KADOKAWA Technology Review
×
無料の会員登録で、記事閲覧数が増えます
2017年、世界を変えるテクノロジー10:自動運転トラック
10 Breakthrough Technologies 2017: Driverless Trucks

自動運転トラック

米国の幹線道路では、じきに運転席に人がないトラックを目にするようになるだろう。巨大なトラックは制御が難しく、現時点では、自律運転の実用化で1700万人のトラック・ドライバーの職が奪われるとはいえない。 実現時期: 5~10年 by David H. Freedman2017.02.24

ローマン・マグリエフが18輪の長距離トラックでテキサス州の2車線の幹線道路を走っていたとき、わずか数十m先の対向車が自分側の車線に入ってくるのが見えた。右側は側溝で、左側車線には他の対向車が走っていたため、クラクションを鳴らしてブレーキを踏む以外になかった。「運転を教えてくれた人の声が蘇りました。いつも『誰も傷つけないこと』それが第一のルールだといわれていたのです」とマグリエフは当時を思い出していった。

だが「誰も傷つけ」ずには済まなかった。走行車線を誤った車は、マグリエフのトラックに正面から突っ込んで前輪部を破損した。マグリエフは道路を猛スピードで突っ切りながら、自分のトラックと大破してトラックにめり込んでいる相手の車が他の人をひかないよう、必死で車体を制御しようとした。ようやく停車にさせた後、対向車を運転していた女性が衝突で亡くなっているとわかった。

コンピューターなら、もっとマシなハンドル操作ができただろうか? それとも事態を悪化させただけだろうか?

現在、複数の企業が自動運転トラックを試験中だから、答えはあと数年で明らかになりそうだ。未解決の技術的課題も多いが、開発支持派は、自動運転トラックは低コストで、安全性が高まるという。ドライバー歴40年のベテラン、グレッグ・マーフィーは「自分より自律システムの方が、運転が上手いこともよくありますよ」 という。マーフィーは今、自動運転トラックを開発するサンフランシスコの企業、オットーの試験走行で、安全補助ドライバーとして関わっている。

自動運転トラックがもたらす可能性と課題は、一見すると自律走行車全般と同じに思える。しかし、トラックは単に車両が長いだけではない。まず、自律トラックには経済性の面で、無人乗用車よりも明確な合理性がある。自律トラックは幹線道路の長距離走行中、車間距離を調整し、密集した隊列で走ることで風の抵抗が減り、燃料を節約できるのだ。また、行程の一部に自律走行を取り入れることで、トイレ休憩などがなくなり、輸送時間を短縮できる。

しかし、自律トラックが抱える技術的課題は、一般的な自律走行車よりもっと困難だ。オットーなどの企業は 、センサーとプログラムが、長距離トラック・ドライバーの状況認識能力(路面状態の悪さや予想のつかない行動を起こす他のドライバーに対処しながら、ホンダ・アコード25台分の車体重量がある不安定で怪物じみた車を操る長年の訓練と経験によって磨きをかけた技能)と同等の技能があることを実証しなければならない。

おそらく最も重要なのは、自動運転トラックが本格的に普及すれば、自律走行車より、さらに激しい論争の的になることだ。すでに政治経済の各分野で、自動化の脅威がそれぞれの職業に大きな影響を与えている時代(「アメリカ経済はAIとロボットで再び偉大になるか?」参照)に、

自動運転トラックは途方もない数のブルー・カラー労働者を巻き込むことになる。労働統計局によると、 米国では1700万人がトラック輸送業に従事している。テクノロジーがトラック・ドライバーに置き換わるにはまだ時間がかかるが、自律トラックがトラック輸送という職業を根本から変えてしまうとき、変化が必ずしも全員に歓迎されないことは、ほぼ間違いない。

「待っているわけにはいかない」

以前は衰退していたサンフランシスコのサウス・オブ・マーケット地区にあるオットーの本社は、この一帯をすっかり変えてしまった他のテック系スタートアップ企業の多くとは異なる雰囲気だ。近隣の企業がオフィスを華やかに改装するのを横目に、堂々と無関心を決め込んでいるオットーの本社は、家具倉庫だった場所をほとんどそのまま整備場と機械工場に変えただけの状態だ。さまざまに解体された状態のセミトレーラー・トラックが、工具とコンピューターだらけの作業台の向こうに置かれている。「ここは派手で華麗なオフィスじゃありません」と得意げにいうのは、オットーのエリック・バルディニス製品マネージャーだ。

若く整った身なりのバルディニス製品マネージャーが取材時に公開したテクノロジーは、急速に進歩する自動運転ソフトウェアの最新世代で、現在は提携先のボルボのセミトレーラーに搭載されている。昨年の試験走行では雑な外観のハードウエアをボルトで締めて取り付けていたが、新バージョンでは、オットーのセンサーと処理装置がボルボの運転台全体に滑らかに一体化されていた。装置は、4つの前方ビデオカメラとレーダー、「ミサイル誘導用の品質に達したと政府のお墨付きをもらえるのに近いレベル」とバルディニス製品マネージャーが胸を張る加速度計ボックスで構成される。

オットーのテクノロジーで特に重要なのは、パルス状のレーザーでトラック周囲の詳細なデータを収集するライダー・システムだ。サードパーティー製ライダー・ボックスを購入すると1個およそ10万ドルかかるが、オットーのチームは1万ドル以下で自社製のライダーを設計した。

運転台にあるオーブントースターの大きさほどの特別製・超小型・水冷スーパー・コンピューターは、この小さなパッケージに詰め込んだものとしては史上最強のコンピューティング・パワーを発揮する、とバルディニス製品マネージャーはいう。コンピューターの役割は、センサーから流れ込む大量のデータを処理し、トラックの積荷に応じてブレーキとハンドルの操作指令を調節する誘導アルゴリズムに処理させることだ。数々のハードウエアの最後に説明されたのは「ドライブ・バイ・ワイヤ」のボックスで、コンピューターの出力を物理的なトラックの制御信号に変換する。トラックの機械的ステアリングやアクセル、ブレーキシステムに取り付けた電磁アクチュエーターでトラックを制御するのだ。運転台にあるふたつの「大きな赤いボタン」は、緊急時に全ての自動運転機能を自動車の制御から切り離すためにある。だが「ビッグ・レッド・ボタン」がなくても、運転席にいる人が緊急のハンドル操作をしたりペダルを強く踏んだりすれば、人間に制御を移すようにシステムは設計されている。

2016年前半にオットーを設立したのは、グーグルの自動運転車計画に参画していたアンソニー・レバンダウスキーとグーグル・マップのリーダーだったリア・ロン、その他の2人だ。グーグルの自律自動車が米国の複数の州で320万km …

こちらは会員限定の記事です。
無料登録すると1カ月10本までご利用いただけます。
こちらは有料会員限定の記事です。
有料会員になると制限なしにご利用いただけます。
ザ・デイリー重要なテクノロジーとイノベーションのニュースを平日毎日お届けします。
公式アカウント