同大学システムの計画に、学生や教員、キャンパスの予算担当者から懸念の声が上がった。それに応じ …

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