
クリスティーナ・トリンギデス(31歳)は、新しいタイプの皮質脳波計(ECoG)を開発した。これは、脳腫瘍の摘出やてんかんの原因となる組織の除去などの外科手術中に、脳の電気活動を記録するための薄型デバイスである。このようなデバイスは、外科医が何を除去し、何を残すべきかを判断するのに役立つ。たとえば、腫瘍の切除時に組織を過剰に除去してしまうと、運動や言語機能を司る重要な脳組織まで損傷するリスクがある。
現在広く使われているECoGは、金属電極がプラスチック製のシートに取り付けられた構造をしている。しかし、脳は非常に柔らかいのに対し、従来のECoGは硬く、脳の表面になじみにくい。 トリンギデスはこの問題を「まるで豆腐の上にヘラを乗せたような状態」だと表現する。この不適合性により、測定精度が低下するだけでなく、脳神経に損傷を与えてしまう可能性がある。
この問題を解決するため、トリンギデスはハイドロゲル(高分子ゲル)に着目した。 ハイドロゲルは、液体と固体の性質を兼ね備えた材料であり、脳とよく似た柔軟な特性を持つ。彼女は、海藻に含まれるアルギン酸由来のハイドロゲルを改良し、脳の機械的特性に近い薄膜を作成することで、従来のデバイスでは難しかった脳の曲面に密着させることに成功した。次に、トリンギデスは、炭素ナノチューブとグラフェン薄片を用いた糸状の電極をこのデバイスに組み込んだ。どちらも導電性の高い炭素材料で、柔軟で伸縮性がある。
完成したプロトタイプは、ラットの脳活動を記録し、マッピングする実験で使われた。対象には聴覚を司る聴覚野が含まれ、この部位の測定にはデバイスが180度以上曲がる必要があった。
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