KADOKAWA Technology Review
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AIやロボットが「仕事を奪う」のは小都市から、MITメディアラボ
Laurent Cilluffo
In These Small Cities, AI Advances Could Be Costly

AIやロボットが「仕事を奪う」のは小都市から、MITメディアラボ

人工知能(AI)やロボットによる自動化の影響は大都市のほうが受けにくいことが、MITメディアラボの最新の研究で明らかになった。一方、ルーティン・ワークが多い小都市では、今後、雇用が減少していくだろうと予測している。 by Elizabeth Woyke2017.10.26

現代社会が都市化と自動化テクノロジーによって形づくられていることはよく知られている。しかし、都市化と自動化が相互にどのような影響を及ぼしているかという点は、明らかになっていない。

だが、それも恐らく過去の話だ。MITメディアラボが発表した新しい論文は、都市の規模が小さければ小さいほどテクノロジーの普及による自動化の影響は大きいと指摘している。結論として、より小さな都市で働く人に特に注意を払い、失業支援サービスなどの政策を検討すべきだと提案している。

これまで他の研究者も、テクノロジーの普及が都市の雇用にどのような影響を与えるのかを評価しようと試みてきた。しかし、今回の研究はどのような仕事やスキルが大都市と小都市で必要とされているかを特定したものであり、執筆者は米国のさまざまな都市がテクノロジーによる失業の影響を受けやすい、あるいは受けにくい理由を最初に説明したと主張している(論文では「大都市」と「小都市」の定義付けはしていないが、人口が10万人を下回る都市ではより多くの影響を受けるだろう、と書かれている)。

論文によると、大都市には自動化の影響を受けにくいソフトウェア開発者や金融アナリストといった、判断や解釈、分析を伴う仕事が集中している。一方で、都市の規模が小さくなると、仕事はレジ係や飲食店の給仕などのルーティン・ワークに偏るため、自動化の影響を受けやすいという。

自動化が米国各都市の職業にどのような影響を及ぼすかを予測したインタラクティブな地図。

 

自動化の影響を最も受けにくいとされている米国の大都市圏は、カリフォルニア州のサンノゼ/サニーベール/サンタクララ、ワシントンD.C.とバージニア州のアーリントン/アレクサンドリア、ニュージャージー州のトレントン、マサチューセッツ州のボストン/ケンブリッジ、ノースカロライナ州のダーラム/チャペルヒルの5つだ。これらの地域ではすべて、高いスキルの必要な技術職や管理職、中でもテクノロジー関連の仕事が多くを占めている。一方、自動化の影響を最も受けやすいとされている都市圏は、サウスカロライナ州のマートルビーチ、インディアナ州のエルクハート、フロリダ州のプンタ・ゴーダなどだ。これらの地域は、農業や観光などの産業に頼っているため、すでにテクノロジーによって職が奪われ始めており、こうした状況はおそらく続くとされている。

「大都市はクリエイティブな人や高度な技術力を持つ人との間で相乗効果を生む機会が大いにあります。だから、そうした人々が集まってくるのです」と説明するのは論文を執筆したMITメディアラボのイヤッド・ラーワン准教授だ。「一方で、大都市ではレジ係や給仕の仕事が小都市に比べて忙しいので、街の規模の割にはレジ係や給仕といった仕事に就く人が少ないのです」。ラーワン准教授によると、結果として大都市には自動化されやすいルーティン・ワーク職が少なくなり、自動化の影響を受けにくい技術職や管理職が比較的多くなるという。

もちろん例外もある。ジョージア州のワーナーロビンズ、ニューヨーク州のイサカ、オレゴン州のコーバリスだ。これらの都市の人口はどれも7万5000人以下だが、自動化の影響を受けにくいと考えられる地域のトップ15位に入っている。論文の共著者であるMITメディアラボの研究者モーガン・フランクによると、これらの都市は自動化の価値を跳ね返す力が驚くほどあるという。空軍基地、コーネル大学、HP研究所といった卓越した技術を持つ労働者を雇用する大規模な機関を抱えているからだ。

この論文は、ここのところ注目を浴びた自動化と雇用に関する経済分析と比較されるだろう。2013年のオックスフォード大学の論文では700種類以上もの職業において「コンピューター化」による影響を予測し、米国の雇用の47%が自動化の「危険性が高い」との見通しを明らかにした。2017年のMITの論文は1990年から2007年の期間、全米の通勤圏において、産業用ロボットの使用による製造業の雇用と賃金の減少を評価した。

メディアラボの論文は、絶対的な予測ではなく相対的な比較をしている点が違う。ラーワン准教授によると、メディア、芸術、科学の研究の融合を目指すメディアラボの学際的特質が研究手法に反映されているという。この論文では、2016年のOECDによる分析から得られた一連の予測とオックスフォード大学の論文と同じ雇用水準予測を用いている。しかし、メディアラボは、テクノロジーの普及による全米の失業者数を算出するのではなく、380都市の新しい仕事を探している人や費用の掛かる職業訓練なども考慮して、「予想される仕事への影響」の割合を提示している。また、2人の経済学の教授によって書かれた2017年の論文よりも、自動化について多面的な分析をする努力もしている。

「未来に起こる変化をいかに予測して対応するか、という疑問に対する答えを求めているのです。変化とはロボット工学に限ったことではありません。ブルーカラーだけでなくホワイトカラーの仕事まで奪ってしまう機械学習、アルゴリズム、チャットボット、音声認識などによる変化も含んでいます」とラーワン准教授は述べている。

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ナネット・バーンズと一緒にMIT Technology Reviewのビジネスレポートの管理、執筆、編集をしています。ビジネス分野ではさまざまな動きがありますが、特に関心があるのは無線通信とIoT、革新的なスタートアップとそのマネタイズ戦略、製造業の将来です。 アジア版タイム誌からキャリアを重ねて、ビジネスウィーク誌とフォーブス誌にも在籍していました。最近では、共著でオライリーメディアから日雇い労働市場に関するeブックを出したり、単著でも『スマートフォン産業の解剖』を2014年に執筆しました。
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