私たちの世界の多くは物理法則によって支配されている。重力もその1つであり、E=mc²もまたその例である。さらに、ニュートンの運動の三法則は、「静止している物体はそのまま静止し続ける」といった現象を説明している。
長年にわたり、物理学者たちはこれらの法則をコンピューター・シミュレーションに組み込み、天候や銀河形成といった現象を研究してきた。しかし、これらのシミュレーションを作成するには膨大な手作業が必要となる。
ここで、深層学習が役立つ可能性がある。大量のデータで訓練されたモデルは、パターンや関係性を素早く特定できる。しかし、多くの場合、人工知能(AI)は物理法則に反する結果を出してしまうことがある。
ローズ・ユー(34歳)は、「物理学を取り入れた深層学習(physics-guided deep learning)」分野をリードしている。これは、AIシステムに現実世界のルールを組み込むことを目指す新しい研究領域である。彼女は科学者たちと協力し、それぞれの研究に最も関連する物理法則を理解した上で、それに従うAIモデルを開発している。つまり、現実世界で起こり得るシナリオのみを生成するモデルを構築し、大規模な関連データでそれらを訓練するのだ。
ユーの手法は、実社会において多くの進展をもたらしてきた。カルフォルニア工科大学の博士研究員だった頃、ロサンゼルスの交通予測をより正確に実行するモデルを構築し、後にアルファベットがこの技術をグーグル・マップに導入した。さらに、新型コロナウイルスのパンデミック時には、米国の新型コロナウイルスによる死亡者数を予測するチームの共同リーダーを務め、その研究成果は米国疾病予防管理センター(CDC)のアルゴリズムにも組み込まれた。
最近では、気候モデルの解像度を向上させるために共同研究を実施している。特にユーのアルゴリズムは、ハリケーンやエルニーニョの理解に不可欠な乱流を記述するのに優れている。彼女によると、このシミュレーションの計算速度を3桁高速化したという。現在は核融合企業ジェネラル・アトミックス(General Atomics)などと提携し、核融合炉内部でプラズマがどのように振る舞うかをモデル化する3年間のプロジェクトに取り組んでいる。
プロジェクトの規模が拡大するにつれ、ユーは深層学習に関する新たな課題にも直面している。AIには膨大な訓練データと計算能力が必要であり、限られたデータセットで訓練されたモデルが、新たな問題に対して正確な答えを出せるかどうかを証明するのは困難である。
現在のところ、ユーはそれぞれの研究領域ごとに異なるモデルを訓練している。しかし、将来的にはこれらを統合し、あらゆる種類の問題に対応できる単一のモデルを開発したいと考えている。そうしたシステムが実現すれば、従来なら見つけることが難しかったパターンをAIが発見し、新たな物理法則を解明する手助けとなるかもしれない。
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