KADOKAWA Technology Review
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2017年版
ブレークスルー・テクノロジー10
360度自撮り
10 Breakthrough Technologies 2017: The 360-Degree Selfie

360度自撮り

360度カメラが全世界の出荷台数でカメラ全体に占める割合は、昨年の1%から今年は4%に伸びそうだ。研究や娯楽、報道にまで活用されそうで、360度映像に視聴者が慣れれば、VR産業の立ち上がりにもつながる。 実現時期: 実現済み by Elizabeth Woyke2017.02.23

コーエン・ハフケンスは四季の移り変わりによる植物の変化に関心がある。そのため、昨秋、ハーバード大学の環境研究者であるハフケンスはVirtualForest.ioというWebサイトにマサチューセッツの森から画像を継続的に放送するシステムを作り出した。ハフケンスはシステムに360度の画像を撮影できるカメラを使っているため、このWebサイトの訪問者は、単にフィードを見る以上の体験ができる。(パソコンなら)マウス・カーソル、(スマートフォンやタブレットなら)指でイメージをぐるりと回転させたり、森の樹々を見上げたり、地面を見下ろしたりできるのだ。また、もし実質現実(VR)ゴーグルを装着して、こうした画像を眺めれば、首を回すことで写真が回転し、あたかも自身が森の中にいるような錯覚感がさらに高まるだろう。

VirtualForest.io」により、ニュー・イングランドで気候変動がどのように木々の葉の発育に影響を与えるかを記録できる、とハフケンス研究員はいう。総費用? 撮影用の350ドルのリコーTheta Sカメラを含めて約550ドルだ。

今では誰もがそれなりの360カメラを500ドル以下で購入し、数分以内に映像を撮影し、フェイスブックやYouTubeに動画をアップロードできる。ほとんどのアマチュア360コンテンツはぼやけた感じで、水平方向では360度捉えていても、垂直方向では捉え切れていない場合がある。しかもアマチュアが撮影したコンテンツのほとんどはつまらない(たとえ天球的視野であっても、他人の休暇の光景を見るのは、標準モードで撮影された動画と同様、退屈だ)。しかしユーザーが撮影した360写真や映像にも、秀逸な作品(たとえばバーチャルの森)があり、ある場所や出来事に対する視聴者の経験をより深めてくれる。

<b>ALLie Camera</b><br> It uses technology originally developed for the surveillance industry and can capture images in low light.
ALLie Camera
本来は監視業界向けに開発されたテクノロジーを駆使し、少ない光量であってもイメージを捉えられる

https://www.youtube.com/watch?v=x9T5K1D6nkc

私たちは視覚情報や音に囲まれ、世界を360度の空間として経験する。つい最近まで、このようなコンテクストを捉える写真や映像を撮影する方法は主にふたつあった。リグ(台座)で複数のカメラを捉える空間がやや重なるように、異なる角度で固定するか、最低1万ドルかけて特殊カメラを買うかのどちらかだ。実際の撮影工程も面倒で、通常は完成までに数日かかった。まずシーンごとに画像を撮影し、コンピューターに送る。高価で操作が複雑なソフトウェアと格闘し、画像をスムーズで切れ目の無い写真として繋ぎ合わせる。その後、ファイルを視聴者が簡単に見られる形式に変換する。

ニューヨーク・タイムズ紙ロイター通信のジャーナリストは、350ドルのサムスン ギア360(Samsung Gear 360)を使って、ハイチのハリケーン災害からガザの難民キャンプまで、あらゆる出来事を記録する天球型写真や映像を制作している。軍事組織ボコ・ハラムから逃げるナイジェリアの人々を捉えたニューヨーク・タイムズ紙の映像を観る者は、救援組織から食料を受け取る人ごみの真っ直中に放り出されることになる。このシーンはひとりの男がピックアップ・トラックから荷物の詰まった袋を放り投げ、それが地面にどさっと音を立てて落ちるところから始まる。ここで視聴者が振り向くと、食料を求めてやって来た人々の群れと、食料を運ぶために作られた間に合わせのカートが目に入ってくる。360フォーマットはかなり説得力があるため、今後これがニュースで報道される生映像の新たな標準になるかもしれない。ツイッターは「Periscope」アプリでライブ天球型ビデオを利用可能にし、この流れを加速させようとしている。

<b>Kodak Pixpro SP360 4k</b><br> It can be mounted on a drone to produce aerial 360° videos.
コダックPixpro SP360 4k
ドローンに取り付ければ、360度の空中映像が撮影できる

https://www.youtube.com/watch?v=ChBPvB3KZMY

ロサンジェルスのスタートアップ企業ギブリブ(Giblib)が制作した、医学生が手術について学べる医療工程の天球型映像もある。ギブリブは野球ボールサイズ、500ドルの360fly 4Kカメラを患者の上の手術用ライトに取り付け、外科手術を撮影している。360映像により、医学生は単に外科医や手術そのものの様子だけでなく、治療室がどのように運用されているか、手術室のスタッフがどう連携して動くかを体験できるのだ。

一方、コダックのPixpro SP360 4K(450ドル)等、比較的安価な360カメラは、プロや大学チームの練習で、バスケットボールのバックボード、サッカー場、ホッケー・ネットといった場所に置かれる様子を目にするようになった。360度カメラで撮影された映像で、選手は従来のサイドラインやエンド・ゾーン映像では見られなかった形で、自分の動きを確認し、試合に備えられるようになった、とコーチたちは話している。

部品分野での技術革新

360度撮影と視聴が可能になったのは、スマホが急速に普及し、多数のレンズやセンサーで捉えた画像を組み合わせる複数のテクノロジー分野でイノベーションが起きたからだ。たとえば360カメラには通常のカメラより高い処理能力が求められ、発熱量が大きくなる。しかしこの問題は、スマホのCPUとして使われるエネルギー効率の高いチップを使うことで解決された。360flyと499ドルのALLieカメラはいずれもクアルコム製「Snapdragon」プロセッサーを採用しているが、サムスン製スマホのハイエンドモデルに使われているCPUと同等の性能がある。

<b>360Fly 4K</b><br> Dustproof and water-resistant, it’s often used to record extreme sports.
360Fly 4K
防塵・防水性能があり、極限スポーツの撮影に利用されることが多い

https://www.youtube.com/watch?v=jl4X_NpBF2g

カメラメーカー側も、近年スマホメーカーが本体の画像処理性能を強化し続けているので、得をしている部分がある。スマホ市場が急成長を遂げたため、ソニーなどの部品メーカーは、イメージセンサーを小型化し、光度が不足していても高解像度と高性能が両立できる部品を提供できるようになった。 360カメラのメーカーは、購入しやすい500ドル以下の価格で製品を提供できるようになったのだ。「1000ドルでなく、わずか1ドルのセンサーが登場したのは、スマホの部品として使われているからです。このスケールメリットはすごく大きいです」と360カメラのスタートアップ企業スフェリカムのジェフリー・マーチン最高経営責任者(CEO)はいう。 光学分野での技術発展も寄与している。視野角がかなり狭い従来型のカメラとは異なり、360カメラには大型の魚眼レンズが搭載されているが、この手のレンズは、さまざまなポイントで画像を調整しピントを合わせるため、特殊な光学技術が必要だ。

360度自撮り
  1. ブレークスルー 360度画像が撮影できる一般消費者向けのカメラの登場で、イベント会場などの雰囲気が、臨場感を持って味わえるようになった
  2. なぜ重要か 360度の視点で撮影される静止画や動画が、ニュース取材から休暇中の個人的な撮影まで、あらゆる場面を撮る際の新しいスタンダードになる可能性
  3. キー・プレーヤー  リコー、サムスン 、360fly、JK イメージング(Kodak Pixproデジタルカメラの製造元)、 IC Real Tech(ALLieカメラの製造元)、ヒューマンアイズ・テクノロジー
  4. 実現時期 実現済み

ほとんどの360カメラには、ディスプレイやビューファインダーが付いていない。その代わり、メーカーはアプリを開発して、試用中のスマホにダウンロードしてもらい、画像を編集したり、出来上がった絵をスマホ画面上で確認したりできるようになっている。カメラはアプリと無線でつながり、アプリはスマホから直接、写真や映像をフェイスブックやYouTubeにアップロードできる。配信サイト側も、この1年でユーザーが撮影した360コンテンツを投稿できるだけでなく、360映像を生中継できるようにシステムをアップグレードしてきた。

360コンテンツの制作には複数の画像を合成する必要があるため、撮影現場から生中継するには飛躍的な技術の進歩が必要だ。コンピューター・ビジョン・アルゴリズムにより、画像合成処理作業が簡素化され、 カメラ単体でできるようになった。そのため、ほとんど遅延を感じさせずに映像を生中継できるようになったのだ(ほとんどの一般消費者向けカメラはレンズが2個しかないので、映像のつなぎ目はひとつしかない。プロ向けのカメラには6個から24個ものレンズが付いている)。 ALLieカメラは映像合成が素早く、生中継をサポートしている。近日発売のリコー製Ricoh R Development Kit Camera や、KodakのOrbit360 4Kにも同様の機能が付いており、年内に500ドルで発売される。

<b>Ricoh Theta S</b><br> Ricoh put the image sensors on the camera’s sides instead of behind its lenses, making its thin shape possible.
Ricoh Theta S
リコーはイメージセンサーを、レンズ裏ではなくカメラの側面に配置することで、ここまでの薄型化に成功した

https://www.youtube.com/watch?v=Mnf15KwPV-Q

360度カメラは、2016年には全世界の民生用カメラ市場の出荷台数で1%を占めるだけだったが、2017年には4%に達する勢いだ(出典:調査会社フューチャーソース・コンサルティング)。360度カメラの人気が高まることで、カメラメーカーだけでなく実質現実産業にもメリットがある。360度映像を見るのに特別なVR装置は必要ない。YouTubeによると、グーグル製カードボードやデイドリーム等、VRゴーグルにスマホを装着し、スマホ画面で映像を見る人が多くなると思われるのだ。360カメラ を試しに使ってみる人が増えることは、VRで人々が鑑賞できるコンテンツが増えることになる。

実際、フェイスブックの子会社オキュラス VRのジョン・カーマック最高技術責任者(CTO)の予測によると、人々がVRを使う時間で、ゲームが占める割合は50%を切ることになるという。その代わり結婚式にVRで出席するといった用途でVRゴーグルを利用するようになりそうだ。

<b>Samsung Gear 360</b><br> Samsung has given these cameras to <i>New York Times</i> and Reuters journalists who are producing 360° news coverage.
サムスン ギア360(Samsung Gear 360)
サムスンがニューヨーク・タイムズ紙やロイター通信に提供したギア360で、ジャーナリストは360度撮影でニュースを取材している

https://www.youtube.com/watch?v=9xn8oB8o2Jc

研究結果によると、人は360度映像を1回見てしまうと、映像の見方をすぐに変えてしまうようだ。 3Dの360度映像を撮れる800ドルカメラを開発中のヒューマンアイズによると、約10時間360コンテンツに触れただけで、人は直感的に、全ての映像に対して立体感を求めるようになるという。真の臨場感を得られる360画像に触れてしまうと、ますます立体感を求めるようになるのだ。

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エリザベス ウォイキ [Elizabeth Woyke]米国版 ビジネス担当編集者
ナネット・バーンズと一緒にMIT Technology Reviewのビジネスレポートの管理、執筆、編集をしています。ビジネス分野ではさまざまな動きがありますが、特に関心があるのは無線通信とIoT、革新的なスタートアップとそのマネタイズ戦略、製造業の将来です。 アジア版タイム誌からキャリアを重ねて、ビジネスウィーク誌とフォーブス誌にも在籍していました。最近では、共著でオライリーメディアから日雇い労働市場に関するeブックを出したり、単著でも『スマートフォン産業の解剖』を2014年に執筆しました。
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