KADOKAWA Technology Review
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コンピューティング
Vichhika Tep
35歳未満のイノベーター35人 2023コンピューティング
より環境に優しいチップから量子コンピューティングのブレークスルーまで、コンピューティング分野の新たな進展は多岐にわたる。

Bharath Kannan バラス・カナン (27)

所属: アトランティック・クォンタム(Atlantic Quantum)

従来の量子ビットよりもエラー率の少ないフラクソニウム型量子ビットを構築し、制御するための新しい回路を開発。他のタイプの量子コンピューターよりもシンプルなハードウェアで制御できることも実証した。

バラス・カナンは、量子ビット(キュービット)と呼ばれる基本的な計算単位のエラー率を下げることで、量子コンピューターをより強力にする新たな方法を発見した。カナンは現在、自らが率いる企業であるアトランティック・クォンタム(Atlantic Quantum)で量子コンピューターの構築に取り組んでおり、暗号化、材料科学、機械学習の分野の発展に寄与したいと考えている。

量子コンピューターが非常に強力なのは、量子ビットが同時に複数の状態で存在できるため、新しいタイプの計算が可能になるからだ。しかし、量子ビットは非常に不安定でエラーが生じやすい。そのため、現実世界の問題に取り組むのに十分な性能を持つ量子コンピューターを作ろうとする企業は行き詰っている。計算を実行するために量子ビットを追加するごとに、そのエラーを打ち消すためだけに何千もの量子ビットが必要になる可能性があるからだ。残念ながら、この問題は直線的ではなく指数関数的に大きくなってしまうため、力任せで解決することは容易ではない。

カナンとアトランティック・クォンタムが取ったのはまったく異なるアプローチだ。より優れた量子ビットを作ることである。同社の開発した、いわゆるフラクソニウム型量子ビットは、トランズモン型量子ビットと呼ばれる他社の多くが使用するタイプよりもはるかに低い周波数で動作する。この低い周波数では、信号間の重なりが少ないため、干渉が少なく、エラーも少ない。

研究者たちは、約10年前からフラクソニウム型量子ビットについて認識していた。しかし、設計や構築が複雑であり、制御が難しいため、その利点が生かされることはなかった。

カナンは、低周波で動作する量子ビットを構築して制御するための新しい回路を開発することで、これらの課題を解決した。さらに、フラクソニウムを用いた量子コンピューターは、処理速度を犠牲にすることなく、よりゆっくりと動作するため、他のタイプの量子コンピューターよりもシンプルなハードウェアで制御できることも実証した。

(ラス・ジャスカリアン)

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