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リンフーは新しいアプローチを考案した。外部インターフェースを使って細胞の活動を測定するのではなく、ニューロン自身に、自らの活動を記録させる仕組みを作ることを試みたのだ。このために彼は、2種類のタンパク質を遺伝子操作で設計した。これらは「ティッカー・テープ(紙テープを用いた連続記録装置)」のように機能する。この遺伝子を細胞に導入すると、1つ目のタンパク質は連続的に増え続ける鎖を形成し、もう1つのタンパク質は、記憶形成に関与するような細胞活動が発生したときにのみ生成される。後に研究者がこのタンパク質のティッカー・テープを顕微鏡で観察することで、細胞の活動のタイムラインを解析できる。これは、科学者が樹木の年輪を調べて成長の履歴を読み取る方法と、同じような原理である。
リンフーはこの手法を、培養されたニューロンとマウスの脳の両方で試験している。現在はミシガン大学神経科学研究所のメンバーとともに、このデータのパターンを解析するために人工知能(AI)技術の導入を始めているところだ。
リンフーは、この技術が学習、記憶、意識といった高次脳機能がどのように生じるのかという、科学界における最大の謎の1つを解明する手助けになることを期待している。
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