青銅器時代から今日のシリコン駆動型スマートフォンに至るまで、技術の大きな飛躍はほぼ例外なく材料科学の革新によって支えられてきた。しかし、特定用途に最適な材料を見出すことは容易ではない。何百万もの候補から実験可能な少数へと絞り込む従来のスクリーニング手法は、「干し草の山から針を探す」ような作業だと32歳のティアン・シエは言う。
マイクロソフト・リサーチ AIフォー・サイエンス(AI for Science)の主席研究マネージャーであるシエは、既知材料のデータベースを丹念に検索する代わりに、研究者が必要とする特性をAIモデルに直接指定し、最適な材料を見つけ出す、あるいは生成させることはできないかと考えた。
彼の開発した「MatterGen(マタージェン)」は、その発想を実現する試みである。2つの大規模データベースから収集した60万件以上の安定材料と関連する量子化学データを用いて学習したこのモデルは、化学的、機械的、電子的、磁気的特性など、研究者が求める性能条件を入力できる。画像生成AIがランダムなノイズから一貫した画像を生成するのと同様に、MatterGenはランダムな原子構造から出発する拡散モデルである。原子種、位置、結晶格子構造を段階的に最適化しながら、材料の最小繰り返し単位である「単位格子」を洗練させ、最終的に所望の特性を満たす安定材料のレシピ(設計指針)を出力する。
大規模な学習データと、特定機能に優れた材料の特徴を抽出する能力により、MatterGenは特に高磁気密度や超高硬度といった極端な特性を持つ材料設計に強みを示す。今後の重要課題は、デジタル上の設計を実験室で実際に合成・検証できることを示すこと、そして結果的に得られる材料が期待どおりに機能することを示すことだ。新材料創出を目指す他のAIモデルの多くは、理論上の候補を大量に生成できても、実用的成果に結びつけるのに苦労している。
初期検証は有望である。MatterGenが提案したある材料は、圧縮強度がモデル予測値の20%以内に収まり、実験的検証としては良好な精度だとシエは説明する。現在、チームは外部パートナーと協力し、さらなる候補材料の合成と性能評価を進めている。
オープンソースとして公開されているMatterGenについて、シエは材料探索を大幅に加速する基盤技術になると考えている。期待されるのは、電気自動車向け高性能バッテリーや持続可能エネルギー貯蔵用燃料電池といった用途だ。次の材料革新を偶然に発見するのではなく、必要に応じて設計できる時代が到来するかもしれない。
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