KADOKAWA Technology Review
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Uber Is Betting We’ll See Driverless 18-Wheelers Before Taxis

タクシーより自律トラック
ウーバーが試験走行中

サンフランシスコのベイエリアでは、24時間、ウーバーの自律トラックが試験走行中。 by Tom Simonite2016.09.08

サンフランシスコにあるボロボロの倉庫で、配車サービス大手のウーバーが、あるシステムの開発に取り組んでいる。ウーバーは、そのシステムが、自律自動車の収益化競争を勝ち抜く近道になると考えている。倉庫があるのは、テクノロジー関連のスタートアップがひしめく、サンフランシスコのサウス・オブ・マーケット(通称:SoMa)地区。ボルボ製の白い改造トラックが6台、隊列を組んでレンガ造りの建物から出ていく。昼夜を問わず、常に1台以上のトラックが、ベイエリアの高速道路を自動運転で試験走行中だ。

6台のトラックには、レーダーとカメラ、ライダー(LiDER:レーザーを使った3次元位置計測システム)が、車両の天井とフェンダー部分に取り付けられている。トラックを改造したオットー(ウーバーが8月に買収したスタートアップ)の研究開発チームは、データとテクノロジーをウーバーの研究グループ(ピッツバーグで、乗客を運ぶ自律自動車タクシーを研究中)と共有している。しかしオットーは、配車サービスを専門とするウーバーに買収された今もなお、トラックに搭載するコンピューターの「副操縦士」システムを作る当初の事業計画にこだわっている。このシステムがあれば、トラックドライバーは、高速道路で睡眠を取りながら長距離走行できる。高速道路から一般道に降りる時間になったら(あるいは、ドライバーが運転を再開すべき場合は)、トラックは路肩に寄って停車する。

オットーの創業者の主張によれば、輸送・交通手段としてのトラックは、このシステムによってより安全で効率的になり、ウーバーの新たな収入源になるはずだ。また、研究範囲を、トラックと高速道路走行中の自動運転に絞ることで、自律型移動手段による収益化を実現する考えだ。実際、オットーの収益化見通しは、アルファベット(グーグル)など、ロボットタクシーサービスを実現するために乗用車型の自律自動車の開発に取り組んでいる他企業よりずっと早い。フォード、ウーバー、BMWの各社は、5年以内に自動タクシーサービスを展開する準備が整う、としているが、専門家の予測では、都市部での運転には困難が伴うため、自動タクシーの実現は安全が確保された狭い範囲に留まりそうだ。

オットーの共同創業者リオール・ロン(Googleマップのプロジェクトを5年間にわたって率いていた)は、「(倉庫地区でトラックを走らせる状況に限ってみても)運転の自動化は非常に難しい問題です。ただ、テクノロジーの構成要素はすでにあり、(歩行者などが行き交う)街中での運転よりはずっとシンプルなのです。遠い先にではなく、近いうちに、自律化が実現した様子をお見せできますよ。そうして、業界に対して、自動運転による収益化への道を示すのです」という。

高速道路でのトラック運転に絞って自動化を進めれば、横断歩道や四叉路など、都市部の路上にある問題(予測できないヒト、モノの進入、社会的な判断を求められる状況)をソフトウェアに学習させる必要がなくなる。また、自律型移動手段の拠り所となる、詳細な3次元マップを構築する作業も簡単で済む。マッピングが必要な道路の数が少なく(細かい通りを省略し、高速道路だけをマッピングすればよい)、しかも高速道路は都市部の道に比べて、構造がシンプルだからだ。

ロンはまた、巨大な商業用トラックを対象とする場合には、普通乗用車に比べ、コストの削減や、センサーのサイズ縮小をそれほど気にかけずに済むともいう。オットーのシステムでは、自動運転の終了時、人間に運転を引き継いでくれるように頼むより前に、まず、トラックを路肩(おそらくは、所定の休憩エリア)に停めることになっている。オットーは、こうした仕組みを採用することで、自動運転の終了時に、人間の引き継ぎ準備がまだ整っていない場合のリスクを回避している。専門家の話では、部分的な自動化システム(テスラのオートパイロット機能など)はいい考えには思えない

ロンは、アンソニー・レバンドウスキー(グーグルの自律運転自動車プロジェクトを立ち上げた人物)、さらに2人のグーグル出身エンジニアとともに今年1月オットーを創業した。今や、オットーには100人近くの従業員がいて、創業メンバー以外にも、グーグルの自動運転プロジェクトに関わってきたベテランエンジニアが加わった。そのうち20人近くは、オットーのソフトウェアに問題が起きたとき、すぐに運転を代われるように、試験走行中にトラックの運転席に座る、セーフティー・ドライバーを務めている。

カリフォルニア大学バークレー校のスティーヴン・シュラドーヴァー研究員(専門は自動運転)によれば、オットーの戦略は、乗用車の自動運転化プロジェクトが直面する課題のうち、いくつかを解消できるが、別の問題も生じるという。

「40トントラックが制御を失って急ターンするような、ソフトウェアのバグが起こったとしましょう。その結果生じる事故は、2トン車に同じようなバグがあった場合の事故よりも、ずっとひどく、一般市民は恐ろしく感じるでしょう。安全規制の担う行政を監視するのは、一般市民に選ばれる州議会議員なのです」。

ウーバーは、タクシーの取り締まりを無視したり、敵に回したりすることで知られている。しかし、ロンは、オットーの開発計画では、各段階において州政府や米国連邦政府の道路交通安全当局と密接に協力していきたい、という。すでに、いくつかの州(ネバタ州など)から、州道での試験走行の誘致を受けているという。

オットーのトラックは、すでに、公共の高速道路で数万kmもの自動運転実績がある。また、サンフランシスコのベイエリアにある実験場で、障害物や痛んだ路面などの課題にパスしている。

オットーは、年末までに、運送会社のトラックに自律運転用の装備を取り付け、実際の走行ルートでテクノロジーのテストと改良をしたい、とロンは話している。ロンは、こうしたパートナーシップにより、最終的に事業化を後押しするデータが得られると見ている。オットーのテクノロジーが、普通のトラックドライバーよりも安全運転に長けており、実用化を許可されるべきと示すデータが得られる、と見込んでいる。

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MIT Technology Reviewのサンフランシスコ支局長。アルゴリズムやインターネット、人間とコンピューターのインタラクションまで、ポテトチップスを頬ばりながら楽しんでいます。主に取材するのはシリコンバレー発の新しい考え方で、巨大なテック企業でもスタートアップでも大学の研究でも、どこで生まれたかは関係ありません。イギリスの小さな古い町生まれで、ケンブリッジ大学を卒業後、インペリアルカレッジロンドンを経て、ニュー・サイエンティスト誌でテクノロジーニュースの執筆と編集に5年間関わたった後、アメリカの西海岸にたどり着きました。
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