Andreas Puschnik アンドレアス・プシュニク (31)
ウイルス性疾患の普遍的な治療法を模索する研究者のおかげで、人類は次のパンデミックに備えられるかもしれない。
ジカ熱、エボラ、SARS、デング熱、それに新型コロナウイルス感染症(COVID-19)。恐ろしい性質を持つこれらの疾患を引き起こすウイルスは、本当の意味で生きているわけではない。ウイルスが増殖するには、細胞を乗っ取り、その構成要素を利用してより多くのウイルスを生成する必要がある。
アンドレアス・プシュニクは、ウイルスがどの生体分子に依存しているかを理解することが、幅広く作用する新種の抗ウイルス薬につながる可能性があると考えている。「ウイルスは、それ自体が薬剤の標的となり得る特定の細胞経路に依存している、という考え方です」とプシュニクは言う。
ドイツ生まれの研究者であるプシュニクは、製薬会社は通常、ウイルス自体の分子成分に結合して、無力化するように設計された化学物質で病原体を排除しようとしていると説明する。このような「1つの病原に、1つの薬剤」というソリューションの効果は絶大である(例えば、抗HIV薬)。問題は、それぞれの薬剤を特別に設計しなければならないことだ。
製薬会社の考え方に対して、「宿主標的治療(host-directed therapeutics)」という代替手法が、開発の初期段階にある。プシュニクは遺伝子編集ツールのクリスパー(CRISPR)を使って、この手法の開発を加速化せた。マススクリーニングの手法において、彼はクリスパーを使い、フラスコの中で育てた数百万のヒト細胞に十万種類もの異なる遺伝子変異を与える。例えば、黄熱に感染しても生き残る細胞がその中にあれば、黄熱ウイルスの自己増殖に必要な分子経路を不活性化したことになる。
プシュニクはすでに、デング熱やジカ熱、西ナイル脳炎といった蚊媒介性フラビウイルスの自己増殖に必要な酵素や、自己増殖を阻止する薬剤の発見に貢献している。すべてのフラビウイルスは同じように作用することから、プシュニクはその薬剤が先に挙げた蚊媒介性の疾患に対する「普遍的治療法」になることを願っている。
2020年、カリフォルニア州がロックダウンを実施する中、生物学者のプシュニクは慈善団体のチャン・ザッカーバーグ・バイオハブ(Chan Zuckerberg Biohub)で研究を続けた。この新しい研究所で、プシュニクは初の科学フェローとして迎えられた。「ウイルス学者にとって、まだまだ忙しい日々が続きます」とプシュニクは語る。今後は、新型コロナウイルス感染症の原因となっているウイルスに着目する計画を立てている。もしかしたら、コロナウイルスを受け入れにくい性質に細胞を変える薬剤を、次のパンデミックまでに準備できるかもしれないと彼は考えている。「今はまだ存在すら知られていないウイルスも、治療できるようになるかもしれません」。
写真:David Vintiner
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| クレジット | David Vintiner |
| 著者 | MIT Technology Review編集部 [MIT Technology Review Editors] |
